‘藤本宗将’ タグのついている投稿

藤本宗将 20年8月8日放送



ヒゲと将軍

戦国の世において、
ヒゲは武士の強さの象徴だった。
ところが江戸幕府ができると
官僚化した武士にヒゲを剃る習慣が広がる。

荒っぽいヒゲは「傾奇者」と呼ばれる
アウトローたちのものとなり、取り締まりの対象に。
そして4代将軍・徳川家綱の代に
とうとう「大髭禁止令」が発令され、
ヒゲが一掃されるに至った。

確かにそれ以降の浮世絵を見ても
ヒゲを生やした者は見当たらない。
泰平の世ともに、ヒゲは居場所をなくしたのだ。

ただし、禁止令にも例外が。
長谷寺に残る家綱自身の肖像画には、
堂々たるヒゲが生えている。
武士のトップに許された特権だったのだろうか。

topへ

藤本宗将 20年3月21日放送



カウントダウンの話 ロケット

ロケットの打ち上げにおいて
初めてカウントダウンが採用されたのは、
実は映画の中だった。

それは1929年に制作された
SF映画『月世界の女』でのこと。

この映画の打ち上げシーンはとてもリアルで、
現実の宇宙開発にも影響を与えた。
カウントダウンもこの映画以後、
実際のロケット発射に使われるようになったのだ。

3、2、1、と秒読みが進むたび
高まっていく緊張感と期待感。
そして何より、来るべき一瞬に向けて
人々の気持ちがひとつになる。

カウントダウンが
さまざまなイベントにも広がったのは、
きっとそんな魅力によるのだろう。

topへ

藤本宗将 19年8月24日放送


SV01改
日本酒の多様性

日本酒のラベルを見ると、
精米歩合という数字が書かれている。

精米とは、酒の雑味をなくすために米粒の周囲を削り、
中心部の心白だけになるまで磨くこと。
大吟醸ともなると50%以下になる。

ついには昨年「0%」の日本酒まで登場した。
正確には0.85% なのだが、
精米歩合は小数点以下を切り捨てるため、0%表記となる。
かかった精米時間は5,297時間34分。
じつに7ヶ月を経てたどりついた究極の大吟醸酒だ。

ところがその一方で、
「低精米酒」というトレンドも生まれている。
大吟醸とは真逆の試みだ。
こちらは精米歩合96%というものまで現れた。
ほぼ玄米に近いが、これもまた旨い。

精米歩合の数字を競う時代は終わった。
日本酒の世界も「多様性の時代」なのだ。

topへ

藤本宗将 19年7月20日放送


Blue-MauMau
世界とハンバーガー

アメリカから世界に広まったハンバーガーは
グローバル経済の象徴であり、豊かさの指標でもあった。

たとえば経済専門誌『エコノミスト』によって
考案された「ビッグマック指数」は、
ある国の国内通貨価値を知るための
指標として利用されている。

もうひとつ変わったところでは、
トーマス・フリードマンが提唱した
「黄金のM型アーチ理論」というものがある。

ある国の経済が発展して、
マクドナルドのチェーン展開を
支えられるくらい中流階級が増えると、
もはやその国の国民は戦争をしたがらなくなる、という主張だ。

確かにフリードマンがこの理論を思いついたとき、
マクドナルドのある国同士が
戦争を行った例はひとつもなかった。
しかし後にコソボ紛争などが起こり、この理論は破綻する。

「国が豊かになれば戦争はなくなる」と言えるほど
世界は単純なものではなかったのだ。
ハンバーガーがすべての国を笑顔にする日は、
もうすこし先になりそうだ。

topへ

藤本宗将 19年6月22日放送


www.Stonehenge.News
夏至の話  イギリス

今日は、夏至。

太陽がいちばん高く昇るこの日は、
昔から神聖なものとして祝われてきた。

イギリスでも、夏至の日に
数万人が詰めかける場所がある。
それがストーンヘンジ。
中心にある祭壇石に朝日が差し込む光景を、
特別に遺跡の中で見ることができるのだ。

神々しい体験、と言いたいが
実際は日の出を待つあいだお祭り騒ぎ。
なかには泥酔して石を傷つける輩さえ現れる始末。
業を煮やした管理者側は
とうとう規制に乗り出した。

