私はいろはが嫌いです。
私は「いろは」が嫌いです。
すみません。
いきなりこんなことを言う私は「あいうえお」です。
私は「あいうえお」、あちらは「いろは」または「いろは歌」
いつもとは限りませんが、なぜあちらだけ「いろは歌」と
「歌」までつけて呼ばれるのか、
ちょっと癪にさわります。
ひとりで由緒あり気な雰囲気を漂わせているのも
嫌いです。
由緒っていっても七五調になっているだけのことです。
七五七五の繰り返しです。
色は匂えど 散りぬるを
わが世誰そ 常ならむ
ほらね、七五七五でしょう。
ま、それだけのことです。
ついでにお教えしますとね、
これ、今様っていう歌の形式を踏んでいるんです。
文字数だけですよ、曲がついているわけじゃない。
あくまでも、形だけ。
今様というのは、平安時代の流行歌です。
白拍子という遊び女、まあ遊女ですね、
その遊女が舞いながらうたっていた歌なんです。
遊女は男のいでたちをしていまして
今様は、いわば美少年に扮した美少女が歌い踊る流行歌、
きゃーきゃー人気は出そうですが
どこにも由緒など感じられません。
そういえば、「いろは」は弘法大師がつくったという
無謀な意見が広まったこともあるようですが
さきほどの今様の形式を考えると
200年くらいは時代が合わないですからね、
そんな意見に耳を貸してはいけません。
さて、その由緒も何もない「いろは」と
同じころに生まれたのが「あいうえお」です。
みなさん、「あいうえお」は
明治とか昭和だと思っていたでしょうけど、それは大間違い。
古い文献にはじめてあらわれるのも、
「いろは」と「あいうえお」は同じ11世紀。
厳密に言わせていただけば、
「あいうえお」が50年ばかり古いです。
呼び名だって単なる「あいうえお」じゃなかった。
「五音(ごいん)」とか「五十聯音(いつらのこゑ)」とか
「仮名反(かながえし)とか
古い時代はいい名前がたくさんありました。
しかし、過去の栄光にこだわることはありません。
「あいうえお」は
日本語の平仮名を学ぶとき、たいへん優れた機能を発揮します。
日本語が日本語である限り、いつも新しい「あいうえお」
時代を超えて役に立つ「あいうえお」
これからもよろしくお願いしますね。
出演者情報:大川泰樹(フリー) http://yasuki.seesaa.net/