直川隆久 2014年4月13日

「微笑みという武器」

      ストーリー 直川隆久
         出演 川俣しのぶ

あなたがもし怒りに身をまかせれば、
その怒りが真っ先に焼き尽すものは
あなた自身の心です。

本当の武器。
それは、微笑みです。

子供の頃から私は、一風変わった子供だったと思います。
両親とともに様々な国を転々とし様々な文化にふれるうち、
世界の原理を知りたい、という哲学的な欲求をもつようになりました。

大学を卒業するころ、
とあるメゾンのクリエイティブディレクターの誘いで、
ファッションモデルの仕事を始めました。

パリ、ミラノ、ニューヨーク、上海。
富と美とが流れ込む都市を転々としました。
狂騒の日々の中でいつ醒めるともしれない酔いを感じながら、
常に、ここにわたしの居場所はないと感じていました。

そんなときに、ダミアンに出会ったのです。
彼はモデルでしたが、魂はアーティストのそれでした。
過分に美しい肉体という檻に、捕われた魂。
彼は、私の鏡像でした。
私たちは、出会うべくして出会ったのだと思います。

私たちは、都会の喧噪と虚飾を捨て、
プロヴァンスへと移り住みました。
幸い、父が残してくれたワイナリーと
3,000ヘクタールほどの農地がありました。
そこを、完全な放牧と無農薬栽培を営む農園へと
転換することにしたのです。

道のりは平坦ではありませんでした。
農薬を使わなければ虫が殖える。
隣接した農地から苦情は絶え間なくやってきます。
ストレスで眠れなかった日は一日や二日ではありません。

わたしは、この世界から愛されていないのではないか?
子供の頃から抱えて来た思いが、
またもや私の心を侵そうとしていました。

でも、わたしはある日、気づいたのです。
わたしがまず世界を愛そう。
世界を変えるのではない。自分が変わるのだ。
批判ではなく、理解。
対立ではなく、受容。

わたしは、微笑むことにしました。いつも、どんなときでも。
すべてのパーティで、ビジネスの場で、自分に課しました。

すると、私のもとに、友人たちからの助けの手が集まってきました。

友人のグレゴリーが、私の手記をまとめた本を出版してくれました。
後にそれは映画化され、私の農園を世界にしらしめてくれました。

そして、友人のステファンが
無償でワインラベルのデザインをしてくれました。
新作をつくればクリスティーズで
100万ドル以下の価格は付かないステファンがです。

私たちの農園はプロヴァンスの陽光と、
あたたかな友情によって育てられています。

皆さんに言いたいのは、
この世界に、微笑みを投げかけてください、ということです。
貧困、飢餓、虐殺…この世界の不条理に、
怒りではなく微笑みを。

さあ、笑ってみて。
ほら、あなた。
最前列の…そう、あなた。
笑ってみて。

…素敵。
本当に素敵です。

ありがとう。
フランスに戻っても、この難民キャンプの皆さんの微笑み、
忘れる事はないでしょう。
わたしの言葉が、皆さんの人生を少しでも変えられたら、
これにまさる喜びは…

痛い。

誰ですか。
石を投げるのは。

いた。

やめ、やめて、おやめなさい。
どうして。
どうしてこんなことを、
す….するの。

痛い。
やめて。
痛い。

いたた。
いたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた。(微笑みながら)

出演者情報:川俣しのぶ 03-3359-2561 オフィスPSC所属

  