アルコール禁止。
寝袋禁止。
キャンプ禁止。

でも案外、古代人たちも
羽目を外して大騒ぎしていたのかも。

topへ

藤本宗将 19年5月11日放送


Ippukucho
温泉の話・川原毛大湯滝

秋田県湯沢市にある「川原毛地獄(かわらげじごく)」
かつては硫黄の採掘場があったところで、
岩肌の至る所から水蒸気や火山性ガスが噴き出している。
古くからの霊場でもあり、
草木も生えず荒涼としたその光景は
まさに地獄さながらだ。

そこから湧いた温泉は沢の水と合流し、
落差20mほどの滝となる。
その名も川原毛大湯滝(かわらげおおゆたき)。
巨大な滝そのものが温泉になっているというわけだ。

ちなみに入浴できるのは滝壺とその周辺だけ。
川原毛地獄に湧き出ている温泉は
高温で危険なためご注意を。
かつて湯沢市のホームページには
こんなおそろしい警告文があったそうだ。

「誤って足を入れたりすると、
生きながらにして地獄を体験することになります。」

topへ

藤本宗将 19年4月27日放送



平成よ、ありがとう。 「平成9年」

平成は「破綻」の時代でもあった。
上場企業の倒産は200件を超え、昭和の3倍のペース。

その象徴的な年が平成9年だ。
11月3日、三洋証券が破綻。
同じ月に北海道拓殖銀行・山一證券・徳陽シティ銀行が
連鎖するように破綻し、
多くの銀行で取りつけ騒ぎまで起きた。
護送船団方式によって守られてきた
「金融機関はつぶれない」という神話の崩壊だった。

以後さまざま々な改革が行われ、いまも模索は続く。
それは日本経済を鍛え直す過程だという
見方もできるかもしれない。

平成は失われた時代だったのか。
次の成長への準備期間だったのか。
それを決めるのは、これからを生きる私たちだ。

平成よ、ありがとう。
いよいよ、令和へ。

topへ

藤本宗将 19年3月9日放送



切手のはなし レコードの切手

切手といえば、
コレクションを楽しむ人たちも多い。
そのため世界には、コレクター目当てに発行された
変わり種切手もたくさん存在する。

有名なのが、ブータンのレコード切手。
1970年代に発行されたこの切手は直径10数cm。
ちゃんと溝も刻まれており、
プレーヤーにかけるとブータン国歌や
ブータンの歴史を語る音声を聴くことができる。

ちなみにさらなる音質を求めたのか、
2008年にはCDの切手も発行されている。

さらに時は流れ、
手紙も、音楽もデータになってしまった時代。
これから果たしてどんな変わり種切手が
生まれてくるのだろう。

topへ

藤本宗将 19年1月26日放送


preetamrai
発酵食品 豆腐餻と泡盛

沖縄独特の発酵食品といえば
「豆腐餻(とうふよう)」。
琉球王朝時代から代々伝えられてきた珍味で、
沖縄では泡盛を飲みながら、
箸や楊枝で少量ずつそいでゆっくり味わう。
その風味はエダムチーズのようだとも、
ウニのようだともいわれる。

つくりかたはシンプルで、島豆腐を
麹と塩、そして泡盛で漬けておくだけ。
麹菌による発酵に適した環境は
25~30℃の温度と高めの湿度だが、
それがまさに沖縄の気候というわけだ。

もちろん雑菌も増えやすい環境ではあるが、
そこで活躍するのが豆腐を漬ける泡盛。
高いアルコール度数で腐敗を防いでくれている。

泡盛があるから豆腐餻ができる。
豆腐餻があるから泡盛がうまい。
ふたつの発酵食品は、
沖縄が育んだ最高のコンビなのだ。

topへ

藤本宗将 18年10月27日放送

181027-03

文字の日「チェロキー語」

アメリカ先住民族のチェロキー族に、
シクウォイアという銀細工師がいた。

白人と交流があった彼は
「文字」という概念に触れ、感銘を受ける。
そしてめざしたのは、
文字を持たないチェロキー語の
読み書きを可能にすること。

苦労の末に完成したのが
85文字の「チェロキー文字」。

形はアルファベットやアラビア数字にも似ているが、
表す音はまったく違う。
シクウォイアは既存の文字を参考にしたが、
それらを理解することはできなかったためだ。

ひとりの力で民族に文字体系をもたらす。
後にも先にも例のない偉業である。

topへ


login