福里真一 2016年1月24日

fukusato1601

サルの自慢の後輩

    ストーリー 福里真一
       出演 遠藤守哉

後輩がメキメキと力をつけ、
自分を追いぬいていこうとするとき、
それに激しく嫉妬するタイプと、
それを心から喜ぶタイプがいる。

サルは完全に後者だった。

人間という後輩が、
文明というものを生み出し、
それをすごい勢いで発展させはじめたとき、
サルは心の底から、感心した。

あの、人間ってやつらは、すごいなあ、と。

そして、人間が、文字を発明したと知っては、
キーキー喜び、
鉄道を発明したと知っては、
キーキー喜び、
スマホを発明したと知っては、
キーキー喜んだ。

まるで田舎のおじいさんが、
都会での孫の活躍に目を細めるように、
サルは、人間の活躍をいちいち喜んだ。

その間、サルの方が何をしていたかといえば、
木の実を食べたり、子孫を増やしたり、
時々、温泉に入ったりしていただけだった。

昨年、とある極東の国で行われた強行採決や、
それに反対する国会周辺でのデモなども、
サルから見ると、
ただただ、すごいなあ、ということになるのだった。

考え方、なんていう抽象的なことをめぐって、
真剣にぶつかりあえる人間ってやつらは、
やっぱりすごいなあ。
こっちは、せいぜい争いといえば、
メスの奪い合いと、バナナの奪い合いぐらいだというのに。
キーキー。

その時、サルの心に、一瞬、
自分たちも、
国というものをつくってみたらおもしろいんじゃないか、
という考えが浮かんだが、
メモをとる手帳もなかったので、
すぐに忘れてしまった。

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

 

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おいしい秘密


出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

「おいしいひみつ」

    ストーリー 松川詠亮(東北芸術工科大学)
       出演 遠藤守哉

東北の冬は寒い。
家族や親戚が集まって鍋を囲む。

我が家では、親戚の家に家族みんなが集まって、
すき焼きをみんなで囲むのが恒例だ。

そして、私には友達の誰にも言わない密かな楽しみがやってくる。

肉牛を育てている農家の親戚から
毎年この時期には肉をおすそ分けしてもらえる。
もちろん、A5ランクの牛肉だ。
我が家はたいして金持ちではないが、
幼いころから肉に関しては舌が肥えていた。

友達に自慢するつもりはない。
あいつらだって、きっと私の知らないところで
美味しいものを食べているに違いない。

東北にはおいしいものが多すぎるのだ。

東北へ行こう


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直川隆久 2015年11月15日

1511naokawa

ニュータウン

ストーリー 直川隆久
出演 遠藤守哉

谷口が失踪した理由を、書いておこうと思う。
が、若干こみいった話でもあるので、順を追わせてほしい。

一月ほど前。
あいつがアメフト部の合宿への参加を頑なに拒むので、
部長の俺が説得にあたることになった。
谷口は、比較的俺には心をひらいている気がしたし、
俺もそのつもりではいたのだ。
一人暮らしのワンルームに谷口を呼び出した。
寡黙ながらグラウンドではいつも練習熱心な谷口が、
どうして合宿にだけは参加したがらないのか。
疑問を素直にぶつけた。
谷口の口はいつも以上に重かったが、ついに根負けし、
「部長にだけ話します」と事情を語り始めた。

「ひかないでほしいんですけど」
「なに?」
「タトゥーっていうか彫り物っていうか…
わりとでかいのがオレ、背中にあって…」

びっくりした。まさか谷口がそういうタイプの人間とは思わなかったのだ。
が、納得もした。
谷口がロッカールームではいつも壁際で着替え、
練習のあとはシャワーを浴びずにそそくさと帰るのはなぜかと
前から不思議だったからだ。

「まあ昔どういうことがあったかは知らんけど、過ぎたことは…」
俺の言葉を聞き終わらないうちに、谷口がTシャツを脱ぎ始めた。
屈強さを誇るアメフト部の中でも
ひときわ量感のあるその背中をこちらに向けると…
一面に、妙に、込み入った模様があった。

