スーパーマーケットポエトリー
ストーリー 蛭田瑞穂
出演 坂東工
いまから44年前の1964年に、
アメリカの農務省がある実験をおこなった。
それは3つの州からいくつかのスーパーマーケットを選び、
店内のレイアウトを変えてみる、というものだ。
どのように変えたかというと、
通路の外周に沿って置かれていた肉や野菜を中央の通路にまとめて、
中央に置かれていた缶詰やパスタを通路の外周に並べた。
つまり生鮮食品とそれ以外の商品の売り場を入れ替えてみたんだ。
そして1300人の客に実際に買い物をしてもらい、
その行動を細かく調査した。
結果わかったのは、生鮮食品を店の中央に置いたことで
買い物客の購入行動ははっきりと低下した、ということだった。
一人当たりの平均購入品目は18から14に減り、
購入金額は33パーセントも減少した。
この実験から、アメリカ農務省はひとつの結論を出した。
それはスーパーマーケットにおける客の購入金額は、
買い物客が店内を歩く距離によって決まる、というものだ。
どういうことかというと、
生鮮食品のようなその日の食事に必要なものを、
店内をぐるっと一周するように置くと、
買い物客はそれを買うために店の中をより長く歩くことになり、
同時により多くの商品を目にすることになる。
すると、本来買わなくてもいいものまで買ってしまう。
そういう人間の無意識の行動を、実験結果の中に見つけたんだ。
それ以来、どのスーパーマーケットも、
買い物客に店全体を歩き回らせることを意図して
設計されるようになった。
入口を入ってすぐに野菜売り場があって、
次に魚売り場、次に肉売り場、次にパン売り場。
どのスーパーマーケットもだいたいこの順番で配置されているだろう。
それには、こういう理由があるんだよ。
そう、それでね、結局僕が何を言いたいかというと、
スーパーマーケットという空間における僕らの行動というのは、
すでに何者かによって決められている、ということなんだ。
だから、僕がさっき、グレープフルーツ売り場の前で君を見たとき、
一瞬で恋に落ちてしまったのは、偶然なんかじゃなくて、
それはスーパーマーケットが導いたことなんだよ。
出演者情報:坂東工 http://blog.livedoor.jp/bandomusha/
動画制作:庄司輝秋