ハマにて。
ストーリー 佐藤充
出演 遠藤守哉
まさかシリアの汽車のなかで、
火遁豪火球の術を、
印を結ぶところから真似する日が来るとは思わなかった。
シリアのダマスカスから汽車に乗り、ハマという街についた。
どこに宿泊するか、何をするのかも決めずに無計画に来た。
車内でたまたま日本のアニメのナルトを
スマホで見ている学生がいたので、
そのアニメのなかに出てくる
サスケというキャラの技の真似をして仲良くなった。
その技が火遁豪火球の術である。
芸は身を助けるというのか、日本のコンテンツ力は身を助ける。
いっしょに駅を出ると、タクシードライバーが群がってくる。
アラビア語なのでわからない。
彼がタクシードライバーたちに
「その値段はぼったくりだ」
というニュアンスのことを言っていることはわかる。
その中の1人はおそらく良心的な値段だったのだろう。
彼にすすめられていっしょに乗車することにした。
ドライバーに「どこへ行く?」というアラビア語なのでわからないが、
そんなようなニュアンスのことを聞かれる。
何も決めずに来たので「ゲストハウス」と答える。
きっと何かしらのゲストハウスはあるだろうと思ったのだ。
すると「どこのだ?」というアラビア語なのでわからないが、
そんなようなニュアンスのことを聞かれた気がした。
「イッツアップトゥーユー」と答えてみた。
ドライバーはルームミラー越しに頷き、
車は静かに動きだした。
汽車で出会った学生の彼は途中で降りていった。
急に心細くなり、不安になる。
いったいどこへ連れていかれるのだろう。
そもそも本当に伝わったのだろうか。
ノープランで来てしまった自分の甘さを後悔する。
いくらまでなら取られても大丈夫か頭のなかで計算する。
30分くらい走り、車が止まる。
ドライバーが指をさす。
その方向には「Guest House」と書かれた建物があった。
乗車賃も良心的だった。
少しでも疑ってしまって申し訳ない気持ちになる。
無事にチェックインを済ませて、
街を歩くことにした。
今日はよく晴れている。
ハマは水車が有名ということを
さっきゲストハウスの本棚にあった地球の歩き方を見て知った。
あてもなく川沿いを歩く。
確かにいくつも水車がある。
ただタイミングが悪かったのか、川の水量がなく水車は回っていない。
川の向こう岸のレストランで準備をしている人影が見える。
手を振ってきたので手を振りかえす。
歩いていると子どもたちが後ろをついてきていることに気づく。
振り返ると楽しそうに走って逃げる。
そんなことをして歩いていると丘の上の公園にたどり着いた。
後から知ったことだが、
そこはかつて城塞があった場所で今は公園になっているらしい。
そんなことも知らずに公園に行くと、
アジア人が1人でいることが珍しいのか
たくさんの人が話しかけてくる。
そこでピクニックをしている
自分と同い年くらいの集団に混ざることになった。
言葉はわからないがひまわりの種やひよこ豆のフムスやアイスなど
たくさんの食べ物をご馳走になる。
なぜか肩や足までマッサージしてもらい、
うちわで扇いで涼ませてくれたりもした。
その中のリーダーのような人がバイクに乗って戻ってきた。
バイクの後ろの座るところを叩いて「乗れ」と合図をする。
言われるがままバイクの後ろにまたがる。
行き先もわからないままバイクは走りだす。
丘を降りて、道を進み、露天のような場所に停車する。
そこは彼の知り合いのお店だったようでコーヒーをご馳走になる。
「ハマ イズ グッド?」と彼は聞くので「グッド」と答える。
すると彼は嬉しそうな表情をして、またバイクは走りだす。
次は石でできた不思議な建物のまえで停車する。
なかに入ると彼の友達がいて、いっしょにトランプをして遊んだ。
「ハマ イズ グッド?」と彼は聞くので「ベリーグッド」と答える。
彼はまた嬉しそうな表情をする。そして、バイクは走りだす。
今度は綺麗に手入れをされた公園の中をバイクは走っていく。
バイクで入っちゃいけない場所だったようで、警察に追われる。
彼は警察から逃げながら「ハマ イズ グッド?」と聞くので
「ベリベリグッド」と答える。
そして、そのままゲストハウスまで送り届けてくれた。
お礼を渡そうとすると断られた。
彼は「ハマ イズ グッド?」と笑い、
橙色に染まるハマの街をバイクに乗り走っていった。
心地よい旅の思い出を、夢のなかで思い出す。
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出演者情報:遠藤守哉