…地図だ。
しかも、住宅地図。

右肩甲骨のあたりに四角い枠があって、
その中に「けやき台3丁目地図」という文字があった。

「おまえ…この地図…」
「オレの生まれた町です」
「それを…なに、タトゥーにしてるわけ?…なんで…?」
谷口はいつになく言葉数多く話し始めた。
何か抑えていたものが堰を切ったかのように。
「…2020年頃に、ニュータウンのゴーストタウン化っていうのが
日本のあちこちで問題になったらしくて…
で、オレの生まれたけやき台ってとこなんですけど、
なんていうか…ちょっとおかしな自治会長がでてきたんですよ」
「おかしいっていうと…」
「まあ、一言でいうと、宗教っぽいっていうか…
最初はふつうの…むしろ、立派な人だったらしいんです。
子育て支援とか行事とかいろいろやったせいで、
町にだんだん活気が戻ってきて…
うちの親なんかはそのあと移り住んだんですけど。
でも、その自治会長がだんだんおかしくなっていって…」
「…どんなふうに…?」
「誰かが引っ越そうとすると、いやがらせをするんです…
集会に呼び出して何時間も問い詰めるとか…
そのうち、住民がその人の思うように動かされるようになってきて…」
「洗脳?」
「そう…ですね。ニュータウンの住民って、なんだかんだ言って
価値観も似てるから、染まりやすいのかも…
で、住民が全員、自分が住んでる家の周辺の地図を
刺青(いれずみ)させられたんです。
『けやき台魂を注入するために』って」
「…なにそれ…」
バカのようにぽかんとしている俺に
「星印のとこ」
と谷口が言いながら、もう一度背中を向ける。
腰のあたりに黒い★印がある。
「…ここがオレの家なんです。3丁目15の3」
「…」
「おまえの居場所は一生ここだ、っていう刻印なんです」
「一生?」
「故郷に忠誠を誓え、っていう」
「これ…いくつのときやられたの?」
「小3です」

カルト自治会長、肌に彫られた住宅地図…という組み合わせが
俺の理解の範疇を超え、なにかできの悪い冗談を聞いているようだった。
でも谷口はそんな冗談をいうやつじゃない。
まだ子どものときに無理やりこんな刺青をされるなんて、
ひどすぎる経験だ。どれだけ痛くて苦しかっただろうか。
「警察は?」
「だめです…ばれたら、ただじゃすまない」
「でも、谷口、おまえは今そこに住んでないわけじゃん。それは…いいのか?」
「よくないです」
と谷口は曖昧に笑った。
「オレの両親がオレを逃がしてくれたんです」
だから、自分はこの彫り物を迂闊に人に見せられないのだと言った。
それがばれると、連れ戻されるからと。
両親はどうなったんだときくと
「わかんないです。ぜったいに連絡とるな、って言われてるんで」
と言って谷口はうつむいた。

・・・・・・・・・・・・

それから何週間かたったある日、ポストに、手書きのメモが挟まれていた。
谷口からだった。走り書きで
「自治会長に見つかりました 検索リレキからかぎつけられたみたいです
仲間はみつけてあります このメモはトイレに流してください」とあった。
そして最後に「合宿、いきたかったです」と書き加えてあった。

・・・・・・・・・・・・・

重苦しい数日が過ぎた。俺は、どうすることもできなかった。
部の連中も、谷口が何も言わずに消えたことを不審に思い、
何か言ってなかったかとしきりに尋ねたが、
俺は沈黙するしかなかった。

ある日の朝パソコンを開くと、「ニュータウンで原因不明の大火」という
ネットニュースの見出しがあった。
何か予感がしてクリックすると、
「けやき台」の文字が俺の目に飛び込んできた。

