山本高史 2010年10月24日



誕生日。

ストーリー 山本高史
出演 光野貴子

誕生日おめでとう、って、どこがおめでとうなのかな、べつに誕生
日だからっておめでたいことあるわけでもないし、って言うと、知
り合いのオバさんが、「それはその年まで命を保て、その日からま
た新たな一年を迎えられることがおめでたいのよ」と教えてくれた
ので、なるほどそういうことだったのかと理解したが、帰り道には
誕生日おめでとう、って言う側の連中はそんなたいそうな意義なん
て絶対知らないぜ、万が一そんな意義込めておめでとうなんて言わ
れたら、ひいちゃうぜ、と思った。

出演者情報:光野貴子 03-5571-0038大沢事務所
音楽:坂出雅海(ヒカシュー) http://twitter.com/sakaidesan

shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋


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山本高史 2010年6月26日ライブ



タケシ

ストーリー 山本高史
出演 山本高史

                     
 両親はきちんと見えてるようだから、オレが生まれつき目が見えないというのは何かのはずみだ。な-んにも見たことがない。そうして17年間生きてきた。
「不自由な思いをさせて」と親に悲しそうな声で泣かれたりしてきた。もちろんオレが自由だとは思わない。でも自分のできることはすべてできる。ギターも弾けるしね。チャーハンくらいならひとりで作れる。いいことと悪いことを自分なりに判断もできる。自分のできないことが多いことを不自由と呼ぶのならば、ぼくもそうだが目の見える人も不自由ってことだろう。同じだ。目は見えないが耳や鼻はその分優秀らしい。小学2年生のとき友達の家のかすかなガス漏れに気づいたこともある。自分としてはお利口な犬のお手柄みたいでちょっと嫌だったが、命拾いした仲間たちにはそれからしばらく「ゴッド」と呼ばれた。目が見えなくて耳と鼻が少しいい人生がどういうことか、他人の人生と比較のしようがないのでオレにはわからない。いいも悪いもオレにはこれしかないんだから、満足も不満足もない。もしオレの目が見えていても、きっとそういうことだろう。

 ある日大ニュースがあった。オレの目が見えるようになるらしい。医学の輝かしい進歩だ。両親はオレの手をとって、泣いていた。オレは生まれつきのことだから慣れっこになっていたのか、もしくはこれはこれで問題もなかったので見えることを激しく望んだことはなかった。しかしいいニュースに違いない。わくわくもする。これを喜ばなければ何を喜ぶべきか、って感じ。入院して手術して成功した。あっけなかった。手術前は「怖くないですよ」とか「痛くないですよ」と吉田先生や看護師の岡本さんにむしろ脅された。目の中にメスという名の刃物を入れるらしい。しかしオレはメスというへんな名前のヤツはおろか自分の目ん玉も見たことはないのだ。見たことないもの同士で彼らの言う恐怖をどう組み立てていいのかも想像もつかない。そんな感じも含めて手術はあっけなく終わった。岡本さんが言うには、吉田先生は名医で経過は順調だということだった。岡本さんは可愛い声の人で、ハタチだと言っていた。オレはまだ17だから働いている女の人がみんな年上なのはしょうがない。体温とか血圧とかでカラダを触られると、正直どきどきした。包帯というヤツで目の回りはぐるぐる巻きだったが、病院の中を普通にあちこちうろうろもできたし、もともと見えないからね、入院生活もイヤな感じじゃなかった。

