新年といえば樹木希林
ストーリー 福里真一
出演 遠藤守哉
新年といえば、私にとっては樹木希林だ。
毎年、お正月に放送するための、
テレビコマーシャルに出演してもらっていたので、
たこあげとか、
はねつきとか、
こままわしとか、
カルタとりとか、
樹木希林さんには、お正月っぽいあらゆることを、
やってもらった。
正確には、お正月に放送するためのCMを撮影するのは、
年末なので、
その制作スタッフである私にとっては、
年末といえば樹木希林、
が正しいはずなのだが、
でもやっぱり、
新年といえば樹木希林だ。
ある日、撮影現場の端っこの方で、
目立たないように立っていた私にはじめて気づいて、
樹木さんは、
「あの、冬彦さんみたいな人は誰なの?」
とまわりに聞いたそうだ。
ちなみに冬彦さんというのは、
当時の人気ドラマで、
佐野史郎さんが演じていたマザコンキャラ。
メガネをかけてなよなよっとしている私の姿が、
冬彦さんと重なったらしい。
それ以来、しばらくは、
冬彦さん、冬彦さん、
と呼ばれていたが、
数年たつと、私の名前を認識したらしく、
福ちゃん、福ちゃん、
と呼ばれるようになった。
私がいつものように、
撮影現場の端っこで目立たないようにしていると、
福ちゃんはどこ?
あらまたそんな隅っこにいたの?
と探しにくる。
そしてなにかと、話しかけてくれる。
その仕事はけっこう長い年月つづいたので、
樹木さんと私は、
それなりに親しくなっていった。
あるとき、
樹木さんが言ってくれたことがある。
私が、福ちゃんに興味をもったのは、
ちゃんと見てる人だったからなの。
私はすぐには、よく意味がわからなかった。
役者にとっても、
何かをつくる人にとっても、
「見る」
ということが一番大事だと私は思う。
いろんな人の行動や、
いろんな人の表情を、
見て、観察して、覚えておく。
福ちゃんは、撮影現場のはしっこの方にいたけど、
いろんなことを、じっと見てたから、
興味をもったのよ、と。
私の、ひっこみ思案な性格を、
そんな風に肯定的に言ってくれた人は、
はじめてだったかもしれない。
2024年がはじまった。
やっぱり私にとって、新年といえば、樹木希林。
樹木さんが神様としてまつられている神社があったら、
間違いなく、初詣はそこに行きたい。(おわり)
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出演者情報:遠藤守哉