勝浦雅彦 2016年10月2日

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『ウルグアイの犬』

     ストーリー 勝浦雅彦
       出演 地曵豪

「断尾って知ってる?犬の尻尾を、小さいうちに切り落としてしまうの。」

「生憎うちは妹にアレルギーがあってペットは飼えなかったから。詳しくないんだ。
なぜそんなことを?」

「ヨーロッパで生まれた風習らしいんだけど、予防医学や衛生面でのメリットもあるらしいの。
でも、本当の理由は、人間が定めた理想的な犬の姿にただ近づけたい、
ってことみたい。そして子犬のうちに麻酔もかけずに取ってしまうんだって。
幼犬は痛覚が発達していないから麻酔など要らない、って。ひどい話よね」

取り留めない会話が続いていた。
この店に呼び出された真意をはかりかねていた僕に、
「母がいなくなったの」と彼女はだしぬけに切り出した。
「おばさんが?」
彼女は頷いた。僕たちは5歳の頃からの幼馴染みだった。
とは言っても、もう彼女の母親の印象はおぼろげで、
母娘二人はよく似ている、という記憶だけが残っていた。

先々週の金曜日のことだった。
彼女は二年間付き合った恋人と結婚しようと考えている、
と母親に伝えた。多くの場合、娘の結婚という事実を深刻かつ重大に受け止めるのは、父親だ。
だから、彼女は極めてフランクに、当然こちら側の味方として母親にその意思を伝えたつもりだった。
母親はいつもと変わらずに、あらそうなの、とか、忙しくなるわね、と応じていた。
父親は出張で不在だった。

翌朝、彼女が少し遅めに目を覚ますと、もう母親はいなかった。
極めて最小限のものが持ち出された形跡があった。
翌日に父親が帰宅しても、母親からは一切連絡がなかった。三日目には親戚に電話をかけ、
四日目には知りうる限りの友人に連絡を試みた。しかし、誰も母親とここ数か月連絡をとっていなかったし、
みな一様に「あの人のことだから心配ない」という口調で応じた。彼女は戸惑った。
専業主婦だった母が一人で出かけることはまれだったし、むろん無断外泊をした記憶などない。

父親の態度も不思議だった。最初は戸惑いを見せていたが、
解決には時間がかかるだろう、といった趣旨の発言をした後は本来の機械のように
規則的で几帳面な生活リズムの中へ戻って行った。
まるでコンピューターが母の不在、という不規則なプログラムを克服したように。

二杯目のコーヒーが運ばれてくると、彼女はその位置を修正し、テーブルの
中央に茶色い封筒を置いた。
「母がいなくなって思う以上に私は慌てていたのね、
自分の部屋の鏡台にこれがあることに気づくまでずいぶんかかった」
「これは?読んでいいの?」
「ええ。ただ、読めば私や、私の家族をこれまでと少し違った目で見る事になるかもしれない」

封筒を開けると、「誓約書」の文字があらわれた。

日付は28年前。男性のものらしき、硬く筆圧の高い文字が並んでいる。
目で追うと彼女の言ってる意味が少しづつわかってきた。
それは彼女の父親と母親の間で、結婚前に取り交わされた文字通りの誓約書だった。

ひとつ、夫は妻を愛し、妻は夫を愛すること
ひとつ、夫は生涯勤労し、妻は専業主婦として家庭を取り纏めること。
ひとつ、夫と妻は、お互いの尊敬において夜の営みを怠らないこと。
ひとつ、夫の年収と妻の就労予定がないことを考慮し、子はひとりに留めること・・・。

具体的な夜の営みの回数から、年に何回家族旅行をすべきか。
何年後に住宅を買い、どのタイプの車を買うべきか、
飼い犬の犬種にいたるまで具体的な条文が何十条もならんでいた。
読み進めながら、少し手に汗が滲んだ。
そこに書かれていることは、僕が知りうる限りの彼女の家の事情そのものだった。

