直川隆久 2012年10月7日

風のないグラウンドは

 
         ストーリー 直川隆久
            出演 地曵豪

 風のないグラウンドは、ちょうどあの日みたいに暑い。
 暑すぎる。10月だというのに。
西陽が、じりじりと頬を焼く。
 フェンス脇にはえたセイタカアワダチソウの花が、黄色く光っている。
ほんとに、ちょうどあの日みたいだ。
このグラウンドに来るのは、何年ぶりだろう。15年…20年?
ずっと、来るのが怖かった。
 
彼女が遠い町に転校していくというしらせを、僕は教室できいた。
 担任の佐山先生は、おとうさんのお仕事の関係だそうです、とだけ言った。
 違う。
彼女の転校は、僕のせいだった。
僕のせいなのだ。

あの日、僕の足元にあの石さえなかったら――
そんな身勝手な後悔をどれだけ繰り返したことだろう。
彼女の連絡先を探そうとしたこともあったが、むなしい望みだった。

わたしの左目をつぶしたのは、あいつです。
いつ彼女が周囲にそう告げるか。僕はおびえ続けた。
小学校を卒業し、中学、高校と進んでも、恐怖は薄れなかった。
でも。
僕を捕まえに来る大人はいなかった。

大学受験を期に僕は町を出、それ以来、戻ることはなかった。

 大学を卒業し、就職し、家族もできた。
 変哲もない人生だが、平凡な幸せを味わってもきた。
 
だが――いや、それだからこそ、
罪悪感は治らない傷口から浸みだす体液のように僕を濡らし続けた。
 そして――

僕はたえられなくなった。
出張だ、と妻に嘘をつき、両親もとうに家を引き払い、
親類縁者とてないこの町へむかう列車に乗り込んでしまったのだ。

 暑い。
 風がないグラウンドは、ほんとうに暑い。
あの日のままだ。
 
僕は考える。
いっそ、彼女が僕を断罪してくれたら、どれだけ楽だったろう。
 なぜそうしなかった?
なぜ、誰にも言わなかった?

ふと、ある考えが浮かぶ。
咎めも、しかし赦しもしないことで、
僕をあの日に宙吊りにし続けること。
このグラウンドにしばりつけること。
それこそが彼女の意図だったのではないかと――

そのとき。びゅ、と風がふいた気がした。

ああ…それにしても、あつい。
 はやくかえってつめたいむぎ茶がのみたい。
 
きょうは、宇宙刑事ギャバンの再放送があるから、
それまでにはかえりたいんだ。

 グランドでまってる、なんて手紙を、
 まつながゆきはそうじの時間にぼくに手わたした。
 いやなんだ。まつなががそういうことしてくるの。
そういうの、クラスのみんなに見られると、すごくひやかされるし。
 すぐいっしょにかえろうとかいうし。

 ああ、なんかへんなかんじだな。
 ずっとまえにもこのけしきをみたことがあるような気がする。
 そういうことってよくあるのよ。ってかあさんが言ってた。
 なんていうんだっけ…

あ、やっぱり。
まつながが立ってる。

 きょう、もしなんか言ってきたら、きもいんだよ、って
 石でもなげておどかしてやろう。
 あたらないようになげるさ。コントロールにはじしんがある。
 
 「きてくれたんだね」
 
 うれしそうなこえがした。
 むこうをむいて立ってたのに、ぼくにきづいたみたいだ。
 まつながが、いま、こっちをふりむく――

(終)

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html

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中山佐知子 2012年9月30日

女人禁制について

              ストーリー 中山佐知子
                 出演 地曵豪

中禅寺湖の女人禁制が解かれたのは明治5年、
西暦にすると1872年になる。
日光を開いた勝道上人という修験者が
男体山の頂上からはじめて中禅寺湖を見下ろしたのが782年。
以来、およそ1100年も女人を拒否してきたのだ。

男体山の頂上から見る1000年前の景色を想像する。
世界の果てが自分を取り巻くような360度の視界。
日が昇ると真っ先に明るくなり
月が沈む最後の光まで眺めていられる。
吐く息も清められ、命が磨かれる心地がしただろう。
1000年の昔、高い山の頂は神々と精霊の聖域だった。
そこへ足を踏み入れたとき、人は人でないものになるのかもしれない。
そして眼下に見下ろす中禅寺湖は、当時は魚も棲まず
冷たい水に自然の色彩を映す一枚の鏡であり
それもまた聖なる姿に思えたのだ。

やがてその孤独なまでに清浄な湖のほとりに寺を建て
修行の場に定めたとき
禁じたのは女人だけでなく、牛と馬も一緒に禁じた。
これは生物として清浄か不浄かの議論以前に
労働力と考えればわかりやすい。
中禅寺湖は標高1200メートルの寒冷地帯で
米も麦もできず、人が住みつくのに適していなかった。
けれどもここに寺を建て修行する人々が集まるならば
その食べものを運ばねばならない。
牛も馬も禁じているのにどうやって?

