西島知宏 2013年9月22日

ススキの花言葉

     ストーリー 西島知宏
        出演 山田キヌヲ

こんなに苦しいなら、別れなければ良かった。
こんなに苦しいなら、浮気だって許せたかも。

まだ好きだよ、今の彼には言えないけど・・。
あなたを忘れるために、私は今の彼と付き合っている。

ねぇ、私と別れて何人とキスした?
何人と・・・。

あなたのメール、携帯が変わっても残っている。
付き合った日のメール、別れた今でも保護してる・・・。

最後のとき、本当は「ありがとう」なんて思ってなかったよ。
納得したふりしたのは、いつかまた会いたかったから。

私を想いだす時間は1日にどれだけありますか?
・・私のこと憶えていますか?

私はいつまであなたのメールを待つんだろう。
携帯が鳴って、あなたを期待しなくなるのはいつなんだろう。

SE:ピュー(草原に吹く風の音がより強く)

ねぇ、知ってる?「ススキ」の花言葉は「心が通じる」なんだよ。
伝わってるかな?私の気持ち。
伝わってるよね、ここススキの野原だもん。
通じてるよね、私の心・・
助けに来てくれるよね。今すぐ。
助けに来てくれるよね、引き金を引く前に・・

出演者情報:山田キヌヲ 03-5728-6966 株式会社ノックアウト所属

 

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西島知宏 2012年11月23日

「9枚と1枚の写真」

        ストーリー 西島知宏
           出演 清水理沙

12月24日クリスマスイブ、私のハタチの誕生日は残業で終わった。

なんで誕生日に残業しないといけないんですかぁ」

  SE:ピロリロリン(携帯のメール着信音)

誰?」
LINEで画像が届いていた。

な、何これ・・」

10年前病気で他界した母のヒツギに入れた、
母が写った10枚の写真の1枚目だった。
写真嫌いだった母の、珍しく笑った写真。

どうして?」
使い捨てカメラで撮った写真。ネガもデータもなかったのに・・
プロフィールを確認した。私と同じ名前「優子」と書いてあった。

私?
 
   SE 携帯操作音
「どうしてこれを持ってるんですか?」
メッセージを送ることにした。

  SE:ピロリロリン(携帯のメール着信音)

届いたのは私が「内緒だよ」と言わんばかりに
カメラに向かって鼻に人差し指を添えてる写真だった。
棺に入れた10枚の大好きな写真の2枚目だった。

何これ・・。写真を持ってるか内緒、そういう意味?

  SE メールの操作音
「あなたは一体誰?」
送信…

返信はなかった。時計の針は24時を回り、翌日になっていた。

× × ×
その不思議な誕生日以降何度も、
写真の差出人にメッセージを送ったが、返事は来なかった。
不可解だとは思いながらも、
私は次第に仕事の忙しさに紛らわされ、
「妹のイタズラだろう」くらいに、その日を忘れるようになっていた。
次の誕生日を迎えるまでは・・。

× × ×

翌年の誕生日、高校の同級生と居酒屋で飲んでいる時だった。
  SE:ピロリロリン(携帯のメール着信音)
まただ
母のヒツギに入れた大好きな10枚の中の3枚目、
1歳の誕生日に
私がバースデーケーキのろうそくを吹き消しているものだった。」

友達と別れて妹に電話した。妹のイタズラかどうか確かめたかった。

 SE:プルルルル「留守番電話サービスに接続致します」

妹じゃないのだろうか。

  SE メール操作確認音とともに):
「あなたは一体誰?」
送信・・

返信はなかった。時計の針は、また24時を回っていた。

× × ×

つぎの誕生日も、そのつぎの誕生日も、
毎年1枚づつ、母の棺に入れた大好きな10枚の写真が
重ねた順番に届くようになった。
私は、1年に1枚のその写真を楽しみにするようになっていた。
イタズラかもしれない。だけど・・。
毎年誕生日にくる一枚の、メッセージのない写真。
その素っ気なさがシャイだった母の行動にも思えた。

× × ×
29回目の夏、母が他界した年に付き合い始めた彼氏が去っていった。
涙で目の前が見えなかった。
母の変わりに私のそばにいてくれた彼。
かけがえのない存在がまた、私の前から消えた。
気がついたら私は、
毎年誕生日に、順番に送られて来た9枚の大好きな写真を眺めていた。
そして・・誕生日じゃない、帰ってこないのはわかってるけれど、
辛くて、あの差出人にメッセージを送った。

「ママ、死にたいよ、ママの所に行っていい?」

  SE:ピロリロリン(携帯のメール着信音)

