佐倉康彦 2013年12月22日

群青

      ストーリー 佐倉康彦
         出演 皆戸麻衣

うみとそらのいろは、あお。
たいようは、あか。
くちびるも、あか。
つちは、くろ。じゃない。

そのひとは、
そのおとこは、
せびろを、あいしていた。
むねからおなかにかけて
ふたつ、ぼたんがついていた。
しゅっと、していた。
つめたえりは、ふとかった。
そのえりもとには、
なにも、おまけは、つけてなかった。
えらくないんだよ
どこにもしょぞくしていないんだよ
きみどりいろのこえで
わらいながら
そういっていた。
でも
せびろが、
ぎんいろに、
くびを、よこにふっていた。

よくわらう、ひとだった。
よくわらう、おとこだった。

ふと、だまる、にんげんだった。

そのひとの
かみがたも、
つむじも、
めも、
くちも、
まゆげも、
はなも、
はなのあなも、
はなげも、
あごも、
おでこも、
わすれた。

みみたぶのかたちは、
すこし、おぼえている。
ぜんたいも、
ところどころも、
おおむね、わすれた。

でも、せびろをきていた。
それだけは
わすれない。

せびろは、あお。

うまれたばかりの
はなは、ももいろ。
はなを、ささえる、はっぱは、
みどり。
ねこは、ちゃいろ。
ごはんは、しろ。
なみだは、うみとそらとおなじ、あお。
うみに、ふる、ゆきは
しろ。

うみに、おちた、しろは
すぐに、あおに、なる。
なみだに、なる。

こえは、あお。
いきは、しろにちかいあお。
においは、とうめいなあお。
ゆびは、すこし、あかいあお。
かみのけは、かすれたあお。
うでは、すじくれだったあお。
むねは、なみうつあお。
おなかは、しずかなあお。
おしりは、つよいあお。
ふとももは、にぎやかなあお。
ひざは、かたいあお。
すねは、くるしいあお。
ふくらはぎは、よく、わらうあお。
あきれすけんは、ぬれたあお。

あお。

その、あおは、かぞくの、あお。

その、あおは、せびろの、あお。

その、あおは、ねくたいの、あお。

その、あおは、おかあさんが、すきだった、あお。

その、あおは、うまれたばかりの、
やっと、めがあいた、こねこの、めだまの、あお。

その、あおは、よくわらう、どこにもぞくさない、
えらくない、おとこの、こえの、あお。

その、あおは、あおを、あつめた、あお。

その、あおは、とうめいな、あお。

その、あおは、とても、かたい、あお。
その、あおは、いし。

たいようは、あか。
くちびるも、あか。
つちは、くろ。じゃない。
つちは、いしを、つくる。
とても、かたい、いしを、つくる。

いしは、あお。

せびろは、あお。
あおが、あおが、あおが、あおが、あおが、あおが。
あおが、むれをなして、ひとつだけ。

うみとそらのいろは、あお。
うみとそらは、ひとつだけ。

そのひとは、あお。
そのおとこは、ひとりだけ。

あかいあかい、たいようが、
あおを。

出演者情報:皆戸麻衣(フリー)

 

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皆戸麻衣から「ひと言」

皆様大変ご無沙汰致しております。
皆戸麻衣でございます。
写真の、こんもりしてる、はい、それが私です。

私、原付バイクに乗るのです。
これからの時期、ほんと~~~~に寒いのです!!
これ、私のバイクファッション。
ダウンと巻きスカートの下に、通常のダウンコート等を着ております。
マフラーは私の手編みですのよ。おほ。
ヘルメットのシールドは、走行していないとこの様に曇ります。

ユニクロ完全フル装備で、地元をブンブンパトロール中!

