「冬のあたたかい思い出」
ストーリー 鈴木萌水(東北芸術工科大学)
出演 清水理沙
雪がしんしん積もる中、
お父さんの大きくて暖かい手を握りながら、
ざくざく音を立てて、寒くて暗い道をかきわけて歩いた。
次第にざわざわ声が聞こえて来て、
オレンジ色のやわらかい光が見えて来る。
鳥居をくぐるとおばちゃんたちから甘酒を貰った。
ぎゅっと握りしめて持つと、
冷えていた手がじんじんとあたたまってくる。
匂いのする水蒸気を吸い込んで、甘酒を、ごくり。
つぶつぶとした食感を感じながら、
少しやけどしてしまった舌をもごもごさせる。
小さい頃は大人の飲み物であるお酒を飲めるのが嬉しかった。
身体が胃の中からぽかぽかしてきて、
おばちゃんたちから貰ったみかんを食べる。
冬の空気でひんやりしているみかんは、
甘酒でほてった私にちょうどいい。
食べ終わった頃に、持ってきたお正月のお札を
ごうごうと燃えている火の中へ投げ入れる。
どさっと落ちる音がしてしばらく見ていると
端の方からじわじわ燃えていった。
燃えている火をずっと見ていると顔だけがほてってくる。
ぼおっとしてるとお父さんが言った
「お賽銭をしたら帰ろう。」
私はお賽銭をするのが好きだった。
まるで縁日の輪投げみたいにちょっと遠くから、
ずんとくすんだ5円玉を狙って投げ入れるのだ。
ちゃりん、ごとん、がらんがらん。
あの頃の私は願い事をするためではなく、
年に数回しかないちょっとしたアトラクションみたいに楽しんでいた。
「帰ろうか。」お父さんの大きな手を握って、
ざくざく道を進んでいった。
雪はまだ降っていたけど、もう寒くなかった。
次のお正月には帰れるから、
また、一緒に手を繋いでどんと祭にいこう。お父さん。
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