小宮由美子 10年07月31日放送
世界初のサーフィン専門雑誌『SURFER』を創刊した人物、
ジョン・セバーソン(John Severson)。
情報の少なかった時代に、雑誌は話題を呼び、
世界中のサーファーたちに支持された。
1971年に雑誌の版権を売却したあと、
ジョンは、サーフィンをしながら
家族と落ち着いて暮らせる地を探し、
世界各地を15年近くも旅し続けた。
ジョンは言う。
「どこへ旅してもサーフィンが言葉の代わりをしてくれた。
言葉が通じなくても、サーファー同士はハートが通じ合えるから
世界中に生涯の友達ができたよ」
ハワイのマウイ島。
彼はいま、やっと見つけた定住の地で波とともに生きている。
レル・サン(Rell Sun)。
女性プロサーファーのさきがけであり、
そのエレガントなサーフスタイルと美しい生き方から、
「クイーン・オブ・マカハ」と讃えられる伝説の人。
彼女は癌と診断され、余命一年に満たないと告げられても
サーフィンを辞めなかった。
初心者にはにこやかに波をゆずり、自由に、優雅に波に乗る。
立ち上がる体力がなくなってからもボディボードにつかまった。
海に入れば、いつだって笑顔を見せた。
彼女がよく口にしていたという言葉がある。
「ハワイのアロハ・スピリット。
それは、本当にシンプルなこと。
与えて、与えて、そして与える。
心から与え続けること。
何も、与えるものがなくなるまでね」
1967年のその日
ハワイ・ノースショアには荒波が押し寄せていた。
誰がこの巨大な波に乗るのか?
海の烈しさに、ただ立ち尽くすサーファーたち。
固唾を飲んで見守るギャラリー。そのビーチに降り立ったのが
エドワード・ライアン・マクア・ハナイ・アイカウ。
通称、エディ。
彼は、いつもと変わらぬ様子で沖へと向かい、
落ちれば命は助からない荒波の頂点から、一気にボードを滑らせた。
その姿は、踊るように優雅だったと伝えられる。
見事に波を乗り切ったエディの名は島中をかけめぐり、
やがて世界中のサーファーの耳に届いた。
その後、船の遭難事故によって33年の短い生涯を閉じた
エディだが、彼は今も「勇者の代名詞」。
大波にチャレンジするハワイアンサーファーたちの間で
語られる合言葉にも登場する。
“Eddie would go.”
エディなら行くぜ。
5階建てのビルほどの巨大な波を乗りこなす
ビッグウェイブ・サーファー、
レイアード・ハミルトン(Laird Hamilton)。
落ちれば命の危険すらある波の表面を、
彼はマッハ40のスピードで降りていく。
その超人的なパフォーマンスを見て
「あなたは恐れを知らない」と言った人に、
彼はこう返したという。
「僕にとって、恐怖は敵じゃない」
恐怖心があったからこそ僕は進歩してきた。」
人間が生まれながらに持つ恐怖心。
それをなくそうとするのではなく、むしろ
他人以上に持っていたい、というレイアード。
彼の「恐怖」には、海に対する畏敬の念も含まれる。
「ビッグウェイブに乗ったとき、
自分の内に広がるのは謙虚な気持ちだけ。
とても対抗できない力を目の当たりにして、
自分のちっぽけさを知る。
海はいつだって僕らにサインを送ってくるんだ。
常に、謙虚な気持ちを抱き続けるように、とね」
13年間にわたってワールドツアーをまわり
常に上位にランクインしてきたトップ・サーファー、
ロブ・マチャド(Rob Machado)。
ツアーを引退してから彼が夢中になったのは、
すべてのサーフボードの原型といわれる『アライア』に乗ることだった。
板きれにしか見えないこのシンプルなサーフボードは、
経験豊富なサーファーでも乗りこなすことが難しい。
そのことが、彼のチャレンジ精神をかきたてた。
「アライアに乗ることは、僕にとって素晴らしい経験になった。
自分をビギナーの気持ちに戻してくれたからね」
自分にできないことこそが、新しい世界の入り口になる。
できないからこそ、楽しみがある。
マチャドは、それを知っている。
「よく考えてみると、波に乗るなんて魔法みたいだ」
誰もが憧れる輝かしい経歴の持ち主でありながら、
彼は今も、そんなことを口にする。
挑戦する。そして、楽しむ。
サーフィンは、終わらない。
「決して水を怖がらず、
出来るだけ遠くへ行ってごらんなさい」
母は、幼い息子にそう言い聞かせていたという。
そして少年は、たぶん、そのとおりに従った。
のちのオリンピック水泳競技の金メダリスト。
サーフィンの魅力を世界に広め、
近代サーフィンの父と讃えられることにもなった
デューク・カハナモク(Duke Kahanamoku)。
彼の生涯は運命づけられたものだったのかもしれない。
海と出会う季節に。
パドルアウト。
サーフボードの上に腹這いになり、手で漕ぎながら
沖に向かっていくこと。
サーファーたちは、波に乗るために
このパドルアウトを繰り返す。
サーフィンの神様とまで言われるサーファー、
ジェリー・ロペス(Jerry Lopez)が、はじめての挑戦のときに
友人から贈られ、今も大切にしている言葉がある。
『悩むぐらいならとりあえずパドルアウトしてみろよ』
ジェリーは、自伝に記している。
サーフィンから学んだ多くのことは、サーフィンだけでなく、
人生についての教訓だ、と。
彼はその言葉を、今度は私たちに向けて贈ってくれる。
「次の一歩を踏み出すときや、
新しい世界や道を自分の前に開いていきたいけれど、
いまだに踏みとどまっているようなとき、
私が友からもらった言葉をぜひ思い出してほしい」
「悩むくらいならとりあえずパドルアウトしてみろよ」