「平行線」
君と僕は、どこまで行っても水平線だね。
そう彼が言ったとき、私はすぐに言い間違いだと気付いた。
本当は「水平線」ではなく「平行線」と言いたかったはずだ。
現に話がまったく嚙み合っていなかったし、
彼の言い間違いには慣れっこだった。
「情けは人のためならず。時には厳しくしないとね」とか、
「何をしでかすかわからない気が置けないヤツだ」とか、
本来の意味とは違う覚え方をしていることが多かった。
そして、今日、「水平線」ならぬ「平行線」
と言われた理由もまさにそこにあった。
彼は私の言葉も、違った解釈で受け止めることが多く、
極端な話、同じ気持ちでいるのに、
真逆の解釈をして、それが原因で議論が平行線になるのだ。
そして、彼はこう続けた。
そもそも、僕らはいろいろと違っているよね、と。
豆腐は、僕が「木綿」で、君が「絹ごし」。
唐揚げは、僕が「レモンなし派」で、君が「レモンかける派」。
逆にハイボールは、僕が「レモンあり」で、君が「レモンなし」。
餡子は僕が「こし餡」で、君が「つぶ餡」。
テレビは、僕が「ドキュメンタリー」で、君が「ドラマ」。
枕は、僕が「低反発」で、君が「高反発」。
挙げるとキリがないよね、と。
ああ、今夜こそいよいよ別れ話になるのかな、と
覚悟を決めたところで、彼はさらに続けた。
僕らはまったく違っていて、
空と海みたいに違うものなのに、
くっついていて、切り離せなくて、水平線みたいだよね。
解釈を間違っていたのは私の方だった。
そして、彼は取り違えることのない言葉で締めくくった。
僕は、君といるから自分の中にはなかった価値を知って、
人として深くなったり、心が広くなったり、
幸せだと思えることが増えたんだ。と。
私は、一体いつから間違えていたんだろう?
どこからどこまで間違えていたんだろう?
悲しんでいるのか、よろこんでいるのか、
わからない気持ちになった。
だけど、相反するその気持ちも、
結局は水平線なのかもしれない。
出演者情報:平間美貴 03-5456-3388 ヘリンボーン所属