秋の番組改編
わたしが、
ウルトラの母だった頃、
あの人は、3分で死んでしまう怪獣だった。
わたしにつながる銀色の巨人に、
酷くド突き回され、蹂躙され、
最後は殺されてしまうあの人。
あの人が殺される度に、
大人も子供も白い歯を見せ破顔し、
握手を交わし、
肩を組み合って、
束の間の平和に酔い痴れ、
巨人につながるわたしを崇めた。
わたしの巨人の腕から繰り出される
凶悪な光の束によって
あの人が散り散りの肉塊に成り果てたあとも
わたしは、
あの人の欠片を
宙(そら)から見下ろし楽しんだ。
でも、あの人は、殺される度に蘇った。
一週間。
それが、あの人に必要な時間だった。
生まれ変わったあの人は、
相も変わらず醜く獰猛で、
明らかに珍妙で、滑稽で、
歪(いびつ)で冷たい孤独をまといながらも、
どこか可愛い気のある怪獣に生まれ変わった。
そうして、また、
わたしの巨人と対峙し、
惨たらしく屠られた。
何度も、何度も。
毎週末の日曜、午後7時20分を過ぎたあたり。
気がつくと、
わたしはその時間を、
あの人が息絶えるそのときを、
身を捩りながら
待ち焦がれるようになっていた。
どうっと派手に土煙を上げながら
大地に、
ときにはビル群に倒れ込み、
宙(そら)を仰ぎ見るあの人の視線の先には
いつもわたしがいた。
あの人の今際の際、
その瞳から怪しい光が消えようとするその刹那、
わたしの弛緩した視線とあの人のか弱い視線が
わずかにそっと交わる。
わたしとあの人の最後の日。
あの人は死ななかった。殺されなかった。
白い歯を見せ破顔する人間は、
そこにいなかった。
顔を歪め、歯噛みし、叫び声を上げ、
自分の無力を呪いながら
あの人に踏み潰されていった。
そして、
何度もあの人を殺してきた巨人は、
それまでのあの人のように、
大地に仰臥し
両手を胸の前で組んだまま
ピクリとも動かず、宙(そら)を見上げていた。
わたしがこれまで
ずっと求め、欲しつづけた
あの妖しい光をわずかに湛えた瞳はそこになかった。
それで、すべてが終わった。
それが、最終回となった。
その秋、番組は打ち切られた。
巨大な公園の濡れた落ち葉を
踏みしめがら向かった先、
特撮の神の名を冠した
制作プロの暗い倉庫の片隅に、
あの人の累々たる屍が、
折り重なるように遺棄されている。
ここまでの来しなに
踏み躙ってきた腐りかけた落ち葉のように。
もちろん、
わたしの抜け殻も、
あの人の残骸に寄り添いながら、
今は、そこある。