「私の家族は、その28年前に定められた航路を寸分たがわず飛び続けていた」
「でも、君のお母さんはいなくなった」
「最後のページを見て」
最後の条文にはこう書かれていた。

ひとつ、この誓約書の内容は、子の家庭からの独立をもって終了する。

「なぜ、父と母がこんな契約を結んだのかはわからない。
そしてどうして、この事を私に明らかにしたのかも」

「心当たりはないの?おばさんがどこに行ったのか」

「ないわ。あの人は家族にとって理想的な母だった。
父のことを支え、私にも愛情を注ぎ、決して我を出すこともなかった。
家族にとって不可欠な人だった。
でも、母がこの先、どこへ行って、何を見ようとしているのか、
私にはひとつも思い浮かばなかった」

去り際、立ち上がった彼女の携帯に着信があった。
どうやら婚約者からのようだった。その頬にかすかな震えが見て取れた。
何か言葉をかけようと思ったが、
少し開いたドアの向こうからうねるような雨の音がやってきた。

「ひとつだけ聞いていい?女性を殴ったことはある?」
「ん、ないよ」
「そう。普通そうよね」
「もしかして、婚約者がそういう人だと?」
「その逆。そんなことしたら後悔して自殺しちゃいそうな人。
とりあえず彼にはできるだけ早く、機械みたいに生きてる父親と、
どこにいるのかわからない母親が私の家族の本当の姿だと知ってもらわないと」
「健闘を祈るよ」
「時々、思うわ。あなたと付き合わなくて、よかった、と。
死ぬほど好きになることはなくても、死ぬほど憎むこともないものね」

どう答えていいかわからず、
「君にもし何かあったとき、このクッションくらいの弾力で
受け止めることはできると思う」
座ったままソファを手で弾きながら、僕は言った。

振り返る彼女の唇がかすかに動いた、
たぶん「ありがとう」、と言ったのだろうけど、
もう確かめる術はなかった。

後日、彼女からメールが送られてきた。
母親から1通の絵葉書が届いたという。
メッセージは無く、
裏面にどこかの草原に落ちる巨大な夕日の写真が印刷されていたという。

「どうやらそこは、ウルグアイのパンパという草原のようです」

ウルグアイ?パンパ?

「・・・仮に母が意志をもってその場所に辿り着いたのだとしたら、
そこに至る道程は見当もつきません。
ただ、ウルグアイ、という言葉を目にして思い出したことが一つあります。
かつて二人でこんな話をしたのです。
『東京からいちばん遠い、地球の裏側は、どこなのか』、と。
そのとき母は炊事の手を止め、しばらくぼんやりと宙をみつめて考え込んでいました。私がからかうと、母は我に返り、ころころと笑ったのでした。

もし、地球の裏側で母があるべき自分の姿を見つけたのだとしたら、
私は母の帰還を望むべくもありません。
そうやって私も、家族も、ようやく自然な姿に戻っていくのだと考えています。
結婚式は3月に行いますが、幼馴染とはいえ異性の招待は控えようと思います。
ごめんなさいね、またいつか」

文章はそう終わっていた。

東京からいちばん遠い、地球の裏側。

僕は想像する。

ウルグアイの草原に、一人の女性が立っている。
娘によく似た、二重の濃いまつ毛が揺れている。
それはもしかしたら、
よく似た風土に属した草原を混同して想像しているのかもしれないが、
そんなことはどうでもいい。最果ての地、僕の中のパンパはここだ。

彼女は僕の遠い記憶にあるような、
ツイードやシルクの七分袖など着ない。
もうあんな品のいい恰好をする必要はない。
大胆にカットされた麻のワンピースを身にまとっている。

彼女は失ったものを取り戻している、
あるいは、本当は何も失っていなかったことに気づく。
彼女は歩き続ける。
吹き抜ける強い風に歩調を緩め、
バランスを崩しながら、その姿は茜差す夕日に消えていく。

