夢で逢いましょう
「夢で逢いましょう」って、あの人が言ったのね。
うん、わかった。
で、本当の言葉はどうだったの?
「夢で会おうね」それとも「夢で会えるよ」?
まさか「夢なら会えるよ」じゃないわよね。
最近、あの人の夢を見ないでしょう。
以前は毎晩のように見てたのにどうしてかなって
思ってるでしょう。
言っとくけどね、あたしは食べてないよ。
鮮度が落ちたし、パサついてきたんだもん。
昔はおいしかったなあ。
水分たっぷりで、いい匂いがして、
ひたむきで切実で、あのころのあんたみたいだったわ。
いちばん最初に味見させてもらったときは
うっとりしたものよ。
あんまりおいしいから全部食べちゃ悪いと思って
残しといてあげたの。
ねえ、あれから何年たったか覚えてる?
じゃあ、夢で会えますようにってオマジナイをしなくなったの、
いつからか覚えてる?
お酒飲まなくても眠れるようになったのはいつ?
ふたりの隠れ家だったバーに友だちを連れて行って
「この店、いいでしょ」なんて言えるようになったのはいつ?
あの人の名前を聞いてもドキドキしなくなったのはいつ?
あなた昨日、他人の名前を呼ぶような口調で
あの人の名前を口にしたでしょう。
夢はそうやって枯れていくって、あなた知ってた?
教えといてあげるね。
夢は現実の寄生虫。
現実を肥やしにして育つもの。
あなたの現実が貧しいから夢も育たないの。
本気であの人の夢を見たかったら
あの人のために泣いて笑って悩んで苦しみなさい。
そして、またあたしにおいしい夢をご馳走してよね。
じゃあ、またね。