そんな私が心を込めて読みました、
佐倉康彦さん作「群青」
是非聞いてくださいねー。

皆戸麻衣:http://blog.livedoor.jp/minato715/

佐倉康彦「群青」(2013年12月22日から掲載)
http://www.01-radio.com/tcs/archives/25566

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三井明子 2011年1月22日

会員カード   

           ストーリー 三井明子
              出演 皆戸麻衣

「ひどい肩こりですね。重たいカバンを持ち歩いていませんか」

新年通い始めたマッサージ店で、いきなり言われた。

たしかに私のバッグはバッグ自体が重たい。
でも、年末のボーナスでやっと手に入れた、ブランドバッグ。
しばらくはこれを外せない。

バッグの中身で一番重たかったのは、化粧ポーチ。
でもこの中身は減らせない。
一日中、綺麗なメイクを保つために、化粧道具一式を持ち歩く必要があるから。

そして、バッグの中身で二番目に重たかったのは、財布だった。

財布の中身を全部出してみた。
すると、43枚のカードが目の前に現れた。
クレジットカード、キャッシュカード、診察券といった、
なくてはならないカードを外すと、
37枚のカードが残った。
そのほとんどがポイントカードや会員カードだった。

「当店のポイントカードはお持ちですか? お作りしましょうか?」
と言われて、断れない性格が生んだこのカードたち。
ひとつひとつ見ていくと、
一度だけ買い物をしたブティック、
年に数回買い物をするデパート、
旅先で食事をしたレストラン、もうつぶれてしまったコーヒーショップ…
こんなカードを毎日持ち歩いていたことを知り、
自分のズボラさに嫌気がさした。
カードの束のずっしりとした重みを確かめると、
肩こりが、よりいっそうツラく感じられた。

そして、驚くべきは、その会員カードのなかで
いちばん重たかったのが、マッサージ店のカードだったことだ。
分厚く、硬い素材でメタリックな加工がされている。
高級感あふれるカードといえば聞こえがいいが、
その厚みや重みは、客の肩こりを完治させないための
マッサージ店の商売上の陰謀にも感じられてきた。

「もしもし? おたくの会員カード、不自然に分厚くて重たくないですか?」
マッサージ店に文句の電話を入れてやろう、と思ったが
クレーマーになってしまうと気づき、直前で思いとどまった。

イライラしたら、また肩がこってきた。
そして、マッサージ店のカードを手に、
私はマッサージの予約の電話を入れていた。

出演者情報:皆戸麻衣 フリー

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皆戸麻衣から「ひと言」

明けましておめでとうございます!
皆戸麻衣です。
本年もよろしくお願いします。

写真は、私ではありません。
アジアのアクションスーパースター、
ジャッキー・チェンの笑顔です。

きれいに映っていると思いませんか?

はい!そうなんです!
私、テレビを購入いたしましたのです~!

42型プラズマ。年末に購入。
大型テレビを迎え入れるのに、部屋を模様替え&大掃除。
IKEAでテレビ台も購入し、自分で組み立て。

思いの外大がかりになりましたが、
年越し・年明けはすっきり片づいた部屋でテレビ三昧でやんした。

思い切って大枚はたいて購入したテレビ。
どうぞ遠慮なく「うらやましい!」と言ってください。

使ったお金達がまた、お友達を連れて戻って来ますように。

ストーリー:坂本和加  出演:皆戸麻衣
「お金と幸せになる方法」
http://www.01-radio.com/tcs/archives/20447

皆戸麻衣ブログhttp://blog.livedoor.jp/minato715/

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坂本和加 2012年1月2日

「お金としあわせになる方法」

          ストーリー 坂本和加
             出演 皆戸麻衣

わたしはお金が大好きだ。

ほんとうは、みんなそう思っているはずなのに、
世の中は、そういうことは大きな声でいってはいけない
ということになっているので、
きょうも私は密かに思う、お金が大好き。

だから大切にしなければ、
という気持ちは、しぜんに起こる。
諭吉さんも、一葉さんも、英世さんも、
おなじ顔をしているようだけど
手元にきた経緯はまったく違うから、みんな一期一会。
ここにきたのも何かのご縁、
たとえそれがつかの間であっても
「ああ、楽しかった!」と帰ってほしいし
できれば大勢のお友達をつれて
またやって来てほしいとも思うので
わたしは彼らに、いつだって手厚い接待をする。
まるでスナックのママみたいに。

諭吉さんの話は、いつだってケタが違う。
この間やってきた諭吉さんは、
ハードボイルドな話を聞かせてくれた。
俺は闇の、汚れた金だったんだって。
コカインの密売を仲介したんだって、さめざめと泣いた。
ほんとかウソかしらないけど、わたしも泣いた。
それで、彼を生き金にしなきゃと思って
慈善活動団体にぽんと寄付した。
そう、お金の使い方もそれで決まったりする。

