石橋けいから「ひと言」

kei

佐倉康彦さんの [夜に歩く者の朝] を読ませて頂きました。

今までに何作か、佐倉さんの作品を読ませて頂きましたが、毎回全く違う世界観で、
佐倉さんてどんな方なのかな・・興味深々です(笑)
ありがとうございました!
収録の日、ナレーター待機部屋の机の上に、氷が置いてありました。

この光景を見ると、夏が来るな~と、いつも思います。
その前に梅雨ですね・・
収録後の打ち上げは毎回とっても楽しいです。

中山さん、また「たこ焼き」買って行きますね~(*^_^*)

(出演情報)

毎週日曜22時30~日本テレビにて放送中のドラマ

「ゆとりですがなにか」第5話から出演しています。

http://www.ntv.co.jp/yutori/

コンコルドCMも、ストーリー展開を続けていますので、

宜しくお願いします!

http://www.dan-ad.co.jp/cw_tvcm.html

Tagged: ,   |  コメントを書く ページトップへ

佐倉康彦 2016年6月5日

1606sakura

夜に歩く者の朝
             
       ストーリー 佐倉康彦
         出演 石橋けい

デイウォーカーたちが、
太陽の恵みに感謝する日。
わたしたちナイトウォーカーは、
じっと息を殺している。
1年のうちで最も昼の長いその日を、
わたしは呪詛と共に遣り過ごすことになる。

あす、その日がやってくる。

サン・プロテクション・ファクター100の
日焼け止めを顔やカラダに塗りたくろうが、
日蝕を凝視するためのサングラスを掛けようが、
NASAが開発した
1着あたり1,000万ドル以上する
船外活動用のEMUを身に着けようが、
あすであろうがなかろうが、
白日のもとであれば、
わたしは、
ほろほろと解(ほど)け、くち果て、灰になる。

昼の最も長いあすを控えながら、
わたしは、
今夜のライブ「血祭り」の準備にとりかかる。
派手にキメたいし、
ハプニングも起こしたい。
もちろん、手を抜くつもりはないが、
できる限り早く切り上げようと決めていた。
もちろんアンコールは、なしだ。

美味そうな若いローディーが数名、
わたしたちの楽器やエフェクターを
ステージにセットしている。
あすのことを考えれば、
この中の誰かをつまみにしながら
長い長い昼を過ごすのも悪くない。

わたしが
ステージのために身に着けた
オーバーニーの
編み上げのロングブーツのピンヒールは、
9インチある。
その足元に誰を跪かせようか。
しばし、ステージの袖から物色し、思案する。

今夜のわたしへの供華(くげ)は、
スカルのウォレットチェーンをしている
スキンヘッドのあのコか、
背中に小さな天使の羽が彫ってある
革パンの彼にしよう。
いちばんつまみにしたかったスタッフは、
右の首筋に十字架が彫られ、
しかもTシャツにデカデカと
ダビデの子が
プリントされているので諦めた。

バスドラの重く湿った響きが、
客とスタッフの心音と同調する。
そこにスネアとハイハットが絡まり、
ベースのリフがそのうねりに乗る。
わたしの動かない心臓も、
少しだけその流れの中で震え出す。
ディレイとディストーションの
効いたギターが
そこに乱入したあたりで
客たちは最初のエレクトを感じはじめる。
あとは、
わたしのボーカルで
放出させてあげるだけだ。

ピンスポットの逆光の中、
何人ものセーショーネンが白目を剥いて
昏倒するさまを認めながら、
わたしはステージで咆哮しつづけた。

客電が点き、
ステージも客席も丸裸にする頃。
ローディーたちが
背中に羽のタトゥーを施した同僚を
捜し回っている。
「あいつ、バックレやがって」
ウォレットチェーンのスキンヘッドが、
アンプを片付けながらひとり毒づいている。
天使の羽の彼は、
若きデイウォーカーは、
わたしのヴァンの中、
つまみになるために深い眠りの中にいる。

イグニッションを回す。
コンソールパネルのメーターたちが
LEDの蒼白い光と共に点灯する。
ドライバーズクロノグラフは、
すでに午前4時を回ったことを告げていた。
日の出まで、あと十数分。
間に合うのだろうか。

いつものようにアンコールに
応えてしまったのがいけなかった。
心の中で舌打ちをする。
動かない心臓が破裂しそうなほど
焦れ込んでいるじぶんに気づき、
また、激しく動揺する。
助手席のつまみの顔が
薄明かりの中で朧気に暢気に青白く
浮かび上がる。

