川野康之 2011年10月9日


ねじ巻きラジオ

          ストーリー 川野康之
             出演 水下きよし

キイ、キイ、キイ(ぜんまいを巻く音)

(雑音とともに聞こえてくるアナウンス)
続いて天気予報です。

季節は夏が終わり、そろそろ秋が始まります。
空が青く澄み渡り、うろこ雲がさわやかな風に乗って流れていく。
果樹は色づき、田畑は収穫のときを迎えます。
去年の今頃はそうでした。

東京地方は今日もあいかわらず厚い黒い雲に覆われています。
これまで120日間、日照ゼロの日が続いています。
気温は低く、冬のような寒さです。
午後はにわか雨が降るでしょう。

この放送は、日比谷公園放送局から自転車を利用した
自家発電システムでお送りしています。

では次のニュースです。

野犬に襲われる被害が増えています。
町には、飼い主を失った犬が群れを作って、
食料を求めてさまよっています。
桜町の田村さんは、ある朝、部屋の外に出たところ…
(途切れる)

キイ、キイ、キイ(ぜんまいを巻く音)

気がついたらまわりは犬に囲まれていました。
犬は牙をむき、うなっていました。
正面にひときわ凶暴な顔をした白い犬がいました。
その犬がボスのようでした。
田村さんはじっとみつめるしかなかったそうです。
やがて白い犬は牙をおさめ、悲しそうに鳴いたと思うと、
くるりと後ろを向いて去って行きました。

助けに来た人に田村さんは泣きながらいいました。
「サスケだった。あの日、置き去りにしたサスケだったんだ。
生きていたんだ。」

(途切れる)

キイ、キイ、キイ(ぜんまいを巻く音)

川上町の萩野さんからのお便りです。

春も寒く、夏も寒く、真っ暗で、
季節の移り変わりはもうなくなってしまったけれど、
それでも地球は回っているんですね。
もうすぐ私の誕生日がやってきます。
毎年この時期は、窓を開ければいつもすがすがしい風が吹いて、
外に出ると頭の上に青空があるのがあたりまえのように思っていたけど
いまはそれがなんて贅沢だったんだって思います。
でもね、地球は動いているんです。
いつかきっとまた四季が帰ってくるって信じたいと思うんです。
その日まで自分の心の中に残るあの美しい空の色を
忘れないようにしようと思います。

お知らせです。
ねじ巻きラジオ、新しく6台作りました。
放送局まで取りに来られる人は来てください。
近くにご年配の人や、希望を失いかけている人がいたら、
その人たちのために取りに来てください。

なお一時間以上の外出は控えてください。
雨には濡れないようにしてください。
(途切れる)

出演者情報:水下きよし 花組芝居 http://hanagumi.ne.jp/

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川野康之さんの掟破りの一件

覚えておいていただきたいのですが
Tokyo Copywriters’ Street の原稿にはいくつかのルールがあります。
これは最初から決めたわけではなく
予算0円という条件の経験値から生まれたルールです。

1.基本はナレータ−ひとり
2.BGMとナレーションのみ、効果音なし
3.youtubeにアップできる尺であること
4.さらにスタジオではないのでナレータ−の集中力にも限度があるため
 長過ぎない原稿であること

いままでにもナレータ−ふたりの掛け合いで書いた人はいるのですが
川野康之さんは「効果音」を書き込んできました。
ネジ巻きの音とラジオのチューニングノイズです。
うむ、このくらいならネットにアップされているタダの効果音で
いけるかもしれない…
しかし、意外とねじ巻きの音が難航しました。
タダの効果音にはやはり限度があります。
でも、私も川野さんもねじ巻きの目覚ましを持っていたので
それを当日持参して現場で音を録ればいいじゃん…と
考えていたわけなのですが
録音の前日、時計をさがしてみるとなくなっていました。
ふたりともでした。
長年あると信じていたものが実はなかった…
驚きました。捨てられやすいんですね、ねじ巻き時計って。
これはこれでショックな出来事でした。

捨てられた時計に代わるものとして
私はストップウォッチ、川野さんはオルゴールを持参しました。
オルゴールを採用しました。
ふ〜〜、やれやれ。

ラジオのチューニングノイズとプチプチノイズはネットにありました。
現場の手間を減らそうと自宅でBGMを編集し、
貧弱なねじ巻きラジオの雰囲気を出すために
プチプチノイズものっけておきました。

これが川野さんの原稿Aです。
これは10月9日に放送されます。

さて、川野さんは原稿を2本書いてきました。
その2本は同じアイデアのAとBではなく
南極と北極ほどの差のあるものでした。
「2本、ダメですか」
と言われたらダメとはいえない。
それならいっそ10月9日と10日で川野康之2連発にしよう。
しかも川野さんの原稿Bは川野さんチームが動画をつくることに
なりました。
収録日にはネジキャラも出来上がっていました。
ネジ山くんという奇妙なキャラクターです。
信じられないナナメのストライプTシャツを着たキノコのようです。
うわ〜、すげ〜、なんじゃこりゃ。
これをどうやって動かすんだろう…楽しみです。

そんなわけで、川野康之さんの掟破りのおかげで
10月はちょっと目新しいものができました。
掟破りを承認するとやたらと手間がかかるので
いつも破られたらタイヘンですが
まあ、たまにはいいかくらいの許容量を持ちたいと思います。
(なかやま)

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