吉岡虎太郎 2015年8月30日

yosioka1508

サラダがすき       

        ストーリー:吉岡虎太郎
           出演 清水理沙

サラダがすき。
うたがすき。
てんとう虫がすき。
朝寝坊がすき。
トーストにイチゴジャムとバターを
塗って食べるのがすき。
ひまわりがすき。
市民プールの匂いがすき。
水着の日焼け跡がすき。
はじめてキスをする時の瞬間がすき。
誰もいない夜の公園がすき。
あなたの困った顔を見るのがすき。
しょうがないなあって感じで
あははははと笑うあなたの顔が好き

あなたがすき。
あなたの声がすき。
あなたの耳たぶがすき。
手も足も指も爪も首もうなじも
さらさらの髪の毛も
あなたのことは全部すき。

あなたの舌が私の唇に入って来る時の
ぬるっとした感じがすき。
ひとつになって溶け合って混ざりあって、
あ~もう本当にひとつに
なっちゃうんじゃないかしらと不安になって、
子供みたいにぎゅっとしがみついてる時、
泣きたくなるくらいあなたがすき。

サラダがすき。
うたがすき。
あなたはもう死んでしまったけど
ずっとあなたがすき

出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/

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中山佐知子 2015年8月23日

1508nakayama

日本が輸出した介護型アンドロイドが

     ストーリー 中山佐知子
        出演 大川泰樹

日本が輸出した介護型アンドロイドが
海外の、ことに英語圏で
次々と故障する原因がサラダにあるという事実について
発表いたします。

アンドロイドの注意書きとして
食べ物や飲み物を与えないことは
もちろん明記されています。
それなのになぜアンドロイドはサラダを食べてしまうのか。
それはアンドロイドの雇い主が
食べるようにすすめるからです。
アンドロイドは。ことに介護型のアンドロイドは
雇い主に逆らわないようプログラムされています。

しかし、アンドロイドの雇い主は
なぜアンドロイドに向かって
「サラダをどうぞ」と言ってしまうのでしょう。
そして、なぜサラダなのでしょうか。

まず、なぜサラダかを考えたいと思います。
たとえばひとり暮らしの老婦人が
夕食にオムレツとサラダを食べるとします。
オムレツはひとつがひとり分ですから
アンドロイドは、「どうぞ」と言われても丁重に断りつづけます。
雇い主の所有物を奪わないプログラムが
ストップをかけるからです。
しかしサラダは取り分けるのが基本ですから
奪うことにはならない。
ここにサラダの落とし穴があります。

次にアンドロイド自身の問題です。
ホスピタリティを必要とする医師や看護師は
「you・あなた」という主語のかわりに
「we・わたしたち」を使います。
介護型アンドロイドの言語も同じようにプログラムされています。
アンドロイドは老婦人の食卓にサラダをお出しするときに
「あなたはサラダを召し上がってください」ではなく
「私たちはサラダをいただきましょうね」と言います。
老婦人は思わずその言葉を繰り返します。
「私たちはサラダをいただきましょうね」

このひと言によってアンドロイドはサラダを食べ
故障してしまうのです。

対策としては
言語プログラムからホスピタリティを抜く、
または自己防衛を強化するなどのアイデアは出ていますが
いずれにしろ多少感じの悪いアンドロイドになることは否めず、
委員会としてもアタマの痛い問題をかかえております。
では発表を終わります。

