本当の東北を忘れたあなたへ

「本当の東北を忘れたあなたへ」

          文 菊池雄一
          声 地曵豪

あの有名旅館も被災地の旅館になった
あの油がのった魚も被災地の魚になった。
あの甘い野菜も被災地の野菜になった。

あれから…
気がつくとあたりまえのように
東北を被災地と呼ぶようになっている。
そんな私に息子が言う。
「被災地ってどこにあるの?」

東北は被災地という名前ではない。
日本のどこにも被災地という場所は存在しない。

本当の東北を思い出してください。

東北へいこう。


*「東北へ行こう」は
自分のとっておきの東北を紹介し、あなたを東北におさそいする企画です
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藤本宗将 2013年6月29日

殺生石異聞

         ストーリー 藤本宗将
            出演 地曵豪

下野国那須郡の寒村に、源翁(げんのう)という名の僧がいた。
法力に優れ修行のために諸国を巡っていたが、
ここ一年ばかりはこの地にとどまっていたのだった。

春も終わりに近づいたある日、
いつものように山で修行に励んでいた源翁は
異様な光景を目にして思わず立ちすくんだ。
こんな山奥には不似合いの若い女が、
山ツツジの繁みにもたれるように座っていたのである。
肌は透き通るように白く、髪は日差しを浴びてきらきらと金色に輝いている。
そしてその顔立ちは、この世のものとは思えぬほど美しかった。
さらにただごとでないのは、女が矢傷を負っていたことだった。
衣は血に染まり、ツツジの花よりも鮮やかな赤が
妖艶さをいっそう際立たせている。

邪気こそ感じなかったが、ただならぬ気配に源翁も言葉が出ない。
これは、いったい何者か。いぶかしんでいると、
女はまるで心が読めるかのように口をひらいた。

「そのむかし唐の国におりましたころ、私は皇帝の妃でございました」

突拍子もない言葉に源翁は大いに混乱したが、
女は取り乱しているのでもなければ、騙そうとしているようでもない。
黙ってこの女の身の上話を聞くことにした。

「皇帝は私を寵愛しましたが、たいそうひどい暴君でした。
狩りで鳥や獣を殺し、豪奢な宮殿のために樹を伐り、戦で野原を焼きました。
食べるためではなく、快楽のために多くのいのちを奪う。
私にはそれがどうしても許せませんでした。
だから皇帝を操り、人間同士で殺し合うよう仕向け、国を傾かせてやったのです。

そのつぎは天竺、さらには海を渡りこの国へ来ましたが、
どこへ行っても人間は自らのことしか考えぬ
恐ろしい生きものでございました。
都では宮中に入り、院のおそばに仕えながら
人の世を滅ぼす機会を伺っておりましたが、
阿倍なにがしという陰陽師にわが正体を見破られてしまい、
命を狙われてここまで逃げてきたというわけです」

そう語り終えたとき、女はいつの間にか狐の姿に変わっていた。
金色の毛並み。九つに割れた尾。
それがさきごろ都を騒がせたという
白面金毛九尾の狐(はくめんこんもうきゅうびのきつね)であると、
ようやく源翁は理解した。

「私はただ、生きものたちの暮らす場所を守りたかった。
けれど、その願いはもはや果たせそうにありません。
国じゅうの山も野原も、いずれ人間どもの戦で荒れ果てるのでしょう。
ただ、せめてここに咲く美しいツツジは、人に踏みにじらせたくないものです」

そう言うと狐はよろよろと立ち上がり、
源翁を残して山を下りていった。
そして麓近くで力尽きた狐は、巨大な石へと姿を変えた。

石からは毒気をはらんだ煙がもうもうと立ち上り、
あたりには草木も生えなくなった。
気味悪がった村人たちは石を捨てようとしたが
煙を吸った者はばたばたと倒れてしまう。
いつしか石は「殺生石(せっしょうせき)」と呼ばれ、
山には誰も近寄らなくなった。

