いいわけ
ストーリー 岩田純平
出演 森田成一
「仕事とわたし、どっちがたいせつなの?」
と、言われるくらいの完全な遅刻だった。
店に電話して遅れることは伝えた。
しかし、彼女の携帯がつながらない。
相当怒ってるのだろう。
僕はタクシーを拾い、
ユキコの待つレストランへ急ぐ。
待っていればの話だけど。
「仕事とわたし、どっちがたいせつなの?」
そう聞かれた時、僕はどう答えればいいのだろう。
僕はちょっと集中して考えはじめる。
「仕事だよ」
これはない。
でも、これをちょっとおしゃれに言ってみたら。
「ごめん、さっきまでは仕事だったんだ。
でも、いまはユキコだよ」
「ふーん、さっきまでは、やっぱり仕事だったんだ」
やっぱりダメだ。
問題をすり替えたらどうだろう。
「じゃあ、仕事しない俺と仕事する俺では、どっちがいいの」
「まずは、私の質問に答えてよ」
ごもっとも。
だったら素直に。
「どっちもたいせつなんだよ」
「私じゃないんだ。わかった。じゃあね」
引き分けは負けだ。
結局、答えはこれしかない。
「もちろん、ユキコだよ」
「じゃあ、何で約束守れないのよ。
何でわたしよりたいせつじゃない仕事を優先するの?何で?」
「何で」。それは仕事がたいせつだから。
ほとんど誘導尋問だ。
「仕事を優先したんじゃない、
ユキコを優先するために、仕事を途中で切り上げたんだ」
「私を優先するために?じゃあ何で遅刻してるの?
仕事を選んだからでしょ。知らない。帰る」
ダメだ。太刀打ちできない。
あ、そうか、
そもそも、この質問が出る状況を作らなければ…
というか、
そもそも、こういう質問をする人とつきあわなければ…
というか、
そもそも、彼女のどこが好きだったんだっけ?
というか。
シミュレーションもむなしく、
答えは見つからないまま、レストランに着いた。
急いでユキコを探す。
しかし、彼女の姿はなかった。
ユキコは、まだ来てなかったのだ。
「お連れさまも、遅れるとのご連絡をいただいております」
ふう、よかった・・。
あれ?僕は思った。
「仕事と僕、どっちがたいせつなの?」
彼女は何と答えるんだろう。
「そんなのくらべらんないよ」
……ですよね。
で、僕はきっと頭をかいたりしながら、
「変なこと聞いてごめんね」
とか謝ったりするんだ。
男と女は、不公平です。
でも、だから平和なんだろうな。
出演者情報:森田成一 03-3749-1791 青二プロダクション
動画制作:庄司輝秋