 そしてメインイベントにしてクライマックス、目の包帯を取る日がやってきた。オレとしては何が見えるということよりも、見えるという感覚はどういうものなんだろということでアタマがいっぱいで、でも想像してみたところでわかるわけなくまあい
いか程度の気分でいたが、母親や岡本さんのほうが興奮していることは声のトーンでわかった。テレビの感動ドキュメンタリ-にありそうな話なのだ。そのうちオレのまわりで、オレが最初に見るべきものは何であるかということが議論が始まり、オヤジが「やっぱり自分の姿だろう、自分の存在をはっきり自覚できるから」と言い、なんだよちょっと待てよオレはそもそもここに存在しているではないかということを口にしようとしたが、まわりの連中は一気に納得したみたいでオヤジは満足げに咳払いをした。「じゃあ始めます」とカウントダウンしかねないようなウキウキした声で岡本さんがオレの包帯を取った。「さあゆっくり目を開けてだいじょうぶだよ」という吉田先生の声でオレが自分の目で生まれて最初に見たものは、壁にかかった板だ。つるんとしている。これが鏡というヤツか。ものや人を映すものと聞いたことはあるがもちろん見るのは初めてだ。映すとはこういうことか。そしてつまりその鏡という板にへばりついているヤツがオレということになる。これが鼻か。穴はこういうふうに開いていたのか。以前から目と鼻の位置関係はほぼつかんではいたものの、正確にはこういうふうになっているのか。試しに口を開いてみた。なんだこの肉の色。なるほどそうかこういうのを色というのだな。その奥は見えない穴だ。こんなところに食べ物を放り込んでいたのか。食べ物ってのは何なのかね。何だったのかね。固かったり軟らかかったり乾いていたり濡れていたり。そう思いながら、オレはガッカリしたし疲れた。オレは自分がこんなに物体だとは思わなかった。食べ物と同じ物体だ。固かったり軟らかかったり乾いていたり濡れていたり、何なのかねオレ。外の世界のないオレには想像力しかなかったから、でも想像力は無限につながっていってオレを飽きさせることはなかったから、自分は大きいも小さいも固いも柔らかいもなく表わしようもないくらいとてつもないものだと思い込んでいたけど、目の前のこの物体じゃあなあ。…醒める。タケシという名前はコイツこの物体につけられた名前だ。オレじゃない。それにしても鏡。おまえ何映してんだ?ほんとおまえつまらねえヤツだな。オレは鏡を叩き割りたい衝動を押さえるように目を閉じた。すっごく落ち着いた。

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山本高史 2010年5月23日



地平線。

ストーリー 山本高史
出演 毬谷友子

つまらないわね、地平線。
いいよ、広大だよ、感動するよ、って聞いてたのよ。
だから、地平線という「ブツ」があると思ってたの。
その「ブツ」が私に何か素晴らしい体験をさせてくれる。
「ブツ」じゃないのね、線なのね、まあ、線ってついてるけど、
まさか線だけとはね。

でね、私これ、線ですらないと思うの。
空があって地面があって、それでその継ぎ目が結果的に線になってるだけでしょ?
神様は積極的にそこに線を引こうと思ったんじゃないと思うの。
神様は空と地面をつくってそこで気が済んでどこか次の場所に行っちゃって、
それを見た人間が、お、空だ、お、地面だ、おいおいあそこに線だべ、
フムフムなるほど線に見えるだべ、っていきさつだったと思うの。
地球黎明期のこぼれ話。

ま、成り立ちはどうであれ、とりあえずコヤツは線である、としましょ。
でね、線、おもしろい?線に感動する?
感動するって言ってたお友達、もともとセンスのない人だなと思ってたんだけど、
パープルにブルー合わせたりね、あの人の感覚こそ感動ね。
「街で暮らしてたら一生出逢えないから!」って涙目で言ってたけど、
出逢えるわよ、って言うか、描けるわよ、私。線だもん。
ちょっと気がついたことがあるので逆に教えてあげたいんだけど、
地平線がある=(イコール)何もない、ということなのね。
シャネルも、ヴィトンもないし、ディーン&デルーカもマクドナルドもない。
あらま、後ろ側も地平線。
シャネルも、ヴィトンもないし、ディーン&デルーカもマクドナルドもない。
あの人、こんなことも言ってたわ。
「地平線を眺めながら、その向こうに何があるか思いを馳せるんだ」
それを聞いたときの私の想像力によると、
まず地平線という恐ろしく感動的な「ブツ」があり、
地平線の手前からはその先は見えないが、
そこについてるドアを開けて向こうに行くと、
あらまこんなところに「ほにゃらら」が!ってことだったのよ。
あの人には何が見えたか聞かなかったけど、
今の私にはコーラの自動販売機くらいしか思い浮かばないわ。

ケータイ、圏外じゃない。i-phoneだから?
タクシー呼べないじゃない。さっき返さなきゃよかった。
この際だからバスでもいいわよ。バス停はどこ?バス停「地平線前」。

