「ポン」
ストーリー 日野裕介(東北芸術工科大学)
出演 地曵豪
午後は吹雪の日だった。
僕は午前中に山にいった祖父の安否を気にしていた。
夕方近くになって祖父は、雪まみれで帰ってきた。
傍らには見た事の無い犬を連れていた。拾ってきた、と言っていた。
祖父は笑って言った、こいつはポンだ、飼うからな。
祖母は、またいい加減な事を言い出したよ、というような顔で見ていた。
父も母も、呆れはしても、止めようとする事は無かった。
けど僕は反対だった。犬は山で暮らしていたかったはずだ、
鎖でつないでおくなんて可哀想だ。
だから僕は、誰も家にいない日を見計らって、こっそり鎖を外してやった。
外した瞬間に、ポンは、だーっと畑の方に走っていった。
けれど、すぐに戻ってきた。
逃げなきゃダメじゃないか、と何度もしっしっと追い払ったが、
その度に戻ってくる。そうか、帰り道が分からないんだ。
そう思った僕は、祖父が拾ったという山の近くまでポンを連れて行き
そこに置いて帰ってきた。
これでもう、あいつは自由だ。怒られると思っていたけど、
それでも祖父は笑っていた。
数日経った寒い朝、凍り付いた玄関を開けると、ポンがいた。
ポンが帰ってきた。
ここがいいんだ、ここがポンの帰る場所になっていたんだ。
祖父はやっぱり笑っていた。
東北へ行こう。
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