木戸寛行 2011年10月16日



ねじ               
         ストーリー 木戸寬行 a.k.a.ジェフ
            出演 地曵豪

ねじを外せ。
とても気持ちがいいから。
ねじを外せ。
ずっと深く深呼吸できるから。
ねじを外せ。
昨日までとは違う景色が広がるから。
ねじを外せ。
かけがえのない仲間に会えるから。
くるくるくるくる。
ねじを外せ。ねじを外せ。

僕ら生まれたてのベイビーの頃、ねじは外れっぱなしだった。
思うままに、欲するままに、やりたいように生きていた。
少し大きくなって、外に一歩を踏み出し、ねじを締めることを教わった。
もう少し大きくなって、学校に行くと、もっとねじを締めることを教わった。
さらに大きくなって、社会に出ると、もっともっとねじを締めることを教わった。

結局、僕らは、ねじを締めることしか教わらなかった訳だ。

少しでもねじを緩めると、
ワルガキと呼ばれ、
不良と陰口を叩かれ、
ならず者と指をさされ、
落伍者の刻印を押された。

だから、僕たちは、ずっとずっとずっと、ねじを締め続けてきた。
ぐるぐるぐるぐる。ぐるぐるぐるぐる。
ねじを締めることは、善であり、正しいことであり、
ねじを緩めることは、悪であり、間違ったことだと
ずっと刷り込まれてきた。

だから、僕たちは無意識に右回りにねじを廻してしまう。
まるで、暗示にかけられたように。
まるで、何かにとりつかれたように。
まるで、催眠術にかけられたように。
その行為は、やがて習慣になり、日常になり、常識となり、
ルールになり、暗黙の了解となる。
でも、いつまでねじを締め続ければいいのだろう?

ずっと締め続けてきたから、とっくにねじ山は残ってないのに。
きりきりきりきり。きりきりきりきり。
同じところで廻っているだけなのに。
がちがちがちがち。がちがちがちがち。
固く締め過ぎて動けなくなっているのに。

助けて!

だから、僕はある日、ねじを締めることをやめた。
そして、少しだけ勇気を出して、自分のねじを外しはじめることにした。
くるくるくるくる。人とは逆向きに、左にねじを廻しはじめた。
くるくるくるくる。社会はそれをドロップアウトと呼び、
僕はそれを革命と叫んだ。

ねじを外すとリラックスできた。
ねじを外すと深呼吸できた。
ねじを外すといろんな景色が見えてきた。
ねじを外すと同じくねじを外した楽しい仲間たちがたくさんできた。
そして、いつの日かを境にして、しがらみとか、束縛とか、不自由とか
そういう言葉から解放されて、
そういう言葉から無重力になっている自分に気づいた。
ふぅ、いい気持ちだ。あぁ、自由だ。

ねじを外せ。ねじを外せ。
くるくるくるくる。くるくるくるくる。
気持ちいい!楽しい!自由だ!
ドゥビドゥビドゥビドュビ!ドゥビドゥビドゥビドュビ!イヤッァホゥー!!
気持ちよくて、楽しくて、自由な日々が、長い間、続いた。
でも、しばらくすると心と体が、うずうずしてきた。

何かやりたい!何かはじめたい!

そこで、僕は僕のねじを外した場所へ行ってみた。
自分が掘り続けてきて、ぽっかりと大きく開いた深い穴を見ていると
今度は、別の穴をつくってみたくなってきた。

もう一度、ねじを締めてみるか!
くるくるくるくる。くるくるくるくる。 
でも、今度は、僕の意志で、僕のペースで、
僕の心が動くままにねじを締めるんだ。
くるくるくるくる。くるくるくるくる。 

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html


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