カーオーディオのプレイボタンを押す。
先程のライブ同様に、
不穏なバスドラの鼓動が車内に充満する。
呪術的なベースのリフが
シートの上をうねり出す。
そこにオーバードライブを効かせ過ぎた
ギターが絡み付きだしたあたり。
交差点奥の
ファッションビルと家電量販店の谷間から、
長い長い一日を宣告する
強い光が顔をのぞかせはじめた。

わたしは、
少しずつ遠のく意識の中で、
まず、瞳を焼かれた。
そして、
ステアリングを握る指先が
煙草の吸いさしの灰のようにぽろりと
もげ落ちたことを感じた。

あと数分もすれば、
デイウォーカーの誰かが
エンジンの掛かったままの車内で眠る
大量の灰にまみれた、
天使の羽を持つ若者を見つけるのだ。
そう思った。

出演者情報:石橋けい 03-5827-0632 吉住モータース

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

野澤友宏 2015年10月18日

1510nozawa

『階段をおりる時』 

     ストーリー 野澤友宏
        出演 石橋けい

「アユミってさ、階段をおりるとき、
いつも、ウッウッって変な声出すよねぇー」
2階席からロビーに続く階段を降りたところで、
アツコさんが言った。
「あ、言う言う言う、私もずーっと気になってた」
眉を吊り上げながら、ユミも大げさにうなずいている。
そう…?と平然を装ってみたものの、アタシは少し動揺していた。
「ウッウッ…それ、どこから出んのって感じぃー」
アツコさんが、喉から変な声を出して笑った。
自分がそんな声を出してるなんて、完全に無意識だった。

人気劇団の2年ぶりの公演だけに、ロビーはかなり混雑していた。
休憩時間15分。女子トイレにはさっそく長い列ができていた。
アツコさんとユミは、アタシが以前働いてた文房具メーカーの同僚だ。
三人とも演劇が好きということで仲良くなり、
アタシが辞めてからも付き合いが続いていた。
「あとさぁ、アユミィ、お芝居観ている途中ぅ、
ずぅっと首揺れてるよねぇーーー」
アツコさんは、意地悪モードに入るとどんどん語尾が長くなる。
「うそうそうそうそ、まじでッ」
ユミは、いじりがいのあるおいしいネタを見つけると、
眉毛がどんどんつり上がる。
同じ言葉を繰り返じはじめたら、かなり要注意だ。
「でもでもでもでも、デスクでもそうだったかも。いっつも首揺れてたかも」
ユミが、首がクネクネ揺らす。
アツコさんが、アタシの顔をみて吹き出す。
「それにぃ、ちょーっと気まずい時とかぁ、そういう顔するよねぇーーー」
「そうかもそうかも、するかもするかも」
ユミが、鼻をぷくっと膨らませ、
右の小鼻をクイッと引きつらせた顔をした。
何よ、その顔…アタシがそんな顔しているなんて、完全に無意識だ。

「あとぉー」と言って、アツコさんがスレンダーな身を屈めて、
ユミの耳に顔を近づける。
アツコさんの小悪魔的なしぐさを見て、
直感的にケンイチロウのことが頭に浮かんだ。
ケンイチロウとは、アタシがその文房具メーカーに入社し、
新しいホッチキスの開発を一緒に担当したのをきっかけにつきあい始めた。
しかし、6年をすぎた今、男女の関係としては階段の踊り場状態。
二人とも、あがることも降りることもできずにいた。
「え、え、え?まじでまじでまじで?」
「・・・そうみたいよぉーーー」
アツコさんが、アタシの方に意地悪な視線を向ける。
今、ケンイチロウとアツコさんは同じ部署で働いている。
「アタシ、ちょっとトイレ…」
たまらず、二人から離れた。
「私もぉーー」
アツコさんが後ろからついてくる。

女子トイレの列に、アツコさんとふたりで並ぶ。
「それでぇ、どうなのぉ」
意地悪モードがマックスに達した時、アツコさんはささやき声になる。
「何よ、急に、こんなとこで」
自分の鼻がふくらんでいくのが分かる。
「何よってぇ、そりゃ、ねぇ…」
アツコさんの切れ長の目がロビーの方に向けられる。
ロビーでは、ユミが眉毛を吊り上げながらケータイいじっている。
「ボヤボヤしているととられちゃうぞぉーー」
アツコさんがアタシの耳元でささやく。
右の小鼻が引きつっていくのが、自分でも分かった。

