星のお母さん
ストーリー 中山佐知子
出演 大川泰樹
星のお母さん
あなたがたったひとつの秘密を僕たちに教えて
バラバラに散ってしまってから
もうずいぶん長い時間がたちました。
あなたの破片は小さな星々になってただよい
いま、そのひとつに僕が住んでいます。
あなたの最後の思いやりのおかげで
小さな星はひとつについて人がひとり住むことができます。
友だちの星は大家族なので
村と呼べるくらい大きな星です。
けれど、僕の星にだって両親が残してくれた畑と
明るい森がひとつあります。
畑は僕を養ってくれるし
森は僕を元気づけてくれます。
僕は森に入って
小鳥の声を聴いたり
野いちごの赤い実をさがすのが大好きです。
たったひとつ不足といえば
「おはよう」や「おやすみ」を言う相手がいないことですが
でもそれはどうしても必要なことでしょうか。
1週間ほど前、友だちが来て言いました。
森の木を伐って畑を広げないなんてもったいない。
それから2日ほどすると
こんどは見たことのない女の人がきて
森の木を伐って大きな家を建てたら
自分の星と僕の星を繋げてもいいと言いました。
女の人はキレイな顔をしていたし
女の人の星も手入れが行き届いた素晴らしい果樹園で
水を汲む井戸までありました。
でも僕の森はいつもひんやりと涼しく
柔らかい土の下には水が流れています。
そのおかげで僕の星は井戸がなくても
水に不自由がありません。
僕は僕の森を壊したくないのです。
星のお母さん
僕たちの小さな星がどんどん繋がっていくと
いつの日か、バラバラになる前のあなたのように
大きな星ができる。
みんなそれを夢見て自分の星を育て
星と星をどんどん繋げています。
僕もそうするべきでしょうか。
森を壊して、誰かの星を迎え入れるべきでしょうか。
近ごろ、気づいたことがあります。
僕の森がほんの少し、大きくなりました。
よその星の森が壊されたときに飛んできた鳥や虫が
森を広げているらしいのです。
星のお母さんが最後に教えてくれたこと
森も虫も人も、星の一部だということを
どうして僕は忘れていたんだろう。
*出演者情報 大川泰樹 03-3478-3780 MMP所属