未来をのぞくなら、南三陸へ

「未来をのぞくなら、南三陸へ」

     ストーリー 丸原孝紀
        出演 地曵豪

目がついたモアイは、世界にたった二つしかない。

ひとつは、チリのイースター島。
もうひとつの居場所は、なんと日本の南三陸。

貴重なモアイが日本に渡るきっかけになったのは、
1960年に南三陸を襲った、チリ地震津波だった。

41人の命と、
1000戸近くの住まいを奪った、大きな津波。

その被害から立ち直った人々を讃えるべく、
30年後の1990年、チリ人の彫刻家の手によるモアイ像が、
イースター島から南三陸に贈られた。

そして2011年。
南三陸は、再び大きな津波に襲われる。
その被害は、かつてのチリ地震津波をはるかに上回る
被害をもたらした。モアイも壊され、流された。

その知らせを聞いて、
93歳の老彫刻家は言った。
「海に破壊された日本の町に、人々が再びそこで
生きたいと思えるようなマナを与えるモアイを彫ろう」。

マナとは、イースター島の言葉で「霊力」を意味するもの。

命を削るように彫られたモアイは南三陸に贈られ、
老彫刻家の手で、目が入れられた。
目を入れると、モアイにはマナが宿るのだ。

イースター島の言葉で「未来に生きる」という意味を
あらわすモアイ。

時を超え、距離を超え、
南三陸に渡ってきたモアイと目を合わせて、
あなたも、未来をのぞいてみませんか。

東北へ行こう。


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丸原孝紀 2012年12月23日

路地への旅路

    ストーリー 丸原孝紀
       出演 大川泰樹

日常を忘れるには、旅がいちばん。
でも、本当に忘れたい日常に追われていると、
旅に行く余裕などない。

そんなとき、私は歩く。
行き先は決めない。とにかく歩く。

目的があるとすれば、迷子になることだ。

道から道へ。
できれば道は、
大きな通りよりも小さな路地のほうがいい。

この坂を登れば何が見えるんだろう。
あの角を曲がればどこに行きつくんだろう。
好奇心をそそられるままに、足を進める。

やがて好奇心もなくなり、
ただひたすら、歩くだけになる。
路地に導かれるままに、足に運ばれるままに。
ただただ、歩く。

路地は、曲がるたびに表情を変える。
小さな植物園のように並べられた植木。
細かい部品をつくっているような工場。
哲学者のような顔でこちらを見つめる猫。
どこかで見たような風景に、
忘れていた記憶がよみがえる。

目に映るのは、
いま歩いている路地ではなく、
心の片隅に残っている面影だ。

道に迷い、記憶に迷うときが始まる。
母と手をつないで歩いた昼下がり。
はじめてのおつかい。
好きな子に手紙を届けた夏休み。

もちろん、いい記憶ばかりではない。
友だちとケンカして泣きながらの帰り道。
家を追い出された寒い日。
壊れた自転車をひきずって歩いた夜。

道に迷えば迷うほど、いろいろな感情に出会う。

あのときみたいな気持ちを取り戻したいなぁ。
あのときああすればよかったなぁ。
あの人にもう一度会いたいなぁ。
あの人に、心から謝りたいなぁ。

逃げたいばかりだった日常には、
やりたいことがいっぱいだったんだ。

ここはどこだろう。もう帰ろうかな。
思い出すように疲れを感じはじめる頃、
どこからともなく、甘いような、
しょっぱいような匂いがしてくる。

ああ、お腹空いた。
ほんの少しの生きる勇気を取り戻して、
少し、力強く、再び歩き出す。

さあ、いつものあの顔に会いに行こう。
いつものあれで、いつもの一杯をやろう。

足取りが早くなる。
路地から大通りに出る。
今日という日に戻ってきた。
さあ、歩こう。行き先は、明日だ。

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/ 

 

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