山本高史 2009年5月16日ライブ



人生相談 

                   
ストーリー 山本高史
出演 大川泰樹

吉田、といいます。
仕事は、人生相談やってます。

始めてから20年、なにぶん上のつかえてる業界ですので、
この歳にしてようやく中堅かなあ、という感じです。
時節柄、って言うんでしょうか、ここに来て相談件数は増えてます。
不況知らずと言うか、むしろ不況様様と言うか、よくよく因果な業界ですね。
ありがたいことです。
とは言え、相談が増えれば相談も玉石混交、
前もって連絡いただければ「相談ハンドブック」をお配りして、
「問わずとも思わず答えたくなる相談の秘訣」、などの
アドバイスも差し上げているのですが、
最近は相談のイロハ、も知らない飛び込みのお客様が多い。
いちばん困るのは、
「かくかくしかじか、で、私はどうしたらいいんでしょう?」ってやつ。
こういう人たちは、私が「こうしたらいい」、と言ったら、そうするんですかね。
万が一そうだとするのなら、それは相談、じゃないですよね。
それは日本語で、依存、と言います。
依存は、業務外です。
私の仕事は相談です。
AかB、せめてAかBかCくらいにまで詰めてから先が、相談、
じゃないでしょうか。

ハイ次。
「夫に若い愛人がいるようなのですが、別れた方がいいのでしょうか?48歳主婦」
これは「若い」、というところがポイントですね。
「年上の愛人」、というのは、あまり聞かない。
うちに持ち込まれる案件でも、十中八,九「若い愛人」です。
その「若い愛人」は、若い男ではなく中年男を選択している。

文面だけを眺めていれば、なんかね、
「不倫は文化だ」的なニュアンスがあるんですが、
実際にはメタボ薄毛オヤジだったりするわけですよ。
にもかかわらず「若い愛人」は、
そのメタボ薄毛オヤジの「若い愛人」を喜々としてやっている。
あれがどうにも、わからない。
「若い愛人」の心中推し測りがたし、が私の回答です。

ハイ次。
「私には大きな夢があります。
 その夢の実現に向けて会社を辞めるべきかどうか迷っています」
この相談者、明らかに自分に酔っています。
「迷っている」という言葉でわかります。
迷っている自分が、好きで好きでしょうがない。
そんな、大好きな迷っている自分のことを、人に聞いて欲しいだけ。
迷いマニア、ですね。迷イズム、もいいかもしれない。
とにかく、迷わないとやってられないのか、生きてる感じがしないのか。
まあせいぜい、大いに迷ってください。
そして迷わなくなったら、また相談してください。

ハイ次。
「親友とケンカをして、絶交してしまいました。
どうすれば元通りになれるでしょうか?」
・・・ほんとうに親友?
よく考えて。
ほんとうに親友だった?親友って、なに?親友なのかしら?
いつ決めた?親友だって、いつ決めた?
それ、親友と呼ぶのかしら。 呼ぶべきかしら、とあなたに聞いてるの。
あなた、他にも友達、いるでしょ?いるよね。
つまり、「友達うちの一人と、ケンカをしてしまいました」ってことでしょ?
そんなこと、相談するべきことかなあ。

ハイ次。
「子供をつくるなら、男女どちらがいいですか?」
こういう質問、好き。カンタンに答えが出るから。
カンタンに答えが出ると、こっちも気持ちいいし、
質問する側もスッキリするでしょう?
答え、女。

ハイ次。
「クルマにはねられて入院してから、3カ月になります。
 その間に勤めていた会社が倒産し、
 家計を助けようと無理してパート勤めを掛け持ちした妻が過労で倒れました。
 娘は外によくない友達ができたらしく、家に寄り付かなくなっているそうです。
私の退院の見込みも立たず・・・(てんてんてん)エトセトラエトセトラ」
長い!