誰もその人から、何かを奪うことなどできないのだ。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html

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地曵豪のシェイプアップ(2016年9月の収録記2)

jibiki

ひと月前に較べると、あらっと思うくらいシェイプアップした地曵豪です。
かなりハードなトレーニングに通っているようです。
この収録の日も、終わって渋谷まで行ってトレーニングして、
また戻ってきました。
ええ、終わったら飲んでますからね、私たち。

しかし、短期間でこうまで自由自在に痩せたり太ったりできるのが
なんだかすごいなあと思うわけですよ。
そういえば地曵が出演している映画「リップヴァンウインクルの花嫁」のDVD
今月発売になってます。
DVD出たのならそろそろ見なくちゃなんて
映画館嫌いの私は思ったりしています。

さて、今月の地曵豪が読んだのは川田琢磨くんの原稿です。
ネットゲームのの仲間とお別れをする話ですが
あまり書くとネタバレになりますね。
URLはこちら。9月11日から公開しています。
http://www.01-radio.com/tcs/archives/28593

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岡部将彦 2016年8月7日

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「アキレスと亀」

      ストーリー 岡部将彦
        出演 地曵豪

男は、今、まさに死の淵にいた。
観光地の崖からの転落。
その落下の途中であった。

まさか、こんなカタチで自分が死ぬなんて。

景色がゆっくりとスローモーションになっていくって、
本当なんだな。

あまりの事態に、現実感がなく、男はどこか冷静だった。
人生で1度しかない死の瞬間を観察しはじめていた。

人が死に直面したとき。
脳は極限まで集中力を高め、
少しでも生き残る可能性がないかを探しはじめる。

その際、
不必要と判断された五感はひとつずつシャットダウンされていくという。

まず味覚がシャットダウンされた。
続いて触覚と嗅覚が、そしてほどなくして聴覚がシャットダウンされた。

男に静寂が訪れた。

いまや脳は五感に割いていた力を、視覚だけに注いでいた。
単純計算で5倍。
その極限の動体視力で景色がスローモーションで見えてくるのだ。

昔、映画で見たことがあるぞ。
「ここぞ」という大事な場面を迎えたスポーツ選手。
歓声が消え、すべてがスローモーションになり…
あれか。

状況は極めて悪い。
そう判断した脳が、
視覚からさらに色彩を消した。

男にモノクロの世界が訪れた。
まわりの景色は、より一層スローになった。

それでもゆっくりと地面は近づいて来る。
そのタイミングで脳はさらなる稼働をはじめた。

この瞬間にすべてをかけた、
なりふり構わないフル稼働。

この死を逃れる方法がないか、
日常生活を送るうえで、普段は使っていない部分も含めて
すべての脳細胞が一斉に情報処理をはじめた。

0.1秒が、何倍にも膨れ上がった。
さらに次の瞬間、何万倍にも膨れ上がった。

あくまで男から見た世界ではあるが、
すべての時間が止まったようであった。

男が数mm落下するその刹那を、
脳は持てる力の限りを使って、
何万倍、何百万倍もの時間にひき延ばしはじめた。

男は、すべてを理解した。
俺はこのまま死ねないかもしれない。
死の瞬間を、こうして脳は永遠に延ばし続けていくのだな。

外から見ると、たった一瞬の出来事だった。
だが、男は、永遠に地面に激突する刹那の中にいる。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html

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横澤宏一郎 2016年7月24日

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「映画禁止法」

      ストーリー 横澤宏一郎
        出演 地曵豪

突如、映画禁止法なるものが出た。
正確には、「映画等私的映像作品の上映及び鑑賞を禁ずる法律」
と言うらしいが長ったらしいので、
みんな映画禁止法と呼んでいる。

じつは、いまの総理大臣が大の映画嫌いらしい。
「キューブリックはね」とか
「テレンス・マリックってさ」とかの知識の話から、
「あのシーンどう解釈する?」みたいな、
映画に詳しくない人の人権を1ミリも考慮しない排他的な会話に
ほとほと嫌気がさしたらしい。
某外国の大統領に大の映画好きがいて、
黒澤映画すら見たことのなかったいまの総理はたいそう恥をかいたそうだ。
それが最後の引き金になった。
自分の国の有名監督くらい押さえておけよ!と言いたくもなるのだけど。

