安藤隆 2010年8月8日



はじめの二人

ストーリー 安藤 隆
出演 森田成一

ママは毎日、僕を見て嘆くのだ。
「お前のその忌まわしい色は、治らないのかねえ」と。
魚である僕らは、首をのばして自分の体を見ることができない。
だから自分ではわからないけど、ママに言わせれば、
僕だけがとつぜん変な色で生まれたらしい。
仲間たちはこの池の環境と同じ色をしている。つまり泥水の灰色をしている。
それは調和のとれた上品な色で、
雄が、そこだけ白い雄大な腹を、泥の中で見せびらかすさまは、
とてもセクシーなのよ、とママは急に小声になる。
それなのにあんたの色ときたら! ママの遺伝と思われたらどうするの。
「だから外にはぜったい出ないで!」最後はいつもそれだった。
でも僕は言いつけを破って、こっそり外出していた。
仲間は僕を見ると避けた。あわれんだり、気味悪がったりした。
僕はほんとにひどいルックスらしい。

ある日、いつもより遠出をしたとき、
僕ははじめて、自分がどんな色をしているか知った。
泥水の暗がりから、とつぜん、金色に輝く仲間が現れた。
この色だ! とピンときた。
しかし、問題がふたつあった。ひとつはその色が、意外にきれいだったこと。
もうひとつは、その仲間というのが雌だったことだ。
僕らはこわごわ、お互いを眺めた。相手も、僕と同じことを考えているのがわかった。
「名前をきいてもいい?」
「ホンホンよ」
「赤い、という意味だね。僕はジンジン」
「金色という意味ね」
「君は、自分の体の色のことを、いろいろ言われた?」
「あなたも?」
お互い、話はそれで十分だった。僕には彼女の全部がわかったし、
彼女も僕の全部がわかっただろう。
 僕とホンホンはうれしくて毎日会うようになった。
交わす話も知らず知らず大胆になっていった。
「ホンホン、大きな声じゃ言えないけど、
どう見ても君の方が、仲間の娘よりきれいに思えるんだ」
そして僕は言った。
「ねえ、僕らは、僕らみたいな子供をいっぱい作るべきだと思わないか」
「いま何て言ったの?」
「僕らはこの村を出て、僕らたちの最初の二人として生きるべきだと、言った」
 その言葉は、思いがけず、すぐに実現されることになった。

僕らはたぶん少しはしゃぎすぎたのだろう。
金色に輝くカップルはとにかく目立つ。
ある日、村の長老から、醜いのがダブルでいるのは見るに耐えぬ、という理由で、
二人とも池の向こう側へ追放に処す、と告げられた。
長老の後ろからママが「だから外へ出るなと言ったでしょ!」と叫んだ。

僕は池の反対側へ泳ぎはじめた。反対側には人間が住んでいる。危険な場所だ。
「ホンホン、僕らはもともとこの村を出ようと言ったじゃないか。
 これで良かったんだ」
ホンホンの小さな泣き声がきこえた。
体型的に手では引っ張れないから、僕は先にたって泳ぐしかない。
後ろも振り向けないから、ホンホンがすぐあとについているかどうかわからない。
でもかすかに水を切る音が、後ろから聞こえる。彼女はいる…。
「やっぱり僕らは、僕らみたいな金色の子供を、いっぱい作ろうよ!」僕は言う。
ホンホンの返事はまだ聞こえないけど。

出演者情報:森田成一 03-3479-1791 青二プロダクション

*ライブのHPにも記事があります:http://www.01-radio.com/guild/2010/08/754
*たくさんのアクセスをありがとうございます。
 森田成一くん、応援twitter:http://twitter.com/edokko_dey


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