「ポン」(東北へ行こう2017)

「ポン」
      ストーリー 日野裕介(東北芸術工科大学)
         出演 地曵豪

午後は吹雪の日だった。
僕は午前中に山にいった祖父の安否を気にしていた。
夕方近くになって祖父は、雪まみれで帰ってきた。
傍らには見た事の無い犬を連れていた。拾ってきた、と言っていた。
祖父は笑って言った、こいつはポンだ、飼うからな。
祖母は、またいい加減な事を言い出したよ、というような顔で見ていた。
父も母も、呆れはしても、止めようとする事は無かった。

けど僕は反対だった。犬は山で暮らしていたかったはずだ、
鎖でつないでおくなんて可哀想だ。
だから僕は、誰も家にいない日を見計らって、こっそり鎖を外してやった。
外した瞬間に、ポンは、だーっと畑の方に走っていった。
けれど、すぐに戻ってきた。
逃げなきゃダメじゃないか、と何度もしっしっと追い払ったが、
その度に戻ってくる。そうか、帰り道が分からないんだ。
そう思った僕は、祖父が拾ったという山の近くまでポンを連れて行き
そこに置いて帰ってきた。
これでもう、あいつは自由だ。怒られると思っていたけど、
それでも祖父は笑っていた。

数日経った寒い朝、凍り付いた玄関を開けると、ポンがいた。
ポンが帰ってきた。
ここがいいんだ、ここがポンの帰る場所になっていたんだ。
祖父はやっぱり笑っていた。

東北へ行こう。


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さむいね(東北へ行こう2017)

「さむいね」

    ストーリー 木村風香(東北芸術工科大学)
       出演 清水理沙

米沢の冬はさむい。
だって、雪が降るから。
のろまでかわいい、ぼた雪が、アスファルトの路に積もる。
転ばないように、足の裏、全体で踏む。
ぎゅっと音がする。
心地よくて、わざと、まっさらな雪の上を選んで歩いた。

街灯は、そんなにない。
だから少しだけ不安になる。
あたたかい橙色の灯りが恋しくなる。
雪とうろう、雪ぼんぼり。
雪で作られた囲いの中、ローソクが、ぽわっと灯っている。

「さむいね」って隣を歩いている人が言った。
「手袋、持ってくればよかったね」って、
かじかんだ手のひらに、ふうっと息を吹きかけて、言った。
「さむいね」ってわたしも息を吹きかけた。

橙色の灯りが、だんだん弱くなってくる。
「転ばないようにしないと」って隣を歩いている人が言った。
そう言った、すぐ後、隣を歩いていた人が転んだ。
その人は「痛い」って言って、ちょっとだけ笑った。
わたしも、笑った。
笑って、笑って、あたたかくなって。
それから、「さむいね」って言って、手を差し出した。
東北へ行こう


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「夕刊のおじさん」(東北へ行こう2017)

「夕刊のおじさん」

     ストーリー 木原朝咲(東北芸術工科大学)
        出演 石橋けい

ぶぅぅぅぅん
小学校の帰り道。
ブラスバンド部の練習が終わって後輩たちと帰路につく。
家の目の前にある小さな山の、その反対側の空が夕日で真っ赤に染まる頃。
「今学校終わったんけぇ?随分遅いなぁ」
黒いヘルメットにベタベタシールを貼ったバイクのおじさんが
やけに明るく声をかけてきた。

知らないおじさんに声をかけられ戸惑っていると、後輩のひとりが
「あ!山新のおっちゃん!」と嬉しそうに声を上げた。
よくよくおじさんのバイクのカゴの中を見ると、
なるほど袋に覆われた山形新聞の夕刊がカゴの半分ほど詰められていた。
おじさんは懐からキャラメルの箱を取り出すと
私たちひとりひとりにひと粒ずつ手渡した。
おじさんは1番年長の、初めて会う私に「そうだ」と言って
夕刊を1部手渡した。
「どうせ1部余っちゃうから。これもあげる」
私はそのときやっと、おじさんの黒いヘルメットにベタベタ貼られたシールが、
子ども達からもらったプリクラやキャラクターのシールであることに
気がついた。
おじさんは子どもが大好きで、だからこんなに子供達と仲がいいのだ。

それからブラスバンド部の練習が終わっておじさんに会うと、
お菓子と夕刊をもらうのが習慣になった。
母はその夕刊を念入りに読んでいたように思う。

中学に上がって、家に帰るのが遅くなった。
夕刊の配達時間とは大きくずれてしまって、
おじさんに会うことが少なくなった。
それでもたまに会うとおじさんは
「朝咲ちゃん今何年生になったんだっけ?」なんて言いながら
私にお菓子ひと粒と夕刊をくれた。

高校生になってさらに家に帰るのが遅くなると、
おじさんに会うのはいいとこ半年に1回程度になった。
「あれぇ朝咲ちゃん!久しぶり今何年生になったんだっけ?」
「もう高校3年生だよおじさん」

半年に1回しか会わなくても、髪型を何回か変えても、
おじさんはいつだって間違えずに私の名前を呼んでくれる。
「3年生かぁ。じゃあもう山形を出て行っちゃうかもしれないんだ」
「う~ん、受験が上手くいったらね」

私は結局山形の大学に進学した。
大学生になってからおじさんにはまだ会っていない。
次に会えるのはいつだろうか。
半年後?それとも明日?
おじさんは変わらず私のことを覚えているのだろうか。
そしてまた同じ調子で「今何年生になったんだっけ?」なんて
聞いてくるのだろうか。

おじさんからもらった夕刊を読む。
何気ない山形の町の行事だったり取り組みだったり、
小中学校のとある出来事だったりニュースだったり、
朝刊と違ってなんとも平和な内容が書かれていた。
おじさんらしいなぁなんて思った。

東北へ行こう。


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山形の姫君(東北へ行こう2017)

「山形の姫君」

      ストーリー 鈴木志帆(東北芸術工科大学)
         出演 遠藤守哉

山形県には姫様がおられます。
艶やかな、まるで月山にはらりと舞う雪のように真っ白い肌の
美しい姫君でございます。

ただ美しいだけではなく、姫様はとても知恵のあるお方であり、
なんとあの『コシヒカリ』様をも凌ぐ才覚をお持ちだとの噂。
粘り強い性格もありまして、
一度姫様の才覚に触れたのならもう虜となることでしょう。

姫様がお生まれになられるまで10年もの歳月がかかりましたが、
わずか10年かけてこれほどの魅力溢れる方がお生まれになったと
考えるのならば納得の一言でございます。
ご先祖の『亀の尾』様もさぞお喜びのことでしょう。

美姫と名高い姫様ではありますが、相性の良い殿方はシンプルで味わい深い、
そう、この山形の芋煮様にだし様、おみ漬け様、わらびの一本漬け様…

さて、我らが姫君、『つや姫』様がお米としてもっとも輝けるのは
どなたのお側でしょうか?
どうか皆様お探しくださいませ。

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つや姫全農山形県本部:http://www.zennoh-yamagata.or.jp/rice/2015/tsuyahime.html

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寒いからこそ



出演者情報:大川泰樹(フリー) http://yasuki.seesaa.net/

寒いからこそ

     ストーリー 土屋里紗(東北芸術工科大学)
        出演 大川泰樹

全てが雪にこんもりと覆われてしまった夜を
見たことがありますか。
真っ白な雪は光を反射し、音という音を吸収します。
それはそれは寒い夜ですから、外に出ているのは自分だけ。
月の光でぼうっと光る雪と、永遠に続くような静寂のなかに
ぽつんと、自分がたったひとり。

恐ろしいほどの孤独のなかで
あなたがさがすのは
暖かくてにぎやかな、自分の「帰る場所」
いつのまにか忘れてしまったその価値を、
いつのまにか慣れきってしまったその優しさを、
思い出すはずです。

ぶるぶる、さあ帰ろう。

その場所はどこですか。
待っていてくれるその人は誰ですか。

寒いからこそ、東北へ。
幻想のような夜が、きっとあなたを待っています。

東北へ行こう

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東北の温泉ガイド:http://onsen.arukikata.co.jp/202/

東北温泉かけ流しガイド:http://www.onsen-shinsengumi.com/tohoku.html

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猫になる



出演者情報:いせゆみこ 03-3460-5858 ダックスープ所属

猫になる

    ストーリー 小野杏奈(東北芸術工科大学)
       出演 いせゆみこ

週末、わたしは猫になる。

風の向くまま、気の向くまま。
仙台という大きな庭を悠々と散歩するのだ。

いつもの決められた大通りから神秘的な裏通りを歩くため、
人の波から外れてみる。
気分がいい。
ノラ猫タイムの始まりだ。

早足だった歩幅も自然とゆっくりゆったり縮んでいく。
賑やかな人混みがまだ微かに聞こえる裏通りは、
いつもの仙台じゃないみたい。
おしゃれな洋服店、味のあるお食事処。
ここにお店あったんだ!あ、ここのお店美味しそう…

若い人が作ったものと昔からそこにあるものが入り混じっている。
道に迷ったら、本能の赴く方へ。素敵なカフェが顔を出す。
うん、わたしだけの秘密基地。大切な人にだけ教えよう。

心地のいい笑い声と食器やグラスの音、
鼻をくすぐる美味しい匂い。
大通りじゃ味わえない、人と人の香りがする場所。
おっ、お仕事帰りのお父さんやお姉さんが
楽しそうにお酒を呑んでいる。
今日は、このお店でお世話になろうかな。

不思議な魅力が詰まった仙台の裏通り。
きっとここに来たくなる。

東北へ行こう

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街ナビプレス仙台:http://navi-s.com/wp/

せんだい旅日和:http://www.sentabi.jp

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