まあいい。
とにかく映画館で観ることも、上映することも、
家でDVDや配信で観ることも禁止になった。
ドラマばっかりで全然映画なんて観なかったくせに、
いざ禁止ってなると観たくてしょうがない。
友人にそう話したらまったく同じことを言ってて、
それなら観に行こう!ってことになった。
こっそり上映している映画館があるらしい。
闇上映ってヤツだ。人間は禁止されるほど抜け道をつくる。
禁酒法なんかもそうだったよな。

その闇上映は横浜のある倉庫の中で行われた。
体育館までは大きくないものの、まあまあ大きい倉庫で、
パイプ椅子がところ狭しと並べられていた。
どこから聞いたのか結構観客もいて、
僕と友人は並んで座ることができなかった。
ポップコーンやコーラまで売っていて、
とても禁止令下の上映とは思えない雰囲気だった。

上映作品は「華氏451」という1966年のイギリス映画だった。
それは本の所持や読書を禁じる架空の社会を描いたもので、
まさにいまの映画禁止令の世の中と同じだった。
ああ、そうそう俺たちも禁じられたものを見てるんだな、
なんて思っていたら、エンドロールのときに後方がざわざわしてきた。
警察が踏み込んできたのだ。この闇上映の情報が漏れていたわけだ。

だけど、なぜか僕らは全員逮捕されずに帰してもらえた。なぜか?
その闇上映に総理大臣がこっそり来ていたらしい。
それも例の映画好きの大統領に連れられて。
それを見つけた警察がみんなを捕まえないことで
総理と大統領を守ったというわけ。
命拾いして助かったんだけど、
同時に法律ってなんなんだろうなって思ってしまった。

という映画のシナリオを僕はいま執筆中だけど、この番組をお聞きの皆さん、
観たいと思いますかね。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html

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川野康之 2016年4月10日日

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木綿のハンカチーフ外伝

    ストーリー 川野康之
      出演 地曵豪

『木綿のハンカチーフ』という歌が流行したのは1976年のことだ。
なぜはっきり覚えているかというと、
その年は、私が東京に出てきて一人暮らしを始めた年だからだ。
歌の内容を簡単に紹介すると。
二人は幸せな恋人同士だった。
ある日、男は故郷を捨てて一人で都会へ旅立った。
華やかな都会で暮らすうちに、男はしだいに変わっていった。
故郷を忘れ、恋人のもとへ帰る気持ちを失ってしまった。
そんな男に、女は、最後の贈り物として涙を拭く木綿のハンカチーフをねだる。
この歌を私はその頃下宿の部屋や定食屋なんかでよく聞いたものだ。
この年、東京で一人暮らしをする何万人もの男たちが、
ちょっとセンチメンタルな気持ちになったかもしれない。

この歌のアナザーストーリーをこれから書いてみようと思う。
もちろんこれは私の作り話である。
すべては私の妄想であって、
歌の作者の意図とはまったく何の関係もないことを
ことわっておきたいと思う。

