この星の砂の最後のひと粒
ストーリー 中山佐知子
出演 大川泰樹
この星の砂の最後のひと粒まですくいとるように
残った人々をせき立てながら
最終便は出発したけれど
まだ世界のあちこちにはこぼれた砂粒が残っており
僕もそのひとりだった。
どうして乗らなかったの
女が僕にたずねた。
僕も同じことをききかえした。
あなたこそ、どうして
返事はしなかったけれど答えはわかっていた。
お互いのためでは決してない
ふたりとも、寄宿舎よりも窮屈な船で
暗い宇宙を漂うよりも
この風化していく星の広い風景の中に
消えてしまうのを選んだだけのことだ。
完成したジグソーパズルの無数のピースを
悪戯に取り去っていくように
この世界は少しづつ壊れていた。
森がひとつ、町が半分…
理由もなく、法則もなく突然に
そこにいる生き物も人も一緒に消えた。
異次元へジャンプする、とか
ブラックホールが呑み込むのだ、とか
議論をしていた人々は
真っ先に船に乗り込んで行ってしまった。
その船は目的もわからずに宇宙を漂うカプセルになった。
乗り組んだ人々は人類を保存する目的だけのために
生きなければならない。
最後の船が出発した後も
空港は夜になると灯りがともり
ライトアップされた遺跡のように巨大な存在感を示していた。
僕たちはときどき空港へやってきて
まだ動いているエスカレーターで展望台に上がっては
船が飛んで行った空を見上げた。
僕たちはお互いの手を求めることもしなかった。
明日消えてしまうかもしれない相手に心を動かすことが
いったい何になるだろう。
けれでも、ある日、僕はたずねた。
もし、あなたが先に消えたら
僕はどこを眺めればいいだろう。
目を閉じてどこも見ないでと女は答えた。
確かにそうだった。
消えるということはそういうことだった。
そしてその数日後、本当に女が消えていた。
それから僕はひとりで夕方まで過し、空港へ行った。
灯りを避けて
滑走路のはずれの草むらに寝そべって目を閉じていると
鼻の奥がツンとして目から水がこぼれるのがわかった。
その水は僕の体温と同じくらいあたたかく
そのくせヒリヒリと肌にしみた。
出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/ 03-3478-3780 MMP
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