西脇淳 2011年6月19日



「命の名前」
           ストーリー 西脇淳
              出演 西尾まり

どんなときも、優しさと希望を胸に。命名、優希。(ゆうき)

夢をみることを忘れちゃいけない、夢があれば、がんばれる。
命名、夢乃。(ゆめの)

明けない夜はない。昇る太陽のようにみんなに希望を。
命名、昇太。(しょうた)

みんなが一日も早く、心穏やかな日々を過ごせますように。
命名、凪。(なぎ)

何よりも、健やかに。命名、健太。(けんた)

みんなの心に、春をつれてきてね。命名、さくら。

しっかり、みんなを支える人になるんだぞ。命名、大地。(だいち)

背筋をピンとのばして、凛々しく前を見て歩いて行ってね。命名、凛。(りん)

悠久の未来まで、思いやれる人になってほしい。命名、悠斗。(ゆうと)

お陽様のように、いつもみんなを明るく照らしてね。命名、ひより。

今こそ、日本男児の強さと優しさを。命名、大和。(やまと)

自分の気持ちも、他人の気持ちも思いやれる人になってね。命名、心。(こころ)

嘘、偽りなく、常に誠実に。命名、誠。(まこと)

いつだって、人を救えるのは、愛。愛こそ、すべて。命名、愛。(あい)

不思議だね。
ほら、ママも、パパも。おじいちゃんも、おばあちゃんも。
うれしいのに、泣いている。
泣いているのに、笑ってる。

生まれたばかりの、小さな、小さな、命が、
大きな、大きな、勇気をくれる。

君たちのためなら、がんばれる。
君たちのためなら、前を向ける。

今、この国に、生まれてきてくれてありがとう。

君たちこそが、希望の光。

出演者情報:西尾まり 30-5423-5904 シスカンパニー

  
動画制作:庄司輝秋

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国井美果 2011年2月6日



「微熱屋」
               ストーリー 国井美果
                 出演  西尾まり
                      

暦のうえではもう立春ですが、まだまだ寒い日がつづきます。
どうかお風邪など召されませぬよう・・・

あ、召されてますか。

でも、仕事を持っていると、おちおち休めませんよね。
まずいな~と思いながらもズルズルと残業して、こじらせて。
で、あわてて市販の風邪薬を飲む。医者にかかる。

でもね。
こういう言葉をご存知ですか。
「風邪は治すものではなく、経過するものである。」

これ、有名な整体の先生の受け売りなんですけど、

そもそも風邪というのは病気なのではなく、
それ自体が治療行為なのだそうです。

だから、早く治したくて無理に熱を下げようとしたり、

咳を止めようとしない方がいい。中断しない方がいい。

「自然な経過を乱さなければ、
風邪をひいたあとは、蛇が脱皮するように新鮮な体に」なれるものなんですと。

なるほど。
風邪をひきかけたら、無理に止めずに、
「まずはすみやかに休養する」のがいちばんです。
え?

すみません、申し遅れました。
わたくし「微熱屋」と、いうものです。

微熱屋とは、あなたのようなお忙しい方が、
風邪かな?と思ったら、すぐさま身体を休ませることのできる場所。
街中にある、有料の保健室のベッドのようなものと申しましょうか。

ご興味がおありですか?

どうぞいらっしゃいませ。さあどうぞ。

では、まず受付で検温してください。
37度5分以上の方は、申し訳ございませんが
微熱の範疇を超えておりますのでお帰りください。
それ以下の方は、個室へどうぞ。
 

各部屋には、小さいですが清潔なベッドと
気持ちのいい麻のシーツが備えてあります。

プラズマクラスター付き加湿器も標準装備。
温度と湿度の管理はカンペキ。
ご希望ならば和室タイプもございます。
 

では、こちらのパジャマにお着替えください。
クリーニング済み。素材も選べます。キティちゃんのもあります。
オプションで五本指ソックスや腹巻きもございます。

さてこちらが、ルームサービスのメニューです。
風邪といったらやはり、
すりリンゴ、みかんゼリー、生姜と蜂蜜入りミルクティー、葛湯、
さらに卵粥、きのこ雑炊、煮込みうどん、
ネギの黒焼き、スンドゥブ、牡蛎鍋などもございます。

カラダが芯からポカポカしてきましたでしょう?

それでは、
どうぞおやすみなさいませ・・・・

あ、BGMもお選びいただけます。

iTunesの中には、ボサノバからグレゴリオ聖歌まで10,000曲以上、

「キッチンでお夕飯の支度をする音」なんていう選択もございます。

 お時間は、「60分後にお目覚め」コースでよろしいですか?
それでは、ベテランのお母さんが優しく起こしに参りますので、
おやすみなさいませ・・・

あ、お母さんのタイプも選べますよ。

八千草薫タイプ、
竹下景子タイプ、
市原悦子タイプ・・・・それから、
もう、いい?