男は、新宿のクラブでボーイ見習いの仕事をしていた。
皿洗いと掃除。重たい酒瓶が詰まった箱を持って非常階段を上ったり下りたり。
ときどき客のゲロの始末。それが仕事だった。
踊り場の隅で恋人の手紙を取り出して読み返した。
ビルの街の灯りがにじんだ。
都会で成功することを夢見て来たけれど、現実の生活は正反対だった。
そのうち顔見知りの客ができた。
頼まれて煙草を買いに行ってやると、
とんでもない額のチップをくれることがあった。
はじめの頃は一万円札を握る手が震えた。
客に連れられて、いっしょに飲み歩くようになった。
不動産屋だという客の小さな事務所にも顔を出すようになった。
いつしかその客を社長と呼んでいた。
スーツを着ると、自分がいっぱしの都会人になったような気がした。
社長の商売は上手く行っていた。
金に困っている奴らに高利で金を貸してやり、
返せないと土地や建物をとりあげて、高く売る。
手荒なやり方だが金はおもしろいように手に入った。
社長の後をついて歩くだけで給料がもらえた。
一万円札がただの紙切れのように感じられてきたころ、
故郷の暮らしが遠いものに思えてきた。
もうあそこに戻ることはないだろう。
木綿のハンカチーフをください、と女から手紙が来たのはこのころだ。
ある日、事務所に行くと、社長の姿が消えていた。
金庫はもちろん電話や書類やカーテンまでなくなっていた。
かわりに見知らぬ男たちがいた。
逃げようとして、簡単にねじ伏せられて、顔を床にこすりつけられた。
歯が折れて、血とよだれが床を濡らした。

男が東京の刑務所に入れられたという噂を聞いて、
女は荷物をまとめて東京に出てきた。
刑務所のある町にアパートを借りて、食堂の仕事を見つけた。
そこで皿を洗ったり、注文を聞いたり、
夜は酔っぱらいの相手をしながら、3年待った。
その間、誘惑してくる男たちもいたけれど、女は相手にしなかった。
3年たって、男が出所してきた。刑務所の門の前で男を出迎えた。
二人は並んで歩いて、駅前の女が働いている食堂に入り、うどんを食べた。
そして二人は結婚したのである。
男はこの町のクリーニング屋で働き始めた。
女は食堂の仕事を続けた。
二人は幸せに暮らしました。おしまい。
ではない。

この話にはまだ続きがある。
ある日、店に来た遊び人風の男が女を外に誘った。
ふだんは誘いに乗らない女が、なぜか素直にエプロンを脱いで、
遊び人と一緒に出て行った。
食堂の主人が口をあんぐり開けて見ていた。
その夜は食堂にもアパートにも帰ってこなかった。
翌朝。店に現れた女は別人のような厚化粧をしていた。
真っ赤な口紅が唇から大きくはみ出ていた。
黙ってエプロンをつけて、皿洗いを始めた。
報せを聞いて男がむかえに来た。
男は、ポケットから木綿のハンカチーフを取り出して、
女の顔を丁寧に拭いた。
その手を女がはらって、
「馬鹿にしないでよ」
と言った。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html

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息子の勧め


出演者情報:地曳豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html

息子の勧め

     ストーリー 旭岡宗宣(東北芸術工科大学)
        出演 地曳豪

「スキー場が近くていいなあ。」と
山形の大学に来てから何度も親父に言われる。
僕は別に遊ぶために来た訳じゃないのだが、
確かにスキーをするには最高の立地に僕の家はある。
親父のいる栃木の実家は1番近いスキー場でも日帰りは一苦労だ。
それに比べて僕の家は30分もあれば行けるし、
山ほどスキー場はあるので
趣味の域を超えてスキーを愛する親父が羨ましがるのも無理はない。

「スキー場行き放題じゃん。いいなあ。」なんて言われた。
実際そんなに行かないし、雪が降ると登下校が大変で
ついには雪に飽きてくると言っても、
連絡を取るたび「いいなあ」と言ってくる。

もうそんなに羨ましいのなら冬の間だけ山形で家を借りて
近くのスキー場でインストラクターのバイトでもしたらどうだろうか。
親父はもう退職しているのだし、自分の好きな土地で暮らせる。

来週の天気予報は雪マークだと親父にラインをしたら
またしても「いいなあ」と言われた。
今シーズンは試しに山形に来てみるというのはどうだろうか。
僕は勧めることにした。

東北へ行こう


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