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薄景子 2013年12月1日

「となりの芝生」                      

      ストーリー 薄 景子
         出演 川俣しのぶ
   

嫉妬って感情が
あたしの人生から消えてくれたらいいのに。

美容院で久々にカラーリングを受けながら、
自分では絶対買わないたぐいの女性誌をめくり、
ミカコは、そんなことをふと思った。

二度見される女のツヤ肌特集。
イケダンがつくる妻と子のもてなし料理。
NYでベーカリーカフェの夢をかなえた元OL…。

夜中に電気をつけられたような
まぶしい記事にクラクラしてくる。

顔をあげれば、鏡に映る自分より、
美容師の手塚くんの顔の方が小さい。
遠近法を差し引いても、確実にひとまわり小さい。

嫉妬…。

帰り道も、街を歩く女性たち全員が
みんなキラキラ光って見える。
新色のコートも、ファーつきのブーツも、
恋も、仕事も、結婚も。
欲しいものをぜんぶ手に入れてますオーラが
後光のようにさしている。

あたしいつから、
こんな嫉妬漬けになっちゃったんだろう。

ミカコは湧水のようにあふれでる
よどんだ気持ちに耐えきれなくなり、
それを紙に書きだしてフタをすることにした。

ホールケーキを丸ごと食べても太らない、同期のマリコへの嫉妬。
テキスタイルの賞をとって自分のブランドを立ち上げた、
後輩アサちゃんへの嫉妬。
最近10歳年下の彼氏ができた、バツイチのナツミへの嫉妬。

空になった焼菓子の空き箱に
ミカコがありったけの嫉妬を詰め込んで
フタをしようとした、そのとき。

「こんにちは」

箱のなかから何やら声がした。
おそるおそるフタをあけると、
箱の底一面になぜか芝生がふさふさ生えている。
その真ん中には瑠璃色の天然石が鎮座していた。

「なにこれ?」

「となりの芝生は青いっていうでしょ」

箱庭の芝生の真ん中で、その瑠璃色の石が言った。

「ちなみにここ、あなたの芝生だから」

「あたしの?」

石はだまったまま、青い芝生の上で、
気持ちよさそうに寝そべっていた。

「あたしも寝そべっていい?」

「もちろん」

流れていく雲に、同じ形のものはひとつもない。
ミカコは、その芝生に抱きしめられるように
深く深く眠りについた。

「いい感じで、髪、明るくなってますよ~」

手塚君の声で我に帰ると、
ミカコはさっきの美容院でカラーリングを受けていた。

膝の上に広げていたのは今月のジュエリー特集。
さっき見た瑠璃色の石と似たやつがある。

ミカコが生まれた12月の誕生石、ラピスラズリ。
嫉妬を除き幸運をもたらすパワーストーン。

鏡の中では相変わらず、手塚くんの顔が
ひとまわり小さかったけれど、
ミカコの気持ちはすっきりしていた。

あたしの中にも、ちゃんと、
誰かのとなりの芝生はあるのだから。

出演者情報:川俣しのぶ 045-491-7866 ママリーハウス

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川俣しのぶから「ひと言」

朗読初心者です。

埼玉県の越生町出身の私は、普通に標準語を喋りますが、
ごくまれに単語が訛まります。
が、注意されないままに今日まで至っているので直すのが大変です。

今回の文章の中に頻繁に出てくる「嫉妬」というコトバも音が違ってました。
ちょっと危うい感じでした・・・。
思い起こせば20代、初めてのラジオCMのナレーションの仕事は中山さんで、
その時は
「未来に舞う」の「舞う」が訛ってました。

この発音も、今も危うい。

音ではないが、草津温泉の「草津」を
ずうっと「クサヅ」と読んでいた。
「クサツ だよ。」と友達に指摘された私は、
すぐに兄に確認したところ兄は自信を持って
「クサヅ だ。」と答えた。
このような私の音や読み方の間違いは地方のものなのか?
川俣家のものなのか?

解からない・・・。

大人になってからだいぶ時間が流れているので、
間違いを正すのは困難です。
馴染んだ発音が違ってた感覚は、
リンゴが実はバナナだったみたいな?驚きです。
えっ! ずうっと、リンゴだと思ってたのに~~~。

自信を持って間違えてる単語は、あといくつあるのだろう?

川俣しのぶ:http://mummery-house.com/

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