「さむいね」
ストーリー 木村風香(東北芸術工科大学)
出演 清水理沙
米沢の冬はさむい。
だって、雪が降るから。
のろまでかわいい、ぼた雪が、アスファルトの路に積もる。
転ばないように、足の裏、全体で踏む。
ぎゅっと音がする。
心地よくて、わざと、まっさらな雪の上を選んで歩いた。
街灯は、そんなにない。
だから少しだけ不安になる。
あたたかい橙色の灯りが恋しくなる。
雪とうろう、雪ぼんぼり。
雪で作られた囲いの中、ローソクが、ぽわっと灯っている。
「さむいね」って隣を歩いている人が言った。
「手袋、持ってくればよかったね」って、
かじかんだ手のひらに、ふうっと息を吹きかけて、言った。
「さむいね」ってわたしも息を吹きかけた。
橙色の灯りが、だんだん弱くなってくる。
「転ばないようにしないと」って隣を歩いている人が言った。
そう言った、すぐ後、隣を歩いていた人が転んだ。
その人は「痛い」って言って、ちょっとだけ笑った。
わたしも、笑った。
笑って、笑って、あたたかくなって。
それから、「さむいね」って言って、手を差し出した。
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