出演者情報:毬谷友子 J.CLIP http://www.j-clip.co.jp/

shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋・浜野隆幸


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山本高史 2010年2月20日ライブ



「プライド硬度計」

          ストーリー 山本高史
             出演 山本高史

いつものバーで、ヨシダが思い出したように「ちょっと考えたんだけどさぁ」と言う。
(いいこと思いついちゃったんだよね)の顔だ。
「何?」と、オレが聞くと「プライドって、あるじゃん」と、ヨシダ。
「あるよ」と、オレ。
「プライドが傷ついた、って言うじゃん」と、ヨシダ。
「言うよ」と、オレ。
「あれさ、自分はその辺です、って言ってるんだよ」
「どうゆうこと?」
「Aという事実でプライドが傷ついたってことは、
そいつのプライドはAという事実よりも柔らかいんだよ」
なるほど。
「つまり自己申告しているんだね、自分のプライドの硬さ」
そういうことになるかな。
「それをオレはね、『プライド硬度』と名づけたわけ」
ヨシダ得意の(いいこと言うでしょ!)って顔だ。まあいい。
「それで何が、例えば硬度5なわけ?」と、オレ。
「そこまではまだ考えてない」と、ヨシダ。
・・・なんだよ。

カッセキホウニシテケイリンナガシセキオウコウニシテダイヤアリ。

「じゃあ硬度5から決めようか」と、ヨシダ。
「まず自分で決めろよ」突き放す、オレ。

熟考約5分。

「じゃあ、『クライアントに、自分の意見よりも部下の意見を尊重される』ってどう?
それで傷ついたらプライド硬度5」やっと、ヨシダ。
「そういうことって傷つくんですか?」と、ウエダ。オレの会社員時代の部下だ。
「オマエにはそういうことはなかったけどな」オレ。
ウエダ、ムッとしている。
「まあ、この辺から上下を決めてみようよ」ヨシダ。
「まず前後、だな。4と6」オレ。
「『知り合いからの郵便物のあて名の自分の名前が、ずーっと誤字』ってどう?」
このバーのバーテンダー、マツが割り込んできた。
面白くて悲しいね、それ。

「じゃあ『休日出勤で夜家に帰ってきたら、家族全員食事に出ていた』は?」ヨシダ。
「わかるよ」マツ。
そうなの?オレ、わからないよ。
でも「それとさっきの『誤字』とどっちが上?」
「こっち」と、ヨシダ。
「こっち」と、マツ。
じゃあ、「自分以外の家族が食事」をプライド硬度6ね。「誤字」は4。

「ぼく、よく歩いているときカラスに頭を突かれるんです」ウエダ。
それがどうした?
「ぼく、それで結構プライド傷つくんです」
「プライドって問題かね」マツ。
ウエダが大急ぎで反論する。
「だって、動物になめられているんですよ。人間の尊厳に関わるじゃないですか!」
でもそれって、オマエの尊厳はカラスと並び、ってことだぜ。
「オマエ、よくイヌに吠えられるだろ?」
「はい」
「傷つく?」
「たまに」
決定「カラスに突かれる」は硬度1。
「あと、ラーメン屋で注文の順番をよく間違われます」ウエダ。
別にオマエの情けない話を聞く会ではないのだが。
「それでプライドが傷つくって言うの?」
「もちろんです!」
じゃあ、「ラーメン屋で注文の順番を間違われる」を硬度2でいい。
ウエダのプライドは柔らかいね。

「見え見えの義理チョコは?」ヨシダ。
今さらする話題かね?でもマツが続ける。
「そうなんだよね、割と凹むよ、毎年」
「ウチの社員の女のコに、たまにコンビニの袋から渡されるんだぜ」ヨシダ。
「ぼくは毎年です」と、ウエダ。
そういうの、傷つくより怒れよ。
「入れとこうよ」ってヨシダが言うから、まあいいか、
「ラーメン屋の順番」と「自分より信頼される部下」の間くらいのような気が
しないでもないから、硬度4。

下の方が埋まったな。

「昨日息子と腕相撲したらさ」ヨシダ。
「負けたんだろ?」オレ。
「完敗」
やっぱり。
「ヨッちゃんとこ、いくつだっけ?」
「中1」
まあキツイのはわかるけどさあ。
「オスとしての現役感を否定された感じがしてさ」
そんなことで泣きそうになるなよ。
「これ硬度7にしてくれないかなあ」ヨシダ。
懇願するなよ。遊びじゃないかよ。
わかりましたよ、はい、決定。オスの現役感の否定は、プライド硬度7。

「部員全員にアンケートをとって、部内で要らない人NO.1に選ばれちゃったら、
さすがにプライドズタズタでしょうね」
何てこと考えるんだ、ウエダ。
「7票-3票-1-1-1-1、みたいな感じでちょっと抜けたNO.1」
そりゃもう会社行きたくないよな。
「2位の人は定年前だったりするんですが、自分は働き盛りのはずの38才」
ウエダ君、キミ、ブラックだなあ。
「7票の内訳は、先輩後輩も、男女も半々くらいで、偏りのない幅広い支持」
わかりました。硬度8です。オレはもうこの辺で傷ついてといてもいいかな?