一葉さんは、24歳。派手でオシャレ好きで、
ネイルに行くときはいつも彼女と。
ちょっと前までは紫式部さんもいたけど、
お金もけっきょく人気がないと出回れないようで
造幣局に、いまだにお蔵入りしているらしい。

海外旅行にでも行くとなると、元気になるのが英世さん。
彼は、社交的でジェンントル。ブロンド好みで、
海外での知名度がすごく高い。6カ国語も話せるし。
円の国際外交は任せたと前任の漱石さんがいってたけれど、
この円高が彼の功績なのか罪過なのか、
くわしいことはわからない。

とにかく、ありがたいことに
わたしのところには、ひっきりなしに
いろんなお金がやってきては、去っていく。
シワくちゃのお金に、ふところもこころも温まる話を聞いたり、
造幣局で生まれたばかりの新入りさんたちを祝ったり。
そうやって、彼らの未来が
楽しい世渡りであることを願い、送り出してきた。

そのたびに、わたしは心の中で
おかえりと、いってらっしゃいを繰り返す。
それは、さっぱりと気持ちのよいものであるほどいいらしい。

クレジットカードなんかはこれからも、使うつもりはない。

出演者情報:皆戸麻衣 フリー

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薄景子 2010年11月14日

raku.jpg

落書き部屋
            
               
ストーリー 薄景子
出演 皆戸麻衣

父の実家に帰ったのはいつぶりだろう。
昔、父の勉強部屋だったという古い4畳半は
私たち姉妹といとこ軍団の格好の遊び場で、
壁一面は子どもたちのキャンバスとして
何を描いてもいいことになっていた。

妹は、少女マンガのキラキラの瞳を何度も練習し、
いとこのマーくんは、線路だといって
ぐるぐると渦巻き模様ばかり描いていた。

その壁が落書きで埋め尽くされると、
父はクリーム色や水色のペンキを塗って
まっさらなキャンバスに仕立て直してくれる。

私は、そのペンキがポロポロとはがれた跡を
ロールシャッハテストのように
何かに見立てながら、眺めているのが好きだった。
目と口を見つけて人の顔にたとえてみたり、
どこか遠くの島を想像してみたり。

久々に入った落書き部屋は、
もう何年も、誰からも落書きされた気配はなく。
ただひっそりと、はがれたペンキ跡で
たくさんのクレーターをつくっていた。

帽子のようでも円盤のようでもある、その形のひとつを
あの頃のようにボーッと眺めてみる。
するとその瞬間、ゴーーーッという爆音とともに
強力な掃除機に吸いこまれるようにして、私は闇に落ちた。

一瞬のことだったのか、しばらく時間がたったのかはわからない。
気がつくと、そこは畳の新しい4畳半で、
目の前には、まだ学生らしき父の後ろ姿があった。

伸びっぱなしの髪。あばらが透けそうな細い背中。
数学の教師をめざしていた父は、突然赤いマジックで、
わけのわからない方程式を壁にどんどん書いていった。
それはもう、目で追うことすらできない狂ったような速さで。
壁一面が赤い数字と記号で埋め尽くされると、
父はひと息ついて「イコール」と書き、
書き連ねた方程式の上に
345という数字を何度も何度もなぐり書きした。

さんよんご、さんよんご、さんよん、みーよ・・・みよこ、あたしのこと?
思わず声が出てしまった瞬間、
父がこちらをくるっと振りむき、
私は反射的に目を閉じた。

一瞬のはりつめた静寂。
おそるおそる目を開けると、
そこは誰もいない、もとの落書き部屋のままだった。

「みよこー、焼き芋焼けたぞー」

遠くから、私を呼ぶ声がする。
窓を開けると、さっきの三倍はありそうな父が
焚き火の灰から焼き芋を取り出していた。

落書きにペンキを塗り重ねたような
広い背中を眺めながら、ふと思う。
私が生まれてきたのは、父の綿密な計算どおりだったのか。
それとも、計算はずれの恋の答えあわせだったのか。

出演者情報:皆戸麻衣 03-5485-7922 サンズエンタテイメント所属


shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋

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