「A県X市内のけやき台ニュータウンの複数箇所で火災が発生し、死傷者数82名に及ぶ大惨事となった。12棟が全焼、28棟が半焼。死亡した住人の中には、コミュニティ・デザイナーであるM山K彦市(65)がいた。M山氏は自治会の長としてこのニュータウンの人口減少を食い止め、一時期メディアでもとりあげられる手腕家であった。家屋の損壊の様子が通常の火災よりも甚だしいことから、重火器の使用の可能性があったとみて、警察は調べを進めている」…

俺は谷口の名前を必死で検索した。
死亡者リストの中に谷口の名前がないことを確認してから、
あいつが「仲間」と書いていたことを思い出した。
ひょっとしたらやつは、同じ思いをしたけやき台の人間と力を合わせて
「反乱」をおこしたのだろうか。
俺は…谷口のことを知っているようで何も知らなかった。

練習が終わってワンルームに帰り、ポストを開ける。
まだ谷口からのメモは入っていない。

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

 

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直川隆久 2015年10月11日

naokawa1510

天国への階段

       ストーリー 直川隆久
          出演 遠藤守哉

げえ。
止まっちまったよ。

まじか。

4階の自宅まで、いつもは階段で上がるのに…
1秒でも早くトイレに行こうと思ったのが、
裏目にでた。

うう…。

「あ、止まってしまいましたね。非常ボタン、押しましょう」

ちくしょう。
しかも、よりによって、
この狭いエレベーターに
女性と二人きりだなんて。
だれだっけ、この人…3階の…奥田さんだったか。

階段使えよ!
…い、いや、怒ってもしょうがない。
まずは、無駄にあやしまれないように、快活に。

「とまっちゃいましたね。大丈夫ですよ。ここの非常ボタンを押せば、
警備会社のコールセンターにつながるはずですから。
あ、わたし、4階の原田です」

非常ボタン。非常ボタン。

「あ、あの、すみません。こちら、レジデンス欅台です。
エレベーターが止まってしまいまして…はい。どれくらいで来れます?
…い…1時間?もうちょっと早くなりません…かね?あはははは」

なぜ笑ったのかわからないが、それほどに、動揺している。
もう一刻の猶予も許されない状態なのだ。

「す、すこし時間がかかるみたいですね…
 わ、わたし、4階の原田です。…あ、さっき言いましたね」

うう。下腹部が震えてきた。
持ちこたえられるだろうか。
早く!
早く来てくれ!

いかん…
奥田さんが…不審げな目でこっちを…

だめだ。
ここで…
ここで漏らしたら…
おれの社会人生命は…おわりだ…

う。
うおお。
神よ…!
助けてください…
わたしに…
手をさしのべてください…!!
ここから出る…手立てを…
う…

……

まぶし…

なんだ?

え?

目の前に…
階段!?
エレベーターの中だったのに…

き…奇跡だ。
神よ!
感謝いたします!

奥田さん。
助かりましたよ!

よかったですね!
わたし、ちょっと急を要する用事がありまして…!
お先に、のぼらせていただきます!

よいしょ…

よいしょ…

よいしょ…

ふう…

ふう…

ふう…

ふう…

ふう…

ふうふう…

ふうふう…

な…

ながいな…

ど、
どこまで続くんだこの階段…

ああ、また、下腹部っううう
も…漏れ…

いかん、落ち着け。
神は俺に救いの手をさしのべてくださったんだ。
裏切るはずはない。

もう、すぐそこのはずだ…
きっとすぐ、そこに…

あ。あんなところに、
張り紙が…。

ふう…

ふう…

ふう…
ふう…

な…なんて…なんて書いてある…

…「ようこそ、安住の地へ」…

やった…!
たすかった…
天国はあったんだ…!

あれ…もう一行…書いてる…

「がんばれ、あと3万段」…?

ううっ、
か…

神よ…!!