それでは、おやすみなさいませ。お大事に。

あ、料金ですが、前払い制になってまして・・・・・・・・

(おわり)

出演者情報:西尾まり 30-5423-5904 シスカンパニー

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西尾まりから「ひと言」



収録日に息子が熱発。
やむをえずスタジオに同伴。
あー微熱屋さん。預けたかった(西尾まり)

<補記>
 2011年1月27日、西尾まりちゃんが読んだ原稿は
 国井美果さん「微熱屋」
 微熱があるときにベッドを貸してくれて
 すり卸しリンゴやお粥も注文できる「微熱屋」のストーリーでした。
 西尾まりちゃんの息子ロクちゃん(3歳)は風邪で発熱。
 熱があると保育園で受け入れてもらえないので同伴で収録に。
 熱があるわりには元気そうなロクちゃんでした。

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坂本和加 2010年12月23日


クリスマスの夜に
            ストーリー 坂本和加
               出演 西尾まり

タクシーで泣いたことが、いちどだけある。

美大を出たわたしは、東京のすみっこにある、
ちいさな大道具の制作会社でまいにち忙しく働いていて。
遅くまで食事もせずにがんばって、
深夜にタクシーで帰ることも、よくあった。
昔より女性が増えたといっても、
こういうギョーカイはまだまだ男社会で、
同年代の女友達が新作のブランドバッグをぶらさげて
銀座で合コンなんかをしているころわたしは、
すっぴんで、きたないツナギのような服を着て
何かに負けたくなくて、がんばっていた。

クリスマスのその日、東京は雨だった。
恋人もいなくて、独り暮らしの
ちいさなアパートに帰るだけの
クリスマスだったけれど、
時計を見たらもうイブも終電も終わっていて。
タクシーに乗ったのは、深夜2時を過ぎていた。

運転手さんに自宅を告げて、
つぎからつぎへと雨のつたう窓ガラスを見ていたら、
なぜだか急に泣けてきたんだった。
鼻の奥がツンとして、街のネオンがゆがんで、
「あ、マズイ」って思ったときには、もう手遅れだった。

運転席に悟られてはいけない。
バックミラーをのぞかれたり、
なにか聞かれでもしたら死ぬかもしれないと思って、
ひとつも物音を立てず、涙もぬぐわず、
コートの袖口は、涙でどんどんぐずぐずになっていった。

仕事で叱られたこととか、
いいなと密かに思っていたひとに恋人がいたこととか、
へこむことは、それなりにあったけれど。
まいにちは楽しくすぎていた、はずだった。
なのに肌荒れはひどくなるいっぽうで、
ストレスなんて減らせないし、
今日はクリスマスで、わたしは去年の服を着て、
疲れた顔して、お酒も飲まずに
仕事先からたったひとりタクシーに
乗ってかえるという26才の現実を、
いったいどのへんを、がんばったと褒めてあげたらいいのか。

とにかく涙は、とめどなく流れ出た。
だから、たたきつけるようにふる雨音と、
すこしヤレた、うるさいワイパー音がありがたかった。
そのときついた、ラジオの音も。

仕事をしていた母は、きびしいひとだった。
いつかわたしに「女は職場で泣いちゃダメ。ぜったいに」と
言ったことがあったのを思い出した。
ここは、職場じゃないのだけれど。
涙は、家までもって帰れなかったよ。
わたしは、こころのとおくで母に謝りながら、
クリスマスに必ずつくってくれた
母のコンソメ野菜のスープが、
とてもとても飲みたくなったんだった。

出演者情報:出演者情報:西尾まり 03-5423-5904 シスカンパニー所属

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動画制作:庄司輝秋

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福里真一 2010年11月21日

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ジャーナリストの資質

               
ストーリー 福里真一
出演 西尾まり

私は都会のコーヒーショップで、時間をつぶしていた。
となりのテーブルでは、就職活動中らしき若者ABが、OB訪問をしていた。
そのOBは、どうやら、新聞記者らしい。
私は、近くに、大きな新聞社があることを思い出した。

君たちは、ジャーナリストに一番大事な資質って、なんだと思う?

OBの問いかけに、まず、若者Aがこたえる。

正義感、だと思います。
ジャーナリズムが存在するのは、結局のところ、
世の中をすこしでもよくするためではないでしょうか。
それを忘れたら、最近よく言われるように、
批判のための批判に陥ってしまう。
ジャーナリストのすべての根本に、正義感があるべきだと思います。

続いて、若者Bがこたえる。

好奇心、じゃないでしょうか。
とにかく、とことんいろんなことを、しかも誰よりも深く知りたい。
それが、ジャーナリストの本質だと思います。
強靭な好奇心があってはじめて、誰もたどりつけなかった真実に、
たどりつくことができるのだと思います。

ふたりの答えを、OBは、おもしろそうに聞いていた。

ふたりとも、見事な模範解答だね。
いや、からかってるわけじゃない。ふたりの言ってることは、
どちらももっともだと思うよ。
でも、俺が考える、ジャーナリストの資質とはちょっと違う。

そう言うと、彼は、おもむろに、三枚のお札を、テーブルの上に並べた。
一万円札、五千円札、そして、千円札を、一枚ずつ。

君たちは、この三枚のお札を見て、まず最初に、どう思う?

