上島史朗の『僕の見たカンヌ』⑤

bokunomita5_1

⑤ そしてまた、今年もカンヌがやってくる。

2014年、2度目のカンヌは、
参加じゃなくて参戦するカンヌだった。
だから、発表の日が近づくにつれて徐々に緊張していった。
一方で、フワフワと浮足立った気分にもなった。
もう、やれることは何もないのだけれど、落ち着かなかった。

3月のアドフェストで受賞したからだろう、
クライアントも期待してくれていた。
まだアワードも始まらないカンヌ前半に
日本から「今日はどうでしたか」と記者さんが連日電話をしてくれた。
(その対応で僕は、楽しみにしていたイノベーションライオンの
見学時間を間違えるという痛恨のミスを犯す。)

その日、結果は意外なタイミングで知らされた。
朝、会場に向かう道中、日本から電話がかかってきた。
同僚がカンヌの公式サイトをひたすらチェックしていたらしく、
WEBに情報が掲載されたと同時に僕に電話してくれたのだ。
カンヌに来ている僕よりも速い、日本のウェブチェック体制・・。

会場が見えてくる海岸沿いの道路。
横断歩道を渡りながら、日本の同僚から結果を聞く僕。

結果は、サイバー部門ファイナリスト。
しかし、そこまでだった。
その夜のセレモニーでも、ライオンには届かなかった。
日本全体で見ても厳しい結果の年だったとか、
いい訳しようと思えばできるのだろうけれど
結果は結果。その事実をそのまま受け止めた。
その晩は、鼻血が出るぐらい悔しかったけれど、
でも、それがいまの僕らのチームの現在地だ。
1回目のカンヌは、まだ戦えてさえいなかった。
2回目のカンヌは、すこしは戦えたのだろうか。

・・・・・・・・・・・・・・

こうして、僕のカンヌ2014は幕を閉じた。

初めて行った時も、今回も、カンヌで心がけたことが1つある。
それは、同僚と行ったとしても、カンヌ滞在中は
できるだけ1人で行動して、できるだけ色々な場所に首を突っ込むこと。
せっかく世界中の仲間とライバルが集まる場所なのだから、
会社として行動するよりも、個人として行動したほうがいいと僕は思う。
カンヌの空気がそうさせるのか、1人ぼっちに、カンヌはやさしい。
僕はパーティなんて全然得意じゃないけれど、
こちらから1歩踏み出せば、みんなそれは熱く話してくれる。
ビーチサッカーで対戦したブラジル人CWは、僕のカタコトな英語を
熱心に聞きながら、ブラジルの広告事情を丁寧に話してくれた。
Closing Galaでたまたま話したカナダ人はクライアント側の人だった。
彼が気になっていてまだ観ていないカナダ映画を、
僕がたまたま日本で観ていたので、結末を言わないようにお勧めしておいた。
もちろん日本人ともひたすら話した。みんな熱い。
みんな、この仕事が大好きな人たちばかりだった。

なんで広告業界にはこんなお祭りがあるのだろうと思うこともある。
自分たちで作った広告を、大金払って評価してもらうためにエントリーする。
高い旅費と参加費を払って、リッチな熱海みたいな町に集まる。
他の業界から見たら何やってるのだろうと思われる気もちょっとする。
でも、このお祭りがあるから、世界中の思考がここでシャッフルされる。
嫉妬が生まれ、アドレナリンが分泌されて、新しいエネルギーが湧いてくる。
そんなに強くない僕らの、すぐ日常に流されそうになる心に活が入る。
世界中の仲間たちも、クライアントのビジネス課題に頭を悩ませながら、
試行錯誤を続けていることに勇気をもらう。
ヤングカンヌや、AKQAのFUTURE LIONを見て、
若者たちの才能に拍手を送りながら、
いつの間にか若手ではなくなってきた自分たちも負けるもんかと思う。
実際に実施さえしていない、いわゆるスキャム広告を見つけては、
いっそ来年から「SCAM LION」って部門でも作ればいいのに!と憤る。
心から参ったと感じるアイデアに、惜しみない拍手を送りながら、
どうやって考え、どうプレゼンテーションしたのだろうと思いを巡らせる。
日頃、時間に追われる世界中の仲間が、
10日間だけ、純粋にアイデアについて考える。
アワード特有のドロドロした政治が裏では渦巻いているかもしれないことを
百も承知の上で、それでも、ここ集まった純粋な熱量の中に身を置くことは、
決して無駄じゃないと思う。

そして、今週末からはカンヌ2015。
17部門に増えたカンヌは、いったいどうなるのか。
考えただけでもクラクラしてきます。

最後になりましたが、僕の見たカンヌ2014を
1枚にまとめて、この連載を終わりにします。
今年、カンヌに行く人が、笑いながら目を通していただければ。
不定期すぎる連載に1年間お付き合いいただき、
ありがとうございました。

bokunomita5_2

上島史朗
フロンテッジ プロジェクトクリエイティブディレクター/コピーライター


ページトップへ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA