「窓のなか」
ストーリー 岡本欣也
出演 坂東工
線路わきにたちならぶ電柱が、
つぎからつぎへと後ろに吹き飛んでいくさまは、
いつ見ても飽きない。
むくつけき男たちが高架下にいて、
テンポよくぶん投げているんだろう、とか、
ホントはぜんぶで10本くらいしかなくて、
いったん後ろに行った柱が、
急いで戻ってるんじゃないだろうか、とか、
まあ、それにしても、大人の男女とは思えない熱心さで、
新幹線の初歩的な錯覚を楽しみながら、
旅をはじめる、ぼくらであった。
窓のなかには、
いくつもの高層ビルがやって来て、
近くのものほどスピーディーに、遠くのものほどゆっくりと、
それぞれの速度を守って、
横にスクロールしながら消えていく。
おんなじ横切るにしても、電柱ほどの気迫がない、とか、
どれもたしかに立派だが、あれだけ窓がありながら、
窓が開かないというのはどうなんだろう、とか、
その昔、夢を見ながら上京したのに、
冷たくされた高層ビルに、
ついついつらく当たってしまう、ぼくらであった。
風景の主役が、
工場となり、郊外型店舗となり、
住宅となり、田畑となり、
そしてそれらがランダムに繰り返されていく。
川が見えたよ、とか、
あの山なんだろう、とか、
東京を離れれば離れるほど、
言葉からリキミのようなものが消え、
だんだんと発言内容がシンプルになっていく、
という、じつにたわいのない、ぼくらであった。
しかし、ぼくらが、
多少なりともおだやかになったのは、
風景にいやされて、人間のココロを取り戻したからではなく、
そろそろだな、と思ったからだ
そろそろ、駅弁のタイミングだなと、
ふたりして思ったからだ。
ぼくらは、つまり、待っていたのだ。
「ここでお弁当広げたらおいしいでしょう」と思える風景を。
通路をへだて、反対側に座る男女も、
おもむろに駅弁を取りだし、
ヒモをほどこうとしている。
もしかしたら、彼らも、
似たようなことを考えていたのかもしれない。
反対側の、窓のなかにあったのは、とても大きな海だった。(終)
*出演者情報:坂東工
*音楽:ツネオムービープロジェクト