中山佐知子 2020年1月26日「神社からのお願い」

神社からのお願い

    ストーリー 中山佐知子
       出演 遠藤守哉

室町時代の将軍足利義持は
石清水八幡宮のミクジで後継者を決めた。
亡くなる間際のことだった。
その結果、すでに出家していた弟が将軍職を継いだが、
この弟は下克上で殺されてしまった。
鎌倉時代には天皇もクジで決まったことがある。

神の籤と書いてミクジ。
さらに「お」がついてオミクジ になったわけだが、
もともとは運勢を占うというより
神のお告げを聞くものだった。
武将ならば戦の日取りや戦略をクジで決め、
農民ならば田圃に水を引く順番、
子供が生まれた人は名前を、
祭りが近づく世話人をクジで選んだ。
明治という日本の元号も
実は天皇御自らのくクジ引きで決まっている。

さて、そこでだ。
いま神社やお寺でオミクジを引く人は
たいがい吉か凶かの運勢だけを見て
喜んだりチェッと舌打ちをしたりして
そこらの木の枝に結んで帰ってしまうが、
実はこれが大間違いなのである。
オミクジはそこに書かれている漢詩や歌が神さまの言葉だ。
そこらの木の枝に結んで帰ってしまっては
神さまのお告げを捨てるようなものだし、
神社の木にとってもたいへんな迷惑になる。

意外と知られていないが
オミクジをたくさん結びつけられた木は
生育が悪くなったり枯れたりする。
大事な御神木がオミクジのせいで枯れてしまった神社もある。
いまやオミクジ問題は全国の神社の悩みの種だ。

今年の初詣のオミクジを持ち帰った人は
ときどき読み返してみよう。
悪い運勢のオミクジでも、
そこには必ず助言が書いてあるはずだ。
その助言を守っていれば
災いも転じて福となり、悪い運も良い運に変わるし、
逆に助言を無視して調子に乗ると
せっかくの良い運も災いに転じてしまう。

この一年を良い年に。
まずはその一歩として
気づかないうちに自分のオミクジで
何百年も生きてきた木を枯らすような不注意をしないように
気をつけたい。
手遅れのかたは来年からでけっこうです。



出演者情報:遠藤守哉(フリー)

 

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福里真一 2020年1月12日「くじ運」

くじ運 

     ストーリー 福里真一
        出演 大川泰樹

2002年にサッカーのワールドカップが、
日韓で開催されたとき、
何枚かのチケットが回ってきた。

誰がどの試合を見に行くか、
友人たち数人と、
あみだくじで、
振り分けようということになった。

日本対ロシア戦とか、
ドイツやブラジルなど世界の強豪が登場する試合とか、
人気のチケットがあまたある中で、
私が引き当てたのは、
アイルランド・サウジアラビア戦。

アイルランド・サウジアラビア戦。

アイルランド・サウジアラビア戦を、
どういう気持ちで、観戦すればよかったのか。

もちろんサッカーにくわしいなら、
技術とか戦術とか、
さまざまな楽しみ方があっただろう。

しかし私には、無理だった。

アイルランド・サウジアラビア戦。

それは私に、
どういう気持ちで観戦すればいいのか、
まったく手がかりを与えないままに、
90分間にわたって展開され、終了した。

それが私の、最初で最後の、ワールドカップ観戦だった。

…という話を、最近仕事でかかわった、
ある外国人の青年にしたところ、
彼はアイルランドの人だった。

そして、
そのアイルランド・サウジアラビア戦のことを、
はっきり覚えているという。

時差の関係で、アイルランドでその試合が中継されたのは、
朝だった。

普段は夜しか開いていないパブが、
その日は朝から特別に営業していて、
大人たちは、仕事そっちのけで、
酒を飲みながら、アイルランドを応援したという。

そして当時小学生だったその青年も、
おとうさんに頼みこみ、
朝のパブで、大人たちに混ざって、
その試合を見たという。

すばらしい試合だった、と…。

アイルランド・サウジアラビア戦。

私にとって、
自分の人生に関係ないものの象徴だったその試合が、
彼にとっては、人生の思い出の試合になっている…。

まあ、でも、この文章で私が書きたかったのは、
そのことではない。

私が書きたかったのは、
私には、くじ運がない、ということ。

当然のことながら、今のところ、
東京オリンピックのチケットは、
1枚たりとも当たっていない。
当たる気配もない。

だから、私は、初詣に行ったとしても、
決しておみくじを引かないのだ。

おみくじといっても、くじはくじ。

どうせ大吉を引き当てるくじ運を持っていないことを、
私は自分で、わかっているのだ。

出演者情報:大川泰樹(フリー) http://yasuki.seesaa.net/

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一倉宏 2020年1月5日「僕はおみくじ」

僕はおみくじ

    ストーリー 一倉宏
       出演 地曵豪

ためらいがちに 手を伸ばし
君は僕を 引き寄せる
それは 偶然が必然になる瞬間
君は すこし驚く 
あっと ちいさな声をあげて

君が望んでいたのは
どんな 僕だっただろう 
ほんとうは
世界でいちばんの 大きな幸運
でなくても
中くらいの幸運 人並みでいいから
あるいは 
ささやかな幸運を 神に祈って
君は 両手を合わせたのだったか

けれども いうまでもないことに

ひとは 思いもよらぬ不運を
引き当ててしまう こともある
それもまた この世の習い
悲しみに出会うことのない人生は
この世には ないから

君を喜ばせる 僕もいれば
心配させ 不安にさせる僕もいる 
それでも わかってほしい
ただ喜ばせるために 僕はいない
そして ただ不安にさせるためだけの
僕もいない ということも

旅行には 行くといい
くれぐれも 盗難には気をつけて

転居も 考えていいだろう
そうすべき理由が あるとすれば

商売は そこそこ 欲を出さずに
相場は リスクを忘れずに

方角は 気分の明るくなる方へ
縁談は 焦らずに待って

ひとつひとつは 君への想い
せいいっぱいの メッセージ

僕は君の 勇気になりたい
僕は君の おみくじだから

そして 待ち人は まだ来ない
それが誰のことかもわからないまま
ずっと待ち続ける 君のために

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html

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