「妻を後輩に寝取られる」暗い声で、マツ。
なんか壮絶な話になってきたな。
「そりゃダメだわ」ヨシダ。
オレもそう思う。
しかしそんなことまで引き合いに出して、プライドを測るべきなのか?
とりあえず、プライド硬度9に認定。

「妻を後輩に寝取られる」が9ということは、
それでも傷つかないプライドが存在するということだ。
カラスに頭を突っつかれて傷つくプライドと、妻を寝取られても傷つかないプライド。
人生いろいろ、プライドいろいろ、か。
とっとと硬度10を見つけてこのゲームにおさらばしたいという気持ちと、
その10のとんでもない予感におびえる気持ちが一緒くたになって、
男たちは黙り込んでいた。

「・・・痴漢」ヨシダが自分の余命を告白するかのように口を開いた。
もう聞きたくもないが聞かざるを得まい。
「・・・どういうこと?」
「・・・痴漢で誤認逮捕」
あああ、それ無茶苦茶だわ。
男4人、うつむく者2人、宙を見上げる者2人。
まあいいさ、これでやっと終われる。プライド硬度栄えある最高峰は
「痴漢で誤認逮捕」に決定されました!いいよな、これでもういいよな。

「あのー」
やめとけよ、ウエダ。これでいいじゃないか。
でもウエダは続ける。
「『痴漢で誤認逮捕』でプライドが傷ついたら、プライド硬度『10』なんですよね?
ということは、それでも傷つかなかったらプライド硬度はどうなるんですかね」
会社ではいちばん要らない人に選ばれて、家では後輩に嫁さんを寝取られて、
ついには痴漢で誤認逮捕されても傷つかないプライド?

あのな、その人、プライドないんだよ。

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山本高史 2010年2月18日



「あだ名」

ストーリー 山本高史
出演 池田成志

確かにオレは他人に厳しいですよ、特に若い連中にね。
ええ、やつらに陰で何て呼ばれているかも知っています。
でも仕事ですよ、厳しくて当然じゃないですか、厳しくないほうがおかしい。
だって、一つの仕事を成し遂げようとする。
仕事をする以上は、よりよい成果を上げなければならない。
ここまではいいですよね、ヘンなこと言ってませんよね。
よりよい成果を上げようとする、ならばチームのレベルの下のほうに合わせます?
若いやつは仕事ができない。
できるといわれている連中も、そのキャリアにしてという注釈付きだ。
いやいや、それを責めてるんじゃない。
キャリアが浅いんだから、できないことが多いのは無理もない。そこからやればいい。
でも、現状できないのは事実なんだよ。
だったらわざわざ平均点を下げるような作業方法、とらなくてもいいじゃないですか。

オレがこの間、Aという社員の企画書をチラ見でスルーしたことが、
問題になってるんでしょ?ええ、知ってます。明るい職場委員会でしたっけ?
それで今こういう時間が設けられている。
へー、企画書、破いたことになってるんですか?
今どき、そりゃ勇ましい。
でもオレは時代遅れの鬼軍曹役引き受けるつもりはないしね。
ただ合理的に無視しただけ。
Aという社員の企画書は、一目見てわかるくらい使い物にならなかったから。

若い連中は育ててやらなければならない。
それは私も同感です。そうしないと会社が続かないから。オレらも食っていけない。
そりゃそうなんだけどさ。
あのね、例え話は好きじゃないんですが、だって回りくどいから、
でもまあしますけどね。
例えばサッカーだとね、ゴール前に緩いパス出して、さあ蹴りなさい、
ゴール決めなさい、ってハナ持たせるのかケツ拭いてやるのか知らんが、
そんな機会を若い子たちにあげるのが、人気のある上司なんですってね。
あなたも、ですかね。
できてなかったら待ってやるんでしょ?
失敗したら励ましてやるんでしょ?
スペース作って蹴らしてあげるんでしょ?
素晴らしい!パワハラなんて、どこの国の話?あ、あいつの話だ、ってオレの話か。