トイレを出て、ロビーに戻る。
アツコさんもユミも先に席に向かったようだ。
2幕目の始まりを告げるブザーが響き渡る。
観客達が、一斉に席に戻り始める。
まさか、ケンイチロウがそんな男だったとは…
ロビーの柔らかな絨毯を一歩一歩踏みしめながら考える。
踊り場状態に、ある種の居心地のよさを感じていたのは自分だけだったのか…
ウッウッ…ウッウッ…
自分の喉から変な音が出ているのが聞こえる。
ウッウッ…ウッウッ…ウッウッ…
自分が、「階段」を降り始めていることに、気がついた。

出演者情報:石橋けい 03-5827-0632 吉住モータース

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

石橋けいさんの芝居がそろそろはじまる

nakanaori_245

石橋けいさん出演の芝居がそろそろはじまります。
5月29日(金)から6月7日(日)までです。
上のチラシの写真をクリックすると詳細ページに飛びますから
ぜひクリックしてみてくださいね。
山内ケンジさんの岸田戯曲賞受賞後第一作めでもあります。

先週だったかな、
石橋さんの事務所の社長に様子をうかがったのですが
当然のことながら稽古も追い込みでお忙しいようでした。
受賞後第一作ですから、みなさん緊張しますよね。
石橋さん、がんばってくださいね〜。

Tagged: ,   |  コメントを書く ページトップへ

勝浦雅彦 2015年3月15日

katsuura1503

名前をつける

     ストーリー 勝浦雅彦
        出演 石橋けい

どうしてそんなことをしたのか、振り返ってもわからない。
いつもの朝のホームだった。
強い風の中を獣のように電車が入ってきた。

私は反射的にふだんと反対方向の電車に乗った。
その電車が終点に着くと、
接続されている別の列車に乗って、ふたたび終点へ。
それを繰り返しているうちに列車は単線になり、
列車が尽きるとそこからバスに乗った。

その間、耳にこびりついた女特有の金切り声や
饐えた薬の匂いやまっ白いシーツの残像が
頭の中で反芻されていた。
時折、こめかみがキリキリと痛んだ。

気がつくと、私はロープウェーの駅に立っていた。
登りの最終便に飛び乗る。
年老いた駅員が怪訝そうに私を見た。
日は陰りはじめ、暗い山肌に向けて私が乗る車両は
ガタガタと小刻みに震えながら、
か細く上昇を続けていた。

ひとりで乗っている、と思っていた。
箱型の車両を中央で区切るつなぎの部分に隠れて、
小さな男の子の姿があった。
ジャンバーを着て、リュックサックを背負い、
じっと窓の外を見ている。
まるで自分もひとりきりで乗っているのだ、と言わんばかりに。

男の子が横を向いた。
不意をつかれたように私と視線が交わる。
彼はそのまま私の向いの座席までやってきて、
リュックサックを膝に置き腰をおろした。

小学校低学年くらいだろうか。
なぜ、この子はひとり、
こんな最終便の車両にいるのか。

「ボク、怪我したの」

呟くように男の子が口を開いた。
よく見ると、膝小僧が擦りむけて、血が流れた跡がある。

「それ、どうしたの?」

つられて私は尋ねた。

「空を見てたの。ずっと上ばかり見ていたら、
つまづいて転んだの。ちょっと痛かったの」

「あら大変、消毒して、絆創膏貼らなきゃ」

男の子は遮るように続けた。

「ううん、もう必要ないの。
ねえ、お姉さんも怪我してるね」

「私?怪我なんてしてないわよ」

不思議な問いかけにまたジン、とこめかみが痛んだ。

「だって、血が出てるよ」

「何言ってるの・・・・」

私はおかしな会話を続けながら、
ますます強くなる痛みを感じて、目を伏せた。

「お姉さんは戦ったんだね。
だから血を流した。ねえ、勝ったの?負けたの?」

「そんなことしてないってば・・・」

その瞬間、私は痛みを覆い隠すように流れる自分の涙を感じた。
そして、涙といっしょに澱のように溜まっていた言葉があふれた。

「ずっと…人と深く関わることを避けてきた。
だから自分にそんなことができるなんて思いもしなかった。
どうして私が?でもしょうがないじゃない、
出会っちゃったんだから」