ただひとり源翁だけは近くに小さな庵をむすび、狐の魂を弔った。
狐と人と、どちらがひどい殺生をしたのか。
ずっと考えてみたが、とうとうわからなかった。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/

 

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神谷幸之助 2013年6月9日

ユゥブ・ガラ・メール

        ストーリー 神谷幸之助
           出演 地曵豪

そのメールの意味を理解するのに
ひと月かかった。

スパムメールに埋もれていたそのメールは
いつもありえない時間から送られていた。

送信日時は 毎回10年先のきょう午前0時。

最初は
時計が狂ったパソコンから
送られたものだと無視していた。

しかし それは本当に未来から送られていた。
インターネットが 現在と未来をつなげたんだ。

そして その送り主は
おそらく未来にいるオレ自身。

返信はできない。
送れる文字も限りがあるようで 数字だけ。

仮にむこうが文章を送っているとしても
文章として届いていないことに
書き手は気づけない。

このことは誰にも話せなかったし 話したくなかった。
話してもアタマがおかしいと思われるだけだろう。

すべては 空想するしかなかった。

こんな不完全な
一方的なコミュニケーションだったが
これは事実上の「タイムマシン」だった。

未来では標準装備されている
メールの新しい機能なのか
はたまた
時間軸が歪んだインターネット回線上の
偶然の現象なのかそんなことはわからない。

だけど オレは毎日興奮していた。

それはこのタイムマシンで
彼は オレに あるメッセージを
送ろうとしていることは
あきらかだったからだ。

NA:
「ここからふたつのエンディングをお楽しみください。
 まず、エンディング/タイプAをどうぞ」

頭からケムリが出るほど考えた。

00012200122011

いつも数字は
0と1と2の組み合わせだった。
そして いつも14けた。

その番号で電話をかけてもつながらない。

プログラムの授業で習った
二進法のコンピュータ言語を
もっと勉強すればよかったと悔やんだものだ。

だけど 今日やっとわかったんだ。

未来のオレがそんな難しい問題を
自分に出すわけがない。

いつも毎週末
自分がいちばんどきどきする数字。

00012200122011

これはサッカーくじTOTOの当たり番号だ。

1はホームチームの勝ち
2はホームチームの負け
0は引き分け
14はJリーグのゲーム数。

01012200122011

毎週末送っていたのは
その週末に行われた試合結果だったんだ。

「賞金を未来に送れ」

これが、メールの意味だった。

NA:
「次のエンディング/タイプBをお楽しみください。」

その長い数字の暗号は 簡単だった。
「あ」が1
「い」は2
「う」が3
というように
50音に数字の番号をつけただけだった。

18/6/2/10/32・・・

つ・か・い・こ・・み・・?