でもそれ、まやかし、でしょ?
一晩待ってあげて残業させて、月末には残業代が多いって責める。
使い物にならない企画書を持ち上げておいて、
彼らを使い物にならない状態でほったらかしにして、
そう言えば最近、リストラやってますよね。
まやかし、ですよね。
若いやつらは育てばいいんです。育つやつは育つ、
そうじゃないやつはそうじゃない。
育ちたかったら育てばいい。育てようなんて考えこそが不遜だ。
育ててもらおうなんて気持ちがあること自体が不純だ。
プレッシャーだ、権力だ、パワハラだ。
プレッシャー結構。押し倒されてなんで立たないんだろうね?
立ち上がらずに何泣いてるんだろうね。
権力上等。頑張って、強くなって、いい仕事できて、偉くなって、
それで威張って、どこがダメ?
そうか、パワーがあることを見せちゃダメなのか、それがパワハラの正体か。
じゃあダメだ、オレ、パワハラの塊。

知ってますよって、私のあだ名、「北風」でしょ?
弱いやつのコートを力づくで脱がすようなやつ。
うまいこと言いますよね。名づけ親の顔がみたい。
今会社に必要なのは、温かく見守って自らコートを脱ぐようにしてあげる太陽さん。
任せますよ。
でもやつら、脱いだコートを持つのが重いって、どこかに捨てていきますよ。
今度寒くなったら凍えるのに。
春夏秋しかないんだったら、それでいいけどね、あ、そうか、沖縄転勤か。

出演者情報:池田成志 03-6416-9903 吉住モータース所属

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動画制作:庄司輝秋・浜野隆幸


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山本高史「伝える本。」2月18日発売
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山本高史 2009年7月23日



  影
             

ストーリー 山本高史
  出演  山田辰夫

奥さん、影ですよ、と。
だいじょうぶ、なにも売りつけたりしませんよ、と。
今日はちょっとしたクレームに参りましたよ、と。

広告会社にお勤めのご主人、頑張ってらっしゃいますねえ。
男はよく働いてたくさん稼ぐ。
それがいちばん。ところがですねえ。
この間ご主人がおつくりになったチョコのCM、見ましたよ。
女子高生たちが♪ウチらのハートはドキドキ、って
縄文式土器から出てくるやつ。
ものすごいインパクトでした。
こんなことどんな頭が思いつくんだろうな?ってね。
こんなの通すクライアントもクライアントですが、
考えるほうの責任ですわな。

ふ~(鼻息)。ここまではいいんですよ。
少なくとも私の問題じゃない。
そんでね、歌の続きの♪ちょっと「カゲ」あるいい男~のテロップが、
陰気の陰じゃなくて、私の影、シャドウですわな、
その影になってたんですよ。
私、陰気の陰じゃないですから。私、シャドウですから。
最近パソコンで文章書いたりすると、
こういう誤字多いですけどね、
陰気とシャドウの違いもわからないのは、誤字じゃないですから、
誤脳ですよね、脳みその脳。

よくね、私のこと暗いっておっしゃる。誤脳の人、おっしゃる。
陰気とシャドウの区別もつかないお宅のご主人のような方、
おっしゃる。
奥さんもきっと、思ってる。仲良きことは美しきかな、
えぇえぇ、そうですよね、似た者夫婦。
ところがどっこい、あなた方大間違い、残念賞。
ヤツはそうなのよ、陰と陽って言うでしょ、
ヤツは暗い、陰気の陰だから。
その勢いで、光あるところ影がある、なーんて私のことおっしゃる。
ところが私、暗くないです。ぜーんぜん暗くない。
光の下ですよ、太陽の下ですよ、私のいる場所。
光り輝くシャンデリアの下ですよ、私のいる場所。

暗闇で見ました?陰気な雨の日に、私いましたっけ?
明るくまぶしい場所にしか、私いませんから。
真夏の砂浜の上に、胸のふくらみも腰のくびれもくっきり浮き出た影が、
暗いですか?ヤフオクでは、その影だけでも売ってくれ、って
マニアが高値をつけてるんですよ。

あのね、影はむしろ光ですよ。私は光の子ですよ。
つまり♪ちょっとシャドウあるいい男~じゃねえ、
太陽の高い晴れた真っ昼間の短い影のことですぜ、奥さん。
ご主人がそれを言いたかったんなら別ですがね。へへへ。

ではこの辺でおいとましますよ、と。もうすぐ夜ですからね、と。
暗い夜が怖いんですよ、私。消えちゃいますから。
最後に関係ないこと一つ、いいですか。
奥さん、かわいいですね。奥さんの影になっちゃおうかなあ。
影のように付きまとえるしね。あ、これは、私の「影」でいいんです。
しつこく付きまとうのは、シャドウ。

出演者情報:この収録が山田辰夫さんの最後の仕事になりました。
      最後に所属していた事務所は、03-3352-1616 J.CLIP

shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋


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