10枚目に重ねた写真だった。
最後の写真。それは大好きな写真じゃなく、大っ嫌いな写真だった。

裏山の用水路で遊んでいた私を母が叱りつけている写真。
父が隠し撮りしたものだった。
大っ嫌いで持っていたくなかったから、最後に入れた写真だった。

SE:ピロリロリン(携帯のメール着信音)
SE:ピロリロリン(携帯のメール着信音)
SE:ピロリロリン(携帯のメール着信音)
SE:ピロリロリン(携帯のメール着信音)

何枚も、何枚も、同じ写真が届いた。
何枚も、何枚も、何枚も、私が怒られていた。

わかったよ、死んじゃだめなんでしょ、わかったよママ。」

9年前届いた一枚の写真。
それは、この日が来る事を知っていた母の、
計画の始まりだったのかも知れない。

出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/

 

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西島知宏 2011年11月13日



「あの日小さく燃えていたもの」

           ストーリー 西島知宏
             出演 遠藤守哉岩本幸子

女:私は、何も燃やしていなかった。
男:彼女は今日は、何を燃やしているんだろう。

(回想)
女:あれは確か、冬だった。初めてできた彼との想い出の品を、
  私は燃やしていた。
男:彼女と初めて会ったのは、冬。実家の2階から夜中に
  公園で焚き火をする少女を見つけた。

SE パチパチパチ(焚き火の音)

女:私は女子高生だった。
男:彼女はセーラー服だった。

女:しばらくして学ランを着た同世代らしき男の子が声をかけて来た。
男:夜中に公園で焚き火をする同世代の少女、心配になって声をかけた。

女「何を燃やしてるんですか?」(少し若く感じる声で)
男:確かそう声をかけた気がする。

女:振り向いた私は、泣いていて声が出せなかった。
男:振り向いた彼女は、泣いていた。

女:私の泣き顔を見た彼はそれ以上何も言わず、手紙や、想い出の写真が燃え終わるのを最後まで見ていた。
男:かける言葉が見つからず、ただ、声をかけた手前すぐに立ち去るのもどうか、と最後まで眺めていた。
女:燃え終わると私は何も言わずその場を立ち去った。
男:燃え終わると彼女は何も言わずに去って行った。

女:つぎ彼と会ったのは大学生の時だったろうか。
男:5年ぶりに見かけた彼女は少し大人っぽい化粧をしていた。
女:私はバイト先で知り合った彼の二股を知り、誰にも会わない隣町のあの公園で彼との想い出の品を燃やしていた。
男:彼女はまた、泣きながら色々なものを燃やしていた。

女:また失恋か、彼はそう思っていたのだろうか。
男:失恋の度にモノを燃やす子なのか、僕はそう思っていた。
女:彼は5年前と全く同じように、私の想い出が燃え終わるのを見ていた。
男:燃え終わるとまた、彼女は黙ってその場を後にした。
女:公園を出るとき一度振り返って彼を見た。
男:遠くで彼女が振り返った気がした。気のせいかもしれないけど。

女:そのつぎ彼と会ったのは私が最初の結婚に失敗した時だった。
男:彼女は手紙や写真と一緒に、高そうな毛皮を燃やしていた。
女:金持ちの男と結婚するのが幸せ、そう勘違いしてた。
男:彼女はお金持ちと結婚し、離婚したのだろうか。そう思っていた。
女:泣き虫なのは大人になっても変わらなかったな。
男:泣き顔は10代のあの時と同じだったな。
女:少し老けた彼は、あの時と同じように何も話さず私の隣にいてくれた。
男:それが僕たちのルールの様に感じられた。

女:それから何度か同じような事があった。
男:彼女とは一度も言葉を交わさなかった。
女:彼と会うのはいつも私の恋が終わった時。
男:彼女が公園に現れるのはいつも恋に破れた時。たぶん
女:あの人は誰なんだろう。
男:あの子は誰なんだろう。

女:ある時から30年程、私は公園に行かなくなった。
男:いつからか彼女を公園で見かける事はなくなった。
女:2度目の結婚で、私はさらに遠い所へ引っ越した。
男:その後、僕は結婚し、相変わらず公園の脇の家で家族と暮らしていた。

女:65歳の誕生日の3日前、私は2番目の夫を病気で亡くした。
男:65回目の冬、僕は25年近く連れそった妻を亡くした。

女:ある日ふと、彼を想い出した。
男:一人になってから窓の外を眺める事が多くなった。
女:泣く時にだけ行った公園。
男:泣き顔しか知らない彼女。
女:私は久しぶりにあの公園に行ってみたくなった。
男:彼女は今頃何をしてるんだろう。

