きつねのよめいり
晴れているのに、
雨が降っている。
「きつねのよめいり」
と呼ばれる現象だ。
私はこの、
きつねのよめいり、
という言葉が好きだ。
由来は諸説あるが、
きつねは人にバレないようにこっそり結婚式を挙げる、
という言い伝えからだという。
幻想的で不思議な空間を
うまく言い当てた、
とても素敵な表現だなと思う。
嫁に入る、という言葉に、
残された家族の切なさを感じるのも、
またいい。
私の記憶では、幼稚園の帰りに母親が、
「これはきつねのよめいりって言うんやで」
と、昔教えてくれた。
この言葉があまりに印象的だったのか、
私はしばらく、これを別名
「天気雨」と言うことを知らなかった。
天気雨。
別にこの表現が嫌いではないが、
この言葉にはどこか寂しさを感じる。
せっかく美しい現象なのに、
あまりに説明的すぎるからだろうか。
しかし、都会で仕事をしていると、
天気雨、と呼んでしまいそうになる。
最近はもうみんな、
効率、の話ばかりだ。
自分もその波に見事に飲まれて、
効率よく仕事をすることを心がけてしまっている。
空を見上げることも、少なくなった。
そんな中、以前、とあるクライアントのCMで、
「きつねのよめいり」という企画を提案したことがある。
付き合う直前のもどかしい男女が、
突然の「きつねのよめいり」がきっかけで
こころの距離を縮める、というもの。
すると、それまでカタカナで費用対効果の話をしていた人たちが、
「きつねのよめいりいいですよね!」「僕もこの言葉大好きで!」
と言ってくれて、この企画を採用してくれた。
会議室に、虹がかかった気がした。
これも、きつねのしわざか。
私もいつか、
「晴れているのに雨が降っている」という現象を
初めて見た人がいたならば、
まずは「きつねのよめいり」
という言葉を教えてあげたい。
そしてこの言葉を思い出すたびに、
少し肩の力を抜いてもらいたい。
そういえば、
今回この話を書くにあたって、
色々調べていると、
日本で言う「きつねのよめいり」は、
海外でも動物に喩えられることが多い、
ということがわかった。
なんとギリシャでは、
「ゴリラの結婚式」と言うらしい。
「これな、晴れてるのに雨降ってるの、綺麗やろ?
『ゴリラの結婚式』って言うんやで。」
そう教えてあげるのも、悪くない。
出演者情報:大川泰樹 03-3478-3780 MMP所属