エデンから放たれた男と女は
ストーリー 中山佐知子
出演 大川泰樹
エデンから放たれた男と女は
すぐに一緒に暮らしはじめた。
女はまだ若くあどけなかったし
男も女よりひとつ年上なだけで
ふたりともエデンの外のことについては
何もわかっていなかった。
男には9号という認識番号があった。
女は15号だった。
エデンの外に暮らす人々は
この美しいふたりが自分の土地で暮らすことを喜び
ことあるごとにカメラを向けた。
ある日、黒い大きな翼を持った鳥が女を襲った。
女はやっと逃げたが
動くのが不自由になるほどの怪我をして
誰の目も届かない山のなかに隠れてしまった。
土地の人々は心配して女をさがしたが見つからず
やっと追いついた男を女は追い払った。
私のそばにいると一緒に食べられてしまう….
男は女を守る手段をなにも授かっていなかったし
女もそれを承知で運命に従うしかなかった。
いままで自分たちを傷つけるものがいるなどと
考えたこともなかったが
このときはじめてふたりは
エデンの外で生きることの意味を知ったのだ。
そこでの自由は常に命の危険と引き換えだった。
男は女に追い払われても
木の枝に隠れるようにして近くに潜んでいたが
やがて冬の山の静寂の中で
女の骨が噛み砕かれる音を聞いた。
こうして、ニッポニア・ニッポン
この国で朱鷺と呼ばれる鳥がまた一羽死んだ。
その朱鷺の最後の写真は
捜索した人々がやっと見つけて撮影した
白い羽根と骨のカケラだった。
出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/ 03-3478-3780 MMP