出演者情報:大川泰樹(フリー) http://yasuki.seesaa.net/

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田中真輝 2015年8月16日

1508tanaka

耳サラダ

       ストーリー 田中真輝(まさき)
          出演 遠藤守哉

みなさん、こんにちは。
耳で聞くサラダ、耳サラダの時間です。
今週もみなさんのお耳に、
フレッシュな素材の組み合わせが
奏でるハーモニーをお届け致します。

まずはそろそろ夏本番、この季節に
ふさわしい一皿をどうぞ。

プルシアンブルーシャングリラ
インディゴスリーパーパパラッチ
スカンジナビアンシークリーチャー

いかがでしょう。透明感の中にも
力強い陽射しの香ばしさを
感じて頂けたのではないでしょうか。

次は、和風の耳サラダ。
さっぱりとした瑞々しさから
濃厚でしっかりした味わいへの変化が
楽しめる一皿です。

過酸化水素水毘沙門天
伊藤一刀斎脱ダム宣言
環太平洋パートナシップ泥沼

いかがでしょう。
後味のかすかな苦みもまた格別、
といったところでしょうか。

最後は、通好みの熟成感と
弾けるようなスパイス。個性的な
耳サラダをお届けいたします。

墾田永年茶カテキン
ラーマーヤーナと棒状の鈍器
モホロビチッチ不連続面でじょんがら節ジョコビッチ

申し訳ございません。熟成素材の一部が
傷んで少々くどくなっていた可能性がございます。
ここにお詫び申し上げます。

さて、いかがでしたか、本日の耳サラダ。
時折思い出して口ずさんでみると、
その味わいが舌の先に蘇ってくる、
そんな楽しみ方もお試し頂ければ幸いです。
ちなみに私のお気に入りは、
伊藤一刀斎脱ダム宣言、でございます。
では、またの機会に。

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

 

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直川隆久 2015年8月9日

1508naokawa

さらだぎらい

      ストーリー 直川隆久
         出演 原金太郎

ほら。特にオシャレでも下品でもないイタリアンの店の
パスタランチなんかで、
ちまっとしたサラダが出るでしょう。
レタスが何枚か、ひらひらっとのせてあって、
出来合いのドレッシングがかけてある。
あと、喫茶店のモーニングなんかでも、
キャベツの千切りと
トマト一切れの上にピンク色のドレッシングがかけてあるやつが、
ちまっと小皿ででてくる。
だいたい冷蔵庫に入れすぎてて、野菜がぐたっとしてて。

ああいうサラダをもさもさ食いながらね、
毎度釈然としない思いをするんですよ。
ほんとにこれ要るのかしらん?ってさ。

「あのちまっとしたサラダがないと飯食った気がしないんだ!」って人
いるかい。いないと思うよ。
別にうまいわけでもなし、別に腹がふくれるわけでもなし、
別に栄養も豊富なわけじゃなし。
ね?店のほうだって、「このサラダで客を呼ぼう」って意気込みが
別にあるわけじゃなしね。もう「別に」だけでできてる食い物ですよ。

近いのはあれだな。
まったく手書きの文字のない年賀状、みたいな感じだよね。
送る方も義務感だけで送ってて、もらう方も嬉しくない、みたいな。
要するに、店の言い訳に−−−−「品数だしてますから」って言い訳に
つきあわされてんだ。数合わせですよ。
客を馬鹿にしてるよ。
誰かがいつかどこかではっきり言わなきゃいけないと思うよ。
サラダ撲滅運動を起こしてくれるNPOがあったら、寄付してもいいよ。
1000円くらい。

まあでもね、俺も大人ですから。
たとえそんなサラダであっても、それでいくばくか経済が回るわけだから、
まぁよしとしようかと。
で考えたわけ。結局形式なんだからさ、
ほんとのサラダである必要ないんじゃないのと。
たとえばさ、サラダの絵を描いた紙をさ、
いや、なんなら「サラダ」って字だけでもいいよ。
ウェイターは持ってきてさ。客はそれ見てさ、
こう、んーーって睨んで、はい、ごちそうさま、つって食べたことにしとくと。で、まあ、お代はいつも通りに払うと。
もう、そういうことでいいんじゃないかね、サラダについてはね。
そっちのがエコでしょ。エコ。

ていうね、こういう話をいつも楽屋で若い連中にするんですけどね。
きょとんとされて終わりだね。
どうでもいいことでウダウダ言いやがって爺ぃ、って顔してるね。
あんたらもわからないでしょ。…どこの中学の新聞部だって?
ああ〜…いや、知らない。
こんな話で記事になるかい。
なんねえよね。はははは。

おや、出囃子が鳴っちゃったよ。
この話になるとつい夢中になっちまうんだよな。
おい、ちょいと。ネタ帳見しておくれ…ん。
ま、いいや。どうせ客は俺の後の真打目当てなんだから。

数合わせ、数合わせ。
はい、じゃ、行ってまいります。

出演者情報:原金太郎 03-3460-5858 ダックスープ所属

 

