福里真一 2018年1月21日

部屋の模様替え

   ストーリー 福里真一
       出演 遠藤守哉

ミサイルが飛んでくる前に
部屋の模様替えがしたくなった

ミサイルが飛んでくる前に
まずメインで飾ってある2枚の絵を外し
押入れにしまってあった別の2枚の絵に差し替えた

ミサイルが飛んでくる前に
本棚を日光が当たりにくいところに移動させるため
すべての本をいったん本棚から出した

ミサイルが飛んでくる前に
デスクの向きを窓向きから部屋の内側向きに変えた

ミサイルが飛んでくる前に
出しっぱなしだったスーツケースを
地下のトランクルームに移動した

ミサイルが飛んでくる前に
さっき向きを変えたデスクをぞうきんでふいた

ミサイルが飛んでくる前に
ティーバッグで紅茶をつくって飲み
ひと息ついた

ミサイルが飛んでくる前に
さっき本棚から取り出した本を
移動した本棚に一冊ずつ並べはじめた

ミサイルが飛んでくる前に
その作業に完全に飽きた

ミサイルが飛んでくる前に
本の中にあった猫村さんのマンガを
しばらく読んだ

ミサイルが飛んでくる前に
再びいやいや本を本棚に並べはじめた

ミサイルが飛んでくる前に
過去の写真や手紙、ハガキ類を
この機会に全部捨ててしまおうかと迷ったが
とりあえず今日の時点では全部とっておくことにした

ミサイルが飛んでくる前に
本の中にあった弘兼憲史の人間交差点を
少し読んだ

ミサイルが飛んでくる前に
ようやく大きい本は並べおわり
あとは新書と文庫だけ
という状態になった

ちょうどそこまで終わったところで
本当に北からミサイルが飛んできて
着弾した(おわり)



出演者情報:遠藤守哉(フリー)

music:http://www.hmix.net/
 

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福里真一 2017年1月15日

karaage

トリの唐揚げの話

    ストーリー 福里真一
       出演 遠藤守哉
       
Aさんは常に温厚で、
彼が怒った姿など、
もう十数年の付き合いになるが、
一度も見たことがない。

聞いてみると、
いまは40代の彼が、最後に怒ったのは、
中学2年のときだそうだ。

当時、中学校の昼食の時間に、
クラスメートの弁当に背後から手を伸ばして、
次々とつまみ食いをする同級生がいたそうだ。

その同級生は、ちょっと不良がかってはいたが、
どこか茶目っ気もある、なかなかの人気者だったから、
彼のその行為を、クラスメートたちもなんとなく笑って許していた。

その、みんなの、笑って許している雰囲気が、
Aさんからすると、
なんとも嫌な感じだったそうだ。

そうしたある日、
ついにAさんの弁当に、彼の手が伸びる日がきた。

自分の弁当の、トリの唐揚げをつまみ食いされた瞬間、
Aさんは、自分でもびっくりするぐらい、
ブチ切れた。

そんなに食いたきゃ、いくらでも食え!

Aさんは、弁当箱の中にあった、
ありったけのトリの唐揚げを、
彼に全力で投げつけた。

いつもは温厚なAさんの、突然の逆上に、
そのつまみ食いの同級生も、
そのほかのクラスメートたちも、
あっけにとられていたそうだ。

…その話を聞いてから、
僕のAさんを見る目が変わった。

一見、温厚に見える彼の奥底には、
トリの唐揚げのような形をしたゴロゴロした怒りが、
再び爆発する機会を待って、
いまはいっとき、つばさを休めている。

そんなイメージが、頭から離れなくなって、
困っている。

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

 

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福里真一 2016年1月24日

fukusato1601

サルの自慢の後輩

    ストーリー 福里真一
       出演 遠藤守哉

後輩がメキメキと力をつけ、
自分を追いぬいていこうとするとき、
それに激しく嫉妬するタイプと、
それを心から喜ぶタイプがいる。

サルは完全に後者だった。

人間という後輩が、
文明というものを生み出し、
それをすごい勢いで発展させはじめたとき、
サルは心の底から、感心した。

あの、人間ってやつらは、すごいなあ、と。

そして、人間が、文字を発明したと知っては、
キーキー喜び、
鉄道を発明したと知っては、
キーキー喜び、
スマホを発明したと知っては、
キーキー喜んだ。

まるで田舎のおじいさんが、
都会での孫の活躍に目を細めるように、
サルは、人間の活躍をいちいち喜んだ。

その間、サルの方が何をしていたかといえば、
木の実を食べたり、子孫を増やしたり、
時々、温泉に入ったりしていただけだった。

昨年、とある極東の国で行われた強行採決や、
それに反対する国会周辺でのデモなども、
サルから見ると、
ただただ、すごいなあ、ということになるのだった。

考え方、なんていう抽象的なことをめぐって、
真剣にぶつかりあえる人間ってやつらは、
やっぱりすごいなあ。
こっちは、せいぜい争いといえば、
メスの奪い合いと、バナナの奪い合いぐらいだというのに。
キーキー。