ハイ次。
「隣人トラブルに悩んでいます」
左隣?右隣?
それを書いて、もう一回、よろしく。
ハイ次。

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/ 03-3478-3780 MMP

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岡本欣也 2009年5月16日ライブ


職のない日々
             ストーリー 岡本欣也
                出演 大川泰樹

むかし、ぼくは、無職だった。

むろん貧乏だったが、
不自由は感じなかった。

電気を止められた時、
ぼくはローソクをともした。

ガスを止められた時、
近所の銭湯に行った。

電話を止められた時、
好きだった子に手紙を書いた。

そして水道を止められた時、
生まれて初めて、
野グソをした。

雑木林でお尻を出していたぼくは、
25歳だった。

貧乏はおもしろい、
とまでは言わないが、
人が思うほどみじめではない。

すくなくとも、
いま巷で語られるほど、
一面的な暮らしではないと思う。

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/ 03-3478-3780 MMP

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中村直史 2009年5月16日ライブ



   
隣人を愛そう

             
ストーリー 中村直史
出演 大川泰樹坂東工西尾まり 

  
隣人を愛そう

ニンジンを愛そう

ニンジャを愛そう

大蛇を愛そう

大ちゃんを愛そう

大ちゃんならああ言いそう

第3者機関ならこう言いそう

第3舞台ならそれやりそう

退散するのは難しそう

解散するのは予算成立後

発散するのは与謝野晶子

ハッサンはアブドルの弟

母さんはアイドルの卵

愛がどこに消えてしまおうと
まずは愛してみよう

隣人を愛そう
思いがけない世界のために

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一倉宏 2009年5月16日ライブ



木星からのメールが届く頃には

                    
ストーリー 一倉宏
出演 大川泰樹西尾まり

 
僕たちの船が旅立ってから ずいぶん長い時がたちました
 それ以上に いまの君と僕との距離は 気が遠くなるほどです

 まだ火星のあたりにいた頃は まいにちメールしましたね
 僕たちは 人類史上いちばんの長距離恋愛だ と笑って

 ときどき 
 地球のなんでもないことを 懐かしく思い出します
 たとえば 風です
 木立やカーテンを揺らしたり 
 頬や髪 からだで感じる あの風
 雨の降り出す前ぶれの かすかに湿った風の匂い
 はじめて半袖のシャツにした朝の 風の肌ざわり
 寒がりの僕があんなに悪態をついてた
 刃のような木枯らしでさえ いまは懐かしい
 春のある日 公園で あなたの前髪を揺らした
 そよ風ならば よけいに

 僕たちの乗った宇宙船では 風を感じることはなく
 ただ 二酸化炭素を吸収して 酸素を補給する空気が
 ダクトから しずかに流れるだけです 
 
 個人専用のハードディスクに 図書館ひとつぶんも
 貯め込んできた本も それから映画も 音楽も
 なんだかもう 飽きてきてしまいました
 それにくらべて カプセルの窓から見える宇宙は
 まいにちでも見飽きない美しさです
 あなたに見せたかった
 ひとつひとつの星が どんなにちいさく見えても
 ちゃんとそこにある それぞれに光ってる
 なんていうのか 宇宙を実際に見ていると 信じられる 
 宇宙という存在が はっきりとある そのすべてが

 ああ なんて伝えたらいいのか わかりません
 だからやっぱり 美しい としかいえない
 あなたの好きだった星 シリウスは手の届きそうなほど
 僕の好きな星 アルデバランも ほら そこにある

 木星に近づく頃にもらった あのメールは
 たしかに僕を驚かせ どうしようもなく悲しませたけれど
 いまは すべてを理解できると思っています
 宇宙のみごとなパノラマ以外は なんにもないここで
 まいにちまいにち同じように流れる この時間でさえ
 それは 気の遠くなるような長さだったのだから

 一日一日の 太陽が沈み 月が浮かび
 風が違い 光が違い 雲が動き 色が変わり
 日付けが変わり 季節が変わり 街のショウウインドウが変わり
 春が去り 夏にめぐり会い 秋を感じて 冬を迎え
 さまざまなひとに会い 数えきれないエピソードがあり
 まいにちまいにちが 目のまわるほどに動く
 その 地球の日々で あなたが
 どんなにどんなに 長い時間を過ごしたのか ということを
  
 だからいまは 理解できました
 ごめんなさいを 言わなければならないのは 僕のほうだった
 あまりに遠く あまりに長すぎる この旅に出た
 
 そろそろ木星も遠ざかる航路に就きました
 僕の撮った 木星の写真を送ります
 射手座生まれのあなたには 幸運の星だから

 どうぞお元気で みなさんによろしく
 それから 

 結婚おめでとう 

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/ 03-3478-3780 MMP
      西尾まり 03-5423-5904 シスカンパニー

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秋山晶 2009年5月16日ライブ



    波

             
ストーリー 秋山晶
出演 大川泰樹

片岡義男「白い波の荒野へ」

ジェリー・ロペス「サーフ リアリゼーション」

ブライアン・ウイルソン「ペット・サウンズ」

ジャック・ジョンソン「オン・アンド・オン」

ジョン・ミリアス「ビッグウエンズデイ」

ブルース・ブラウン「エンドレスサマー」

アートディレクター 川口清勝(セイジョ)

フィルムディレクター 牧鉄馬

僕の周囲は時の流れが乱れ、気圧が下がっている。

バハマの方からハリケーンが来そうな気配だ。

来る年の言葉は、波です。5フィートか、50フィートか。

◎09年5月16日のライブで読んだ演目を紹介しています。
 音声はスタジオで録音したものです。

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/ 03-3478-3780 MMP

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福里真一 2009年5月16日ライブ



5月の空

                  
ストーリー 福里真一
出演 大川泰樹

小学校時代の同級生のアゼクラくんは、
今はジャンボジェット機のパイロットになっているという。

そりゃ、いくらなんでもまずいだろう、と私は思う。

アゼクラくんの、当時のあだ名は、発狂マン。

ちょっとしたことで、すぐにカッとし、
狂ったように怒りだすので、その名がついた。

発狂スイッチが入り、手がつけられなくなったアゼクラくんが、
教室中の机と椅子を倒して、暴れまわったあの日のことを、
私は今でも忘れない。

5月の青い空に、飛行機が飛んでいく。

そのコックピットでは、
発狂マンという、自分本来の資質を、
体の奥底にひそかにキープしたアゼクラくんが、
静かに操縦桿を握っているのかもしれない。

◎09年5月16日のライブで読んだ演目を紹介しています。
 音声はスタジオで録音したものです。
出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/ 03-3478-3780 MMP

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