女:失恋する度に来ていた公園。まだ残っていた。
男:ある夜、僕は老眼鏡越しに懐かしいものを目にした。

SE パチパチパチ(焚き火の音)

女:何も燃やしてはいなかった。こうやってるとまた横に来て、
  そっと佇んでくれる気がした。
男:後ろ姿の彼女。あの頃のように泣いているんだろうか。
女:ただ、黙ってそばにいてくれた彼。私は火の暖みに紛れ、
  彼の優しさを見つけられなかったのかもしれない。
男:思い切ってあの日と同じ言葉をかけてみた。

男「何を、燃やしているんですか?」
女「!」
男:肩の動きでハッと驚きを表した彼女が振り向いた。
  初めて涙のない彼女だった。
女「え?」
男「お久しぶりですね」
女「・・はい。その節はどうも」
男「それ、何燃やしてるんですか?」
女「あ、これ。・・何も」
男「何も(笑)?」
女「はい」
男「・・・」
女「あ、いや。燃やしてます。・・恋心?」
男「ふふふ。何ですかそれ(笑)」
女「あ、いや・・」
男「あったかいですね」
女「え」
男「あったかいですね、これ」
(少し間があって)
女「はい、とっても(噛み締めるように)」

SE:パチパチパチ(焚き火の日の音が少し大きくなる)

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/
      岩本幸子 劇団イキウメ http://www.ikiume.jp/index.html

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西島知宏 2011年1月23日

「あるウサギの一生」

         ストーリー 西島知宏
            出演 坂東工

2011年1月5日、
ウサギ年になってからの初出社はいきなり徹夜だった。
厳密には1月6日の朝、僕は着替えるためだけの帰路で、
運命的な出会いをする。

彼女はまさにウサギのように白い肌を
ふわふわのタートルネックの袖から覗かせ、
大きなトートバッグを膝の上にちょこんとのせていた。
ウィキペディアに“お嬢様”という項目があるなら、
彼女の写真を載せるべきだ、それほど僕にとって理想的な容姿を持った
色白で透き通るような女性だった。

この路線のどこかに、
彼女の職場があるのだろうか。
幼稚園の先生でもしているのだろうか。
僕は彼女を直視しないまでも
頭の中を想像でいっぱいにしていた。

その日の夜、毎日つけている日記に僕は、冗談まじりにこう記した。
“ウサギ年にウサギの彼女と出会う”

それから、徹夜で朝帰りする時は決まって
その電車を使うようにした。

彼女はいつも、同じ電車の同じ車両にいた。

その年のある春の日。彼女はいつもの電車でめずらしく居眠りしていた。
彼女の居眠りはトートバックを持つ手の圧力を弱らせ、
電車の揺れの拍子にバックを床に落下させた。

少し離れた所からそれを見ていた僕は、
彼女が落としたバッグの中から飛び出した“あるモノ”を
俄に信じる事ができなかった。

どうしてこんなものが?

その日の日記にはこう記した。“何かの見間違いだ”

次の徹夜の朝も、その次の徹夜の朝も、
いつも通りの変わらない彼女を見かけた。

僕は次第に、あの日見たモノは本当に何かの間違いだったと
信じるようになった。

夏が過ぎ、秋が過ぎ、季節は彼女と出会ってから1年目の冬を
迎えていた。

そんなある日、彼女は殺された。

僕はそのニュースをラーメン屋で流れていた昼のワイドショーで見た。
その日から会社を数日休む事になった。

美女が殺されたというニュースは、
マスコミの格好のネタになり、
連日各局は報道合戦を繰り広げる事となった。
そして次第に世の中に事件の詳細が明らかになっていった。

僕が見ていた朝の彼女は通勤なんかではなく、仕事帰りだった。

そして、あの日バッグから飛び出したモノは見間違いなんかじゃなく、
やはりガーターベルトだった。

ニュースキャスターはこうも伝えた。
彼女は会員のみを相手にする売春宿で働いており、
その店のウリは質の高い女性の容姿と、
彼女達が着ているバニーガールとガーターベルトの衣装だった、と。

僕は、消失感とともに間近に迫ったウサギ年の終わりを感じていた。
ウサギ年に出会ったウサギのように真っ白い彼女との終わりを。

その年の最後のニュースで、ニュースキャスターは新たな事件の情報を伝えた。
犯人は被害者ともみ合った際、利き手に凶器のナイフで傷を負っている可能性が高い、と。

僕は、そのニュースを見終えると、コンビニで買って来た年越し用の
カッブソバにお湯を入れ、利き手じゃない方の手ですすった。

そして、その年最後の日記にこう記した。

「僕だけのウサギにしたかった。」

出演者情報:坂東工 http://www.takumibando.com/

shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋

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