「ツカイコミ ガ バレ ソウダ」
やっぱりこいつはオレだ。
会社の使い込みの件は、誰にも話していない。

「シキュウ イッセンマン コウザ ニ イレロ」
そうか いま口座に入れれば
その数字は未来に送れることになる。

翌朝早速 銀行に 行き
定期預金を解約し 1000万普通口座に入れた。

同時に スマホでメールボックスを開ける。

「1/43/6/20/3 ・・あ・り・が・と・う・・」

ありがとう?
しまった。

オレが オレオレ詐欺にかかって どうする。

急いで
キャッシュディスペンサーで残高を調べる。

口座の金は、ケムリのように消えていた。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/

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篠原誠 2013年5月6日

トビラは二つ

       ストーリー 篠原誠
          出演 地曵豪

男:もしもし、鈴木です。お疲れ様です~。
  今、大丈夫ですか?
…私ですか?わたしは、今ちょうど、別件終わりまして、
  そちらに合流できるかなと…
  もうじき、会社のゲートを出るかなといいながら……いま、出ました!
  そちらは、どんな感じでしょうか。 
  …あ、その感じは、今、話しづらい状態ですね。
…まだフロア?てことは、課長が前でいる感じですね。
…あ、課長は、帰った感じですか。
…はい、あ、そちらももう終われる感じですね。
はいはい。
……あれ?
  え、なんだよ。え、もうフロアでたの?
  …エレベーター乗ったの?電話してていいの?あ、一人?
  …こっちは、もう外、駅に向かってるけど。
  …いや、駅で待ち合わせようよ、まだ会社の人が
  周りにいっぱいいるし、二人で帰ったら怪しまれるでしょ。
  …今日、どうする?映画でも見る?
  それとも、さくっとご飯食べて、俺ん家にくる? 
  ……え、別に、そういう意味じゃなくて、
  でも、最近、やってないし。
  …え~、ちょっとイチャつきたいわけよ。普段できないからさ~。
  …泊れるんでしょ。
……え、明日休日出勤?
  …え、マジで?どんだけ働かされてるんだよ。
  …また課長と!?ちょっとぉ~、なんか怪しいんじゃないの~。
  この前も一緒に大阪出張いってたじゃん。それも、同室だったんだろ?
…いや、コスト削減でも、それはやりすぎだろ。課長も狙ってんじゃないの~。
……結婚しててもわかんないよ~。そんな人いっぱいいるし。
…ごめんごめん、ちょっと、言いたかっただけだよ。
…もちろん、信じてるし。
…俺?俺と課長の方が、怪しい!?
…あり得ないって、俺、無理。生理的に無理だわ。それだったら部長の方がいいよ。
…ウソウソ。あ、おれ、もう駅ついたから、改札のとこで待ってるね。
  じゃあね、ヒロシ、待ってるからね。

出演者情報:地曵豪(フリー)http://www.gojibiki.jp/

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上田浩和 2013年4月7日

バイオリン弾きと剣道家とれんこん

       ストーリー 上田浩和
          出演 地曵豪

ある街の、古びたアパートの一室で、
バイオリン弾きと剣道家とれんこんの三人が共同生活をおくっていました。
バイオリン弾きは、ゆでたまごのようにつるりとした顔の物静かな男。
剣道家は、寝る時も含め常に面と胴と小手をつけている風変わりな男。
れんこんは、穴のあいたあのれんこんです。たぶん男です。
三人はバンドを組んでいました。
といっても、ボーカルやギターがいたりするバンドではなく、
彼らなりのちょっと変わったバンドです。
たまにはライブハウスで演奏したりもします。
まずバイオリン弾きがバイオリンを弾きます。
そこから生み出された音符の群れは、豊かな曲をつくり、
観客をうっとりさせたあと、れんこんに引き取られます。
れんこんは、その音符たちを力いっぱい吸い込み、
自分の穴にたくさん詰め込むと、いっきに吹き鳴らします。
トランペットよりもいっそうにぎやかな音色に、観客は熱狂します。
そして仕上げとして、再び空中に舞い上がった音符を、
今度は剣道家がステージ上を所狭しと駆け回りながら
竹刀でひとつひとつ叩いていくのです。
叩かれた音符は、竹刀と共鳴し、新しい響きをともない、
観客の心を震わせました。
ライブ会場は、
いつも割れんばかりの拍手と歓声で埋め尽くされました。
レコードだって一枚だけですが出したことがあります。
でも、三人は、プロではないのでふだんはアルバイトをしています。
アルバイトとは言っても、
バイオリン弾きはバイオリンより重いものを持ったことがないし、
剣道家は防具を取ろうとしないし、れんこんはれんこんだから、
たいした仕事ができるわけでもなく、
バイト代は三人分足してもわずかな金額にしかなりません。
だから常に金欠状態。それでも三人は楽しそうでした。
お金がなくても、そろって音楽さえできればそれでよかったのです。
こんな毎日が一生続けばいいな、三人はそう思っていました。

そんなある日、れんこんの元に黄色い葉書が届きました。
そこには「あなたが辛子蓮根に選ばれました」とありました。
れんこんは目を輝かせました。
れんこんが辛子蓮根になるということは、
野球選手がメジャーリーグに行くくらい難しいことで、
名誉なことなのです。
でも、れんこんのうれしそうな顔は、すぐに悩める表情に変わりました。
れんこんが辛子蓮根になるということは、
れんこんにとっては夢のような人生ですが、三人にとっては、
夢の終わりを意味しているからです。
自分の夢を追うか、三人の夢を守るか。
そんなれんこんの葛藤を、
バイオリン弾きも剣道家も十分に分かっていたので、
笑顔で送り出してやりました。
れんこんも、そんな二人のやさしさを無駄にしたくなかったので、
笑顔で旅立っていきました。