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岩崎亜矢 2015年8月2日

1508iwasaki

「パーフェクトなサラダからはじき出されて」

        ストーリー 岩崎亜矢
           出演 地曵豪

1977年11月。男は今日も、人だかりのできた扉の前に立つ。
けれどその奥に広がる光景を、彼は知らない。
だって男は決して“パーフェクトなサラダ”にはなれない存在だから。
扉の前では、ドアマンのマークが「またあいつか」という顔を
してちらりと彼を見る。
毎晩“パーフェクトなサラダ”、つまりはゴージャスでノリのいい人間で
ダンスフロアを埋め尽くすようにと言いつかったドアマンにとって、
たとえ一張羅のスーツに身を包んだところで、男は意味のない人間なのだ。
この店の“ヴァイブ”に相応しくないと、
マークやオーナーのルベルに判断されたら最後、
あのドアの向こうに足を踏み入れることは許されない。
54丁目254番地にそびえる、スタジオ54。
リッチなだけでもダメ。ホットなだけでもダメ。
特別ななにかを持っている人間だけが、あの狂騒の住人となれるのだ。

しかし男には、作戦があるらしい。
勤務先のバーで耳をそばだてて仕入れた情報が本当ならば、
この建物にはガードマンの死角となった裏口があるという。
中にいる人間のほとんどは酒かドラッグで意識なんてないも同然だから、
外のガードマンたちをかわしさえすれば、
そこから中に入るのはそう難しくないというのだ。
裏口へと回り込む算段を男が立てていると、
ショートカットの見知らぬ女が近づいてきた。
そして彼の手を取ると、すいすいと裏口へたどり着き、扉を開ける。
あっけにとられている男を引っ張り、
女はそのまま慣れた様子で暗い廊下を進んでゆく。
もう一つの扉を女が開く。
その途端、ありえないほどの歓声と爆音の
ディスコ・ミュージックが飛び込んできた。
音楽とドラッグとセックスが充満するフロア。
トップレスの女の子たちが、Chicの「Le freak」に合わせて腰をくねらせる。
夢にまでみた光景が、男の目の前に広がっている。
奥のソファでは、アンディ・ウォーホルがジェリー・ホールに
シャンパンを注いでいる。
念願のサラダボウルの中身に、男はようやくなることができたのだ。

ダンスフロアで踊る、男と女。
さて、この女は誰だったろう? 男は考える。
勤務先のバーの常連だろうか。しかし、こんな美人を俺が忘れるわけはない。
男は女に答えを求めようとするも、
彼女は人差し指を口に当て、ニッと笑みを返すばかり。
まあいいじゃないか。名前なんかここでは必要ない。
ファンキーなリフに合わせれば、いつしか体は浮き上がる。
そうして、最高潮の興奮を彼らは手に入れるのだ。
男と女は、キスを繰り返す。レコードは回り続ける。
どうせいつか人生が終わるならば、こんな夜で終わってほしい。
男は心から願う。

朝のざわめきと太陽の眩しさで、男は目を覚ます。
何があったのか、なんとか脳みそを働かせようとする。
しかしわかることはと言えば、
自分がゴミ捨て場に倒れこんでいるということ。
右頬や脇腹がやたら痛むということ。
一張羅のスーツはひどい悪臭を放っているということ。
裏口からの侵入がばれて追い出された、というところか。
では彼女は? 彼女も一緒に追い出されたのだろうか。
男は辺りを見回しながら、ぼんやりと、キスをした女の顔を思い出す。
その口元、鼻、目…。
そしてはたと気づき、呆然とする。
あれはウォーホルのミューズ、イーディ・セジウィック以外の
何者でもないじゃないか。
1971年に薬物の過剰摂取で亡くなった、あのショートカットの妖精。
彼女の死にメディアは大騒ぎをしたけれど、それももう古い話だ。
ひとたび夜の帳が下りてしまえば、
人間と亡霊との間の線引きなんてあやふやなものかもしれない。
男は妙に納得して、家へと歩き出す。

そして今夜も、一夜限りの栄光を手にしようと、
その扉の前には人だかりが生まれる。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html

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