福里真一 2022年1月9日「はじまりはおよそ1億年前」

はじまりはおよそ1億年前 

   ストーリー 福里真一
      出演 遠藤守哉

ニンゲン、という名のウイルスが、
地球上で少しずつ増殖をはじめたのは、
およそ1億年前、と言われている。

その後、
ニンゲンは、次々と変異を繰り返しながら、
その数を増やしてきた。

古代株、中世株、近世株。
日本で言えば、
縄文株、弥生株からはじまって、江戸株まで。

そして、200年から300年ほど前、
ヨーロッパで生まれた、近代株と呼ばれる変異株は、
その感染力の強さ、
毒性の強さで、またたく間に、
地球を席巻した。

重症化する、地球。
しかし、運び込むべき病院もベッドもない。

惑星に注射できるワクチンも、
現在までのところ、開発されてはいない。

いま、
このままでは地球という宿主を殺してしまうことに
気づきはじめたウイルスたちは、
みずからの、「弱毒化」について検討をはじめている。

弱い毒になる、と書いて「弱毒化」。

ウイルスたちは、
この、自分たちの「弱毒化」に、
SDGs というこじゃれた名前をつけたらしい…。

同じように、
いま、宿主であるニンゲンを殺してしまわないために、
みずからの「弱毒化」について考えはじめている、
新型コロナウイルスたち。

最近、ニンゲンの代表が、
新型コロナの代表に、質問状を送った。

結局あなたたちは、ニンゲンの体の中で、
何がやりたかったんですか?と。

すると、
新型コロナの代表から、予想通りの回答が届いた。

お言葉を返すようですが、
結局あなたたちは、地球上で、
何がやりたかったんですか?

…と、ここまで書いてきて、
私はこの原稿が、年のはじめに、
そんなに明るい気分になれるものではないな、ということに気づく。

きっと、新型コロナの代表に言われるだろう。
結局あなたは、東京コピーライターズストリートという場で、
新年早々、何がやりたかったんですか?と。



出演者情報:遠藤守哉(フリー)

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