八木田杏子 09年12月20日放送
冬の音1 ドビュッシー
灰色のアスファルトを、
白く塗りつぶしていく雪に、
うんざりするのが大人。
うれしくなるのが子供。
踊るようにひらひらと舞い降りてくる
雪をみると、幼い心は舞い上がっていく。
子供の目をとりもどした
ドビュッシーが書きあげたピアノ小曲
「雪は踊る」は、大人を子供の世界へといざなう。
冬の音2 ヴィヴァルディ
冬の凍てつく寒さでさえ、
ヴィヴァルディには喜びだった。
春の甘さも、夏の清々しさも、秋の贅沢さもない、
冬の喜びを、彼は音楽にした。
冷たい雪と北風に凍える、第一楽章と第三楽章。
その間には、
暖炉のそばで安らかにすごす、第二楽章。
辛いときほど、人のやさしさが身にしみるように。
凍える季節だから味わえる、あたたかさがある。
冬の音3 ブラームス
人生にも四季があるとしたら。
ヨハネス・ブラームスは、58歳で冬を迎えた。
自らの衰えを感じ、遺書をつづった。
友人の支えで創作意欲をとりもどしても、
もう二度と、大曲を書くことはなかった。
生涯独身だったブラームスは、
姉のエリーゼを亡くすと、
山間にある小さな町イシュルで、
孤独のなかに沈んでいく。
そんな自分を慰めるように、
日記をつづるように書いていたピアノ小曲。
3つの間奏曲作品117。
楽譜には、ヘルダーの詩集からぬきだした言葉が記されていた。
眠れ安らかに、わが子よ、眠れ安らかにそして美しく!
お前が泣くのを見るにつけ、私は悲しい。
やるせない想いをかかえて眠れない自分自身を
抱きしめるようなこの曲は、大人のための子守唄。
人生の冬に、そっとよりそってくれる。
冬の音4 クリスマス・イブ
恋人とすごすクリスマス・イブを、
日本になじませた曲がある。
山下達郎の「クリスマス・イブ」。
会えない切なさをつづった歌詞は、
会いたい人のいる幸せを感じさせる。
クリスマス・イブの甘さも苦さも、
受けとめてくれるから、
その日を特別にしたくなる。
冬の音5 赤鼻のトナカイ
シカゴのデパートで
コピーライターをしていたロバート・メイは、
幼い娘の問いかけに、胸をつまらせる。
どうして私のママは、みんなと違うの?
癌におかされた母親の姿を見ていた娘が、
ふと口にした言葉だった。
そのとき、ロバート・メイは
赤鼻のトナカイの話を思いつく。
みんなと同じじゃなくても
しあわせになれる…
娘に即興で語った物語は、
勤めていたデパートの小冊子になり、
やがて歌になり、広まっていく。
たったひとりの娘に、
どうしても伝えたかったメッセージは、
世界中が待っていたものだった。
冬の音6 きよしこの夜
オーストリアのある村で
教会のオルガンが壊れてしまったとき、
ギターで演奏できるクリスマスソングがつくられた。
助任司祭モーアの詩に、
オルガン奏者グルーバーがメロディをつけた
「きよしこの夜」
まるで
天から舞い降りたクリスマスプレゼントのような
美しい曲になった。
冬の音7 ハッピークリスマス
自分が幸せなときじゃないと、
誰かの幸せなんて、願えない。
だからジョンレノンは、
みんなが幸せにつつまれるこのときに、
差別と戦争のない世界を願って、歌いかける。
そう、今日はクリスマス
そして何を僕らはした?