若者Aがこたえる。

ほしいな、と思います。

つづいて、若者Bがこたえる。

どうしてお札を並べたんだろう、と思います。

そうだね、そう思うよね。どちらも、よく理解できるこたえだ。
でも、俺は、こう思うんだ。
あー、鼻毛を書き込みたいって。

は?

若者ABは、まったく理解できないという表情だ。

見てみろよ、この、福沢諭吉、樋口一葉、野口英世のもっともらしい顔。
こいつらは、確かに、すばらしい業績をあげたんだと思うよ。
でも、同時に、ひとりの人間として、うそをついたり、友人を裏切ったり、
えっちなことを考えたり、ろくでもないことをたくさんしてるはずなんだ。
そんな、ろくでもないたかが人間が、
こんなすました顔でお札におさまっているのを見ると、
こいつらの鼻に鼻毛を書き込んでやりたくて、
たまらなくなるんだよ。

子供の頃からそうだった。
国語の教科書に載ってた作家たち、
理科の教科書に載ってた科学者たち、
社会の教科書に載ってた歴史上の偉人たち、
すべての肖像画や写真に、俺は、鼻毛を書き込まずにはいられなかったんだ。

ちなみに、鼻毛が一番似合ったのは、ダーウィンと源頼朝だったけどな。

そして、そのOBは、コーヒーを一口すすると、断定的に、こう結論づけた。

そこに、とりすました偉人の肖像があったとき、
鼻毛を書き込んでやられずにいられない、
それが、俺の考える、ジャーナリストの資質だよ。

話が終わると、OBと若者ABは、いっせいに席を立った。
私の横を通るとき、チラッと顔を見あげると、
若者ABふたりの顔には、大きなハテナマークが、
浮かび上がっているようだった。

しばらくして、私も勘定書きをもって席を立った。

私は考えていた。
私は、ジャーナリストへの転職を考えるべきなのだろうか、と。

なぜなら私も、子供時代、教科書のすべての偉人たちの鼻の穴に、
鼻毛を書き込まずにいられなかったから。

出演者情報:西尾まり 03-5423-5904 シスカンパニー所属

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動画制作:庄司輝秋


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三井明子 2010年10月17日

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『誕生日』
                  
ストーリー 三井明子
出演 西尾まり

初めて降りる駅。
駅を南側に少し歩くと、古いビルが並ぶ一角。
その中のひとつのビルの一室を探しあてた。
古びた応接セットの置かれた地味な部屋だった。
お香の匂いも、水晶玉もない。
そこには、ただ1人、おばあさんがいた。
私は、緊張して、沈黙が怖くて、自分から話し始めてしまう。

同僚の評判を聞いて来たんです、良く当たるって…
今日は、男性との出会いを占って欲しくて…
そこまで話すと、おばあさんが私に話しかけてきた。
「お名前は?」
サトウ サヤカです。
「生年月日は?」
1980年10月30日です。
そして、その2点だけを確認すると、
ゆっくりと頷き、
私の顔をじっくりと見つめ、
深く息を吸った後にこう話しはじめた。

「この部屋を出て、駅に向かう途中に2つ信号があります。
1つ目の信号待ちで、あなたの右側に1人の男性が現れるはずです。
その男性があなたの運命の人でしょう。思い切って声をかけてみてください」

あ、あの、もしも、右側に男性が現れなかったら?

「きっと現れます。
 万が一現れなかったら、現れるまで待っていればいいのです、その場所で」

そこまで自信たっぷりに断言されると、信じるしかない、のかもしれない…
でも、本当かしら…

そんなことを考えながら駅へ向かう。
緊張感が高まる。
1つ目の信号が見えてきた。
私が着くと同時に信号は赤になった。
そして…、
なんと、右側に男性がやってきた!
顔は良く見えない。
どんな人かわからない。
でも、声をかけるしかない。
顔を見ると、意外と好みのタイプ。
好きな音楽が一緒、職場が近所、自宅も同じ方向…
さえない喫茶店で2時間も話しこみ、
店を出るときには、次に会う約束をしていた。

「本当によかったね!披露宴の受付とスピーチは任せてね」
占いを紹介してくれた同僚たちが、ちょっと悔しそうに祝福してくれた。
そう、あれから自然に交際がはじまり、とんとん拍子に話が進み、
あの日、あのとき、あの信号の前で出会った男性、
タカシと結婚することになっていた。

披露宴を目前に準備で慌ただしくしていた週末、
手続きや相談もあって、実家に帰った。
ねえお母さん、実はね。
タカシさんとの出会いはね、誕生日が関係しているの…
「ふうん。あ、そういえば、今まで言ってなかったけど、
 サヤカの誕生日、ほんとうは別の日だったのよ…
 でもね、田舎のお爺さんがね、キリがいいって、
 変えて届けをだしちゃってね…」

え?え?そうなの?
私の誕生日は別の日なの?
じゃ、あのおばあさんは何を占っていたの?
じゃあ、タカシさんは運命の人じゃない…、の…?

出演者情報:西尾まり 03-5423-5904 シスカンパニー所属

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動画制作:庄司輝秋


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