れんこんがいなくなってから、
部屋のなかはとても静かになりました。
しゃべって盛り上げるのはれんこんの役目だったので仕方ありません。
それに二人だけでは音楽をする気も起こりません。
二人は仕事を減らし、部屋にこもるようになりました。
もともと必要な物などないからお金は最小限あればいいのです。

小包が届いたのは、それからしばらくたったある日のことです。
黄色い包装紙を見ただけで二人にはぴんと来ました。
でも、それをすぐ開ける勇気がありませんでした。
二人にようやく箱を開ける決心がついたのは、同じの日の深夜。
れんこんが叶えた夢を見届けてあげようと、バイオリン弾きが言い、
剣道家が頷きました。
中にはやはり辛子蓮根が入っていました。
久しぶりの再会にもかかわらず、二人に笑顔はありません。
これが昔はれんこんだったなんてとても信じられませんでした。
それでも、バイオリン弾きは、じっくり時間をかけて気持ちを固めると、
ゆっくりと手をのばしました。
剣道家はお面を取りました。そして小手を外すとそっと両手を合わせ、
震える声でいただきますと言いました。
口に入れると二人の頬を水滴が流れ落ちていきました。
その涙は、辛さのせいなのかなんなのか分かりません。
シャキシャキ、シャキシャキ。
シャキシャキ、シャキシャキ。
二人が口を動かすうちに、
いつのまにか部屋は軽快な音で満たされていました。
まるで二人の口元から音符が溢れ出してくるようです。
れんこんがそこにいて音楽を奏でているようです。
剣道家は竹刀を手に取ると、
部屋中に舞い上がる音符をひとつずつ叩いていきました。
懐かしい響きが聞こえました。
それに合わせて、バイオリン弾きがバイオリンを弾きました。
三人の音楽がそこにありました。
その夜、三人は、三人の部屋で、三人のためだけのライブを開きました。
それは一晩中つづきました。

翌朝。バイオリン弾きと剣道家は以前のように
アルバイトに出かけていきました。
二人は、二人だけでもう一度バンドをやろうと決めたのです。
そのためにはどうしてもお金が必要です。
誰もいなくなった三人の部屋を、
棚の上から一枚のレコードが見守っていました。
三人のデビューレコードです。
そのジャケットの写真のなかでは、バイオリン弾きと剣道家とれんこんが、
やや緊張した面持ちで笑っていました。

出演者情報:地曵豪(フリー)http://www.gojibiki.jp/

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一倉宏 2012年1月1日

 なかなかうまくいかない

       ストーリー 一倉宏
          出演 地曵豪

それでどうなの さいきん 
と きいたら
それが やっぱり
と きみはこたえた

なかなか 
うまくいかないものですね

そうだね
なかなかうまくいかないよね

で なにがうまくいかないの
って きいたら

いろいろと

そうだ
そのとおりだ

けさも しんぶんをひらいたら
せかいは
なかなかうまくいかない
ことだらけだったし

だれかさんの めんせつも
だれかさんの プレゼンも
だれかさんの こいも

ほんやのいりぐちにならぶ
なんでもうまくいくほうほう
なんて よむなよ
  
そんなほんばかりが 
うれるこのごろ
なかなかうまくいかない と
こころある へんしゅうしゃも
なげいていた

おそらく
せかいは
なかなかうまくいかない
ことで できているのだろう
かくごしよう
あきらめずに

それでも

きみは
なかなかうまいカレーだったら
つくることができるし
なかなかうまいうただったら
うたうことができる

おやすみ

みんな
なかなかうまくいかない
いちにちをだいて
ねむれ

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html

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