その移動命令は
その移動命令は40億年ほど過去に遡る。
火星が青く美しい水の惑星だったころだ。
地球ではマグマの地表がやっとかたまり
煮えたぎる熱い海ができたばかりだったが
火星にはすでに海があり川が流れ
茶色の陸があった。
大気は酸素で満ちていた。
太陽系の最初の生命(いのち)の工場は
火星につくられていた。
それから移動命令が下りた。
誰がサインをしたのかわからないが
火星の重力では水や大気を維持することが
不可能であることがわかったのだ。
新しい星に工場を…
移動命令は実行に移された。
生命の原材料であるアミノ酸をのせた隕石が地球に降りそそぎ
設計図RNAを守る元素も火星から送り込まれた。
地球は生命の星になり
火星は死の星と呼ばれるようになった。
火星の工場はいま稼働を終えているように見える。
しかし、わずか2億年前まで火山活動のあった火星は
本当に微生物すらいない星なのだろうか。
いま、我々は再び火星へ移り住もうとしている。
それは隕石に乗ったアミノ酸ではなく
宇宙船に乗った人類を送り込み
火星を再び水の惑星にする計画だ。
2024年に予定されている移住計画では
たった24人の募集に20万人を超える応募があった。
火星が水の惑星になったとき
地球はどうなっているのだろう。
そして星から星への移動命令は、いつ出されるのだろう。
誰がサインをするのだろう。
僕はそれが不思議でたまらない。