田中真輝 2019年8月4日『花火と火花』

『花火と火花』

   ストーリー 田中真輝
      出演 西尾まり

一瞬、消えたかと思うほど小さくなった火は、
すぐに勢いを取り戻し、震えながら花開く。

細い線香の先に灯る火球(かきゅう)は頼りないようでいて、
無数の腕を伸ばして闇を押し返そうとするように力強くもある。

飛び散った火花はやがてそのひとつひとつの先に、
新しい火花を開いていく。

呆けたように見つめる子供。
その目に赤々と映る火の花、
から飛び出した光の粒子が、
子供の目に飛び込み、
眼球のガラス体を通り抜ける。

反転する世界。

網膜が受け止めた粒子が、子供の視神経を刺激すると、
刺激された神経細胞が励起(れいき)し、発火する。

それは隣へと燃え移り、
次々に神経細胞を発火させていく。
脳内に張り巡らされた千数百億とも言われる
神経細胞のネットワークを、
火花が飛び回り、駆け巡る。

初めて花火を見る子供の頭の中で、
電気信号の火花が散る。
牡丹のように、松葉のように、
柳のように、散る菊のように。

頭蓋の中を駆け巡る火花の間から
「美しい」という意識が生まれてくるのだとするならば、
飛び散る線香花火の火花の間から
「美しい」という意識が
生まれてきてもいいのではないか。

花火を見つめる子供を、花火もまた見つめている。

出演者情報:西尾まり 30-5423-5904 シスカンパニー

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