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直川隆久 2015年9月20日

1509naokawa

答 弁

       ストーリー 直川隆久
          出演 遠藤守哉

えー、ただいまご質問にありましたような、いわゆる戦争への利用というのは、
これは、まったくあたらないわけであります。

わかりやすいように、このフリップを見ていただきたいのですけれども、
たとえばですね、公海上において日本のご家族が乗り込まれたクルーズ船が
台風に遭遇したとします。
このとき、おかあさん、そして子どもたちの命を誰が守るのかという問題なんですね。

そのためにこそですね、この台風を吹き飛ばすために、
核爆弾の平和的爆発措置をとるわけですね。
国民の生命が重大かつ緊急な危機にさらされている状態なわけですから、
国としてこのような措置を講じるのは、当然であります。

(間)

台風というのは、待ってはくれないわけですね。
ですから、この核の平和的爆発措置を講じるにあたっては、
迅速かつ柔軟な運用が鍵となります。その都度都度の判断はですね、
総理大臣である私が、法律にもとづいてしっかりと行ってまいります。

(間)

はい。クルーズ船が台風にまきこまれるという事態が、
そんなに頻繁に生じるのか、というご質問ですけれども、
先の震災で我々が得た教訓というのはですね、
やはり、自然というものは人間の予測を超えている。
それに対し、考えうるかぎりあらゆることを想定して、
ことにあたらねばならないということですね。

(間)

はい。台風を核爆弾で消滅させたら、
船も巻き添えを食うのではないかというご質問ですけれども、
これについてはですね、個々の状況において専門家の意見をいれながら、
台風と船の間の距離をですね、十分にとりながら、慎重に判断してまいります。

何度も申しておりますが、
これは、戦闘行為に核を使うという話ではなくてですね、
国民のですね、繰り返しになりますけれども、
国民の生命が緊急かつ重大な危機にさらされ、
その危機を取り去るのに、ほかに有効な手立てがない、
その場合においてのみ、使用を許されるということは、
きちんと条文に書かれております。
個別具体的な状況においては、この定義にもとづいて、
総理大臣である私が、全責任をもって、フィーリングで判断いたします。

(間)

「フィーリングで」などとは申しておりません。

(間)

ですから、そのようなことは申し上げておりません。

(間)

もちろんわが国は、非核三原則は堅持していくわけです。
しかし、この場合の平和的爆発措置にもちいる核は、
非核三原則でいうところの核にはあたらないわけですね。
なぜなら、兵器ではないわけですから。
兵器でないもので、他国の攻撃はできないわけですね。
兵器ではないですから。兵器ではないもので連中をギッタギタにしても、
これは攻撃にはあたらないわけですね。

(間)

「ギッタギタ」などとは申しておりません。

(間)

言ってない。

(間)

もういいでしょ。
やめましょうよ。
こういう形式主義。
結論は決まってんだから。

(かなり長い間)

ええ、ただいまのですね。
発言は、取り消させていただきます。
議事録からは削除をお願いいたします。

議事録からは削除をお願いいたします。

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6月の遠藤守哉(2015年7月分の収録記)

moriya1506

6月の遠藤守哉も半袖できました。ズボンは長ズボンです。
やっぱね。オトナっちゃオトナですね。
守哉は近ごろファンが多いんですよ。
このサイトにコメントをくださった韓国のイジファンさん、
本当にありがとうございます。
日本語を勉強していらっしゃるのですね。
あんまりお上手なのでびっくりしてしまいました。
(イジファンさんのコメントはこちらです。
 http://www.01-radio.com/tcs/archives/26958#comments

それから、このサイトのTwitterにいつもコメントをくださる
守哉ファンもいます。
いつも聴いてくださってありがとうございます。
(Twitter:https://twitter.com/team_tcs

収録のときにパソコンでコメントを見せると
守哉は「ありがとうございます」ってお辞儀をしています。
はい、パソコンに向かってお辞儀しているんです。
なんか、相手が違うと思いますけれども、
守哉ってそんなやつなんですよ。

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