私はこんな小さな子に何をしゃべっているのだろう。
まるで懺悔している信徒のように。

「うまくいったはずだった。
お姉さん、勝負に勝ったけど、負けたの。
あの人はおかしくなった奥さんの元へ戻って、
それっきり。私にはもう何も無いの。」

「ねえ、お姉さん」

男の子は足をぶらん、とさせながら言った。

「ボク、怪我したけど、いいことあったよ」

「・・・え?」

「転んだとき、遠くはっきりと道の向こうが見えたの。
小さな花が咲いていて、
泥だらけのまましばらくぼうっと見ていたの。
その時、気づいたの。
せかいは上と下と真ん中でできてるの。
どちらかばかり見てちゃいけないの」

顔をゆっくり上げ私はその子の柔らかそうな頬や、
まだ薄くて弱い皮膚がつくりだす赤い唇を見つめた。
誰かに似ている、と思った。問いかけが口をついた。

「・・・あなた、何て名前?」

男の子はきょとんとした表情を浮かべ、次の瞬間、
今までに見たあらゆる人々の中でいちばん悪戯っぽく愛くるしい顔で、
私をまっすぐ指差した。

ふいに大きなアナウンスが流れ、
山頂に到達したことを告げた。
暗くなったホームから再び座席に視線を戻すと、
男の子はそこにはいなかった。

車両から出て暗い山あいを見まわした。
ひんやりした風が吹いていた。
どうしようもなく私はひとりだった。

下りの車両にそのまま乗り込んだ。
発車ベルとともに動き出した車内から、
眼下に広がる街区のまばゆい光が瞼に飛び込んできた。

そのとき、私にはわかったのだ。あの子が誰なのか。
その確信はまるで何十億年前から決まっていた約束のように
私の胸に辿り着いたのだった。

私はこれから何度も負けるだろう。
でも、何度でも立ち上がって見せる。
そして、この上と下と真ん中の世界で、
かならずあの子に巡り合ってみせる。

そのときあの子に、私は名前をつけるだろう。
愛おしさと憎しみと憐れみを知って、
なお歩き続けることのできる名前を。
この不安定に明滅する宇宙の中で、
傷ついてもけして滅びることのない名前を。

出演者情報:石橋けい 03-5827-0632 吉住モータース


Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

小山佳奈 2015年3月8日

koyma1503

「ノダアカネ」

    ストーリー 小山佳奈
       出演 石橋けい

夢の中に出て来た女の子の名前は、
夢の中でもすぐに思い出した。

ノダアカネ。
転校生だったノダアカネは、
目がぎょろっとしていて背も大きくて、
ポニーテールにまとめた髪の毛もちょっとくるくるしていて、
小学校4年生にしてはあまりに大人びていた。
いわゆる転校生っぽい遠慮はどこにもなくて、
誰にでも話しかけて、関西弁が妙にまたおもしろそうに聞こえて、
彼女のまわりにはいつも人垣ができていた。
勉強も運動もそこそこできたし、
男子とも物怖じせずに戯れていた。
そして近所のスーパーには絶対売ってないような、
ひらひらとした丈の短いスカートをいつもはいていた。

たしか私はノダアカネが気に入らなかった。
下品で失礼な人だと決めつけていたし、
へんに馴れ馴れしいのも気に入らなかった。
正確には、苦手だったんだと思う。

ある時、ノダアカネがとても困った顔をして
私に話しかけてきたことがあった。
「ナプキンとか持ってないよね」
ひょろひょろして男の子みたいな体つきをした私には、
一瞬何のことだかわからなくて、びくっとした。
考えてみればノダアカネは、体も大きかったから、
そういうことが始まっていても、ちっともおかしくはなかった。
そういえば、少し前にそういう授業を保健の先生から受けた時に、
全員に一つずつ渡されていたものが
まだロッカーにしまってあったことを思い出した。
そうか、ノダアカネはまだその時いなかったんだ。
でも私はそのことをノダアカネに言わなかった。
「ごめん、持ってない」と嘘をついた。
なぜそんな嘘をついたのか、自分でもわからない。
ノダアカネは、一瞬困った顔をして、
でもすぐに「ありがと」と笑顔になって教室を出て行った。
その日一日、私はノダアカネの丈の短いスカートが、
真っ赤に染まってしまわないか、ドキドキしながら見ていた。

夢の中のノダアカネは、その時と同じ困った顔をしていた。
でも、すぐにやっぱり笑顔になって、
どこか遠くへ行ってしまった。
目が覚めるとお腹に特有のだるさが広がっていて、
トイレに行ったら案の定、生理が始まっていた。
ノダアカネは、今ごろ何をしてるんだろう。
トイレットペーパーに広がる茜色のものを見ながら、
今でも丈の短いスカートをはいてるといいな、と思った。

出演者情報:石橋けい 03-5827-0632 吉住モータース

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