その時、サルの心に、一瞬、
自分たちも、
国というものをつくってみたらおもしろいんじゃないか、
という考えが浮かんだが、
メモをとる手帳もなかったので、
すぐに忘れてしまった。

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

 

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福里真一 2015年1月18日

1501fukusato

クロベエのサイン

     ストーリー 福里真一
        出演 大川泰樹

新年早々、ある知り合いの、葬式に行った。

故人はプライベートで、ボウリングを趣味にしていたらしく、
祭壇には、
遺影が、ボウリングの投球フォームの写真だったのをはじめ、
マイ手袋や、
マイシューズや、
マイボウルが飾られていた。

騒動がもちあがったのは、
焼き場に行ってからだ。

故人の妻が、
夫が大事にしていたマイボウルも、
一緒に焼いてほしいと言う。

主人のお気に入りのボウルなんです。
ここには、クロベエさんの直筆サインも入っているんです…。

ちなみにクロベエさんというのは、
黒部幸英さんというタレントで、
かつてテレビ東京で、「ザ•スターボウリング」という番組の司会をしていて、
ボウリング好きの間では知られた存在だ。

もちろん、故人の妻の少し唐突な願いは、
焼き場のスタッフから、丁重だが、
断固として拒否された。

それまで冷静に見えた夫人は、いきなりブチ切れ、
何か奇声を発すると、
見事なアンダースローで、
焼き場の支配人に向かって、そのボウルをぶん投げた。

支配人があわててよけると、
床にボウルが落ちる音が、

ゴンッ

と響いた。

腹に響く音だった。

その後、式次第は、平常にもどり、
最後の会食まで、無事に終わった。

新年早々、なんだか愉快な気持ちになって、
私は葬式から帰ってきた。(おわり)

出演者情報:大川泰樹(フリー) http://yasuki.seesaa.net/


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福里真一 2014年1月13日

外国からのお客さまのために

        ストーリー 福里真一
           出演 大川泰樹

東京が、他の海外の大都市と似たような近代都市だと、
外国から来たお客さまが、
がっかりするのではないか。
という議論は、
すごい勢いで、盛り上がりを見せた。

2014年、江戸復活法案、可決。

多額の国家予算をつぎこんで、
東京に、江戸の街並みを大規模に復元することが、決まった。

6年後に向けて、
急ピッチで、ビルが倒され、高速道路が破壊された。

まるで、戦後の焼け跡のように、
何もなくなった東京に、
今度は、木造の江戸の町が、
信じられないスピードで復元されていく。

もちろん、各競技場は、超現代的なデザインだったから、
背の低い家が立ち並ぶ江戸の街並みと、
突然ところどころで姿を現す、巨大競技場の対比は新鮮で、
これなら、外国からのお客さまたちも、
感嘆の声をあげてくれるだろう、と思われた。

忘れられていたのは、
江戸の名物は、火事だ、ということ。

2020年、世界的イベントを半年後に控えた、
2月のある日、
一軒の家の火の不始末から燃え広がった火事は、
おりからの北西の風にのって、
瞬く間に、
新しい江戸の町を、焼き払った。

その翌日、
黒こげになり、
何もなくなった、東京、あるいは、江戸の町の向こうには、
富士山が、
かつてないほど、くっきりと見えたという。(おわり)

出演者情報:大川泰樹(フリー) http://yasuki.seesaa.net/

  

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福里真一「電信柱の陰から見てるタイプの企画術」

福里真一くんは、人をいじるとき、とても丹念にいじる。
福里真一くんは、そうはいっても人が好きだ。
福里真一くんは、人の輪の真ん中に入らないというようなことを
この本に書いてあるが
そうはいっても3時間しゃべりつづけたアレは何なんだ?
油断したのか??
単に楽しかったのか???
それとも全員が福里真一タイプで、否応なく真ん中に押し出されたのか?
(そんな気もする)

この本は、そんな福里くんの独演会だ。
そして、この本はみなさんが想像する以上に面白い(なかやま)

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