修験者たちの修行というのは
命のギリギリの芯だけを残して
余分な部分をどんどん削っていくことだったのだ。
牛や馬を禁じることは大量に荷物を運ぶ手段を封印することであり
女人禁制は
お粥を煮る手も、機を織り衣を繕ってくれる手も
ことごとく拒否することを意味している。
あまり知られていないが
魚の棲まない中禅寺湖に魚を放流して食料を確保することも
禁じられていたのだ。

湖の西にブナやニレの林がある。
そこにナデシコの白い小さな花が咲く。
ナデシコには子供の意味がある。
撫でてかわいがりたい子供の意味がある。
女人禁制の湖のほとりにそんな花が咲いてはいけないのだろう。
その白い花にはセンジュガンピというむづかしい名前がついている。

1872年、女人禁制が解かれたと同時に
中禅寺湖には鯉やヒメマスが放流された。
それから人が住みつくようになり
女人禁制が解けて12年後
中禅寺湖畔ではじめての子供が生まれた。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html

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一本の線

一本の線

              ストーリー 渡部芳章(東北芸術工科大学)
                 出演 地曵豪

地図をひらくと、山形県と新潟県にはさまれた
一本の線のような福島県を見つけることができます。

その線は飯豊山の頂へと至る
幅がわずか91センチメートルほどの登山道です。

でも、なぜ?
誰がこんなふうに決めたのだろう。

飯豊山は神の山として、麓の人々に崇められてきました。
山そのものがご神体で、
みんながお参りする飯豊山神社には
山頂に奥宮が、麓には麓宮が置かれています。

ところが、明治のころ、廃藩置県によって飯豊山に境界線が敷かれ
麓の麓宮は福島県に、
山頂の奥宮は新潟県に分けられることになりました。
麓の村の人々は猛反対をしました。
「飯豊山神社は、麓と山頂、ふたつでひとつの神社である」と
訴えたのです。
その訴えは認められました。
奥宮のある頂上とそこに至る登山道、
地図で見ると一本の線のような福島県には
いまもたくさんの登山者がやってきます。

東北を知ろう。東北へ行こう。

飯豊とそばの里山都http://www.town.yamato.fukushima.jp/

福島の旅http://www.tif.ne.jp/

福島県山都町http://www.naf.co.jp/yamato/muni/welcome.stm

日本百名山飯豊山
http://17.pro.tok2.com/~vems/100/019%20iidesan/iidesan.html


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地曵豪くんの映画特集というわけでもないが(収録記 2012.07.21-6)

若松孝二監督の映画特集となると
まあその、地曵豪くんの特集といえないこともなく。

いま下北沢のトリウッドで若松特集が上映されていて
土日は「実録連合赤軍」も上映するんで
おすすめなんです。
26日の日曜16時40分からは監督のトークショーもあるようです。

映画館は涼しいですし、
ちょいと週末の映画いかがでしょうか(なかやま)

トリウッド
http://homepage1.nifty.com/tollywood/commingsoon.html

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芋煮会

芋煮会
     
         ストーリー 伊藤 薫(東北芸術工科大学)
            出演 地曵豪

山形の秋と言えば、
やはり馬見ヶ崎(まみがさき)川で開催される芋煮会が目玉だろう。
秋の週末はいつも河原で鍋を囲む光景が見られ、
川が一年で最もにぎやかな季節になる。
山形市民の芋煮会に対する執着は相当なもので、
地元に住んでいれば小学校の遠足や部活の打ち上げ、
会社の宴会など、多種多様な目的で芋煮会が開催される。

中でも特筆すべきは山形在住でなくても聞いたことがあるはずの
日本一の芋煮会フェスティバルだ。

毎年9月の第一日曜日に開かれるこのイベントは、
3t の里芋と1,2t の山形牛を贅沢に使い
3万食分の山形風のすきやき芋煮が「同じ鍋で一度に」作られる。

これだけの量を一度に煮る様子をイメージできない人も多いと思うが、
実際の芋煮会を見てもらえると即座に理解して頂けるだろう。
このためだけに作られた専用の巨大芋煮鍋「鍋太郎」は、
なんと直径6m。
人の手では調理が出来ないため、
機械油ではなくサラダ油を潤滑油に使った芋煮専用ショベルカーもある。

山形市民の芋煮愛が具現化したかのような迫力あるこのイベント。
秋に山形にきたなら、
是非、馬見ヶ崎川まで足を運んで頂きたい。

東北へ行こう

日本一の芋煮会フェスティバルhttp://www.y-yeg.jp/imoni/

東北観光博http://www.visitjapan-tohoku.org/

山形十二花月http://www.kankou.yamagata.yamagata.jp/db/

山形県酒造組合http://www.yamagata-sake.or.jp/


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大好き青森

大好き青森

          ストーリー 青山成美(東北芸術工科大学)
             出演 地曵豪

なに?青森?青森なんて田舎だよ!
正直言って夏のねぶた以外は活気無いし、
それ以前に人いないし、
天気いつも良くないし、
雪多いし、
冬が寒いからって夏が涼しいわけでもないから普通に暑いし、
冬寒いせいなのか料理の味付け濃いし、
交通の便悪すぎで車ないとどこにも行けないし、
流行のお店は基本的に無いし
スタバだって最近出来たんだよ。
それに民放も3局しかなくってフジとかテレ東映んないし、
「いいとも」も夕方とかに放送されてるんだよ?
しかも再放送。意味分かんない!
第一方言とか訛りが凄くて何言ってるのか本当に分かんない。
Öえ?そんなに嫌わなくてもって?

ううん、好きだよ、大好き。青森。

東北へ行こう

あおもり案内名人http://www.atca.info/

青森県観光情報http://www.aptinet.jp/index.html

青い森の写真館http://www.aosya.com/


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