中島英太 2023年5月7日「不審者情報」

「不審者情報」

   ストーリー 中島英太
      出演 遠藤守哉

先生からみなさんに大事なお話があります。
最近この学校の近くに不審者が出没しています。
気をつけてください。

中年の男性です。
決まって天気のいい日に現れ、
このあたりをのったりのったりと歩いています。
そして時折足を止めると、
空を見上げたり、道端の草花を眺めたりしているのです。
しばらくぼーっとした後、またのったりのったりと歩いていきます。
様子がおかしいので先生、声をかけました。どこかお出かけですかと。
すると、特に行き先も決めず、はっきりとした目的もなく、
ただぶらぶらしているだけだと答えるではありませんか。
きわめて無駄、無意味な行為です。
わざわざ身体を動かしているのに、生産性ゼロです。
健康のため?それならしっかりとした運動をすべきです。
効率が悪すぎます。
気分がよくなる?そんなものはまやかしです。
気分なんかよりデータで、物事は考えるべきです。

なんの生産性もなく、なんの役にも立たず、
ただ時間を浪費している不審者を見て、先生は思いました。
生徒諸君。君たちは目的地をしっかり設定し、ビジョンを持ち、
まっすぐ進んでいってほしい。
脇目もふらず、自分のゴールに向かって一直線に行こう。
無駄を排除しよう。効率を上げていこう。他人を追い抜こう。
そうすればきっと成功をつかめます。
先生、信じてます。

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出演者情報:遠藤守哉

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川野康之 2023年4月9日「父さんの嘘」

父さんの嘘

    ストーリー 川野康之
       出演 遠藤守哉

父さんが病院にいて僕たちに会いたいと言っている。
その知らせは唐突にやってきた。
何年も会っていないので、病気だとは知らなかった。
とりあえずその日の仕事はぜんぶキャンセルして
いちばん早い飛行機に乗った。
東京に着いた時は夜だった。
タクシーに乗って病院に向かった。
病室に入ると、ベッドの側に姉がぽつんと座っていた。
父さんは眠っていた。
点滴やら電極やらいろんなものでつながれていた。
ベッドの横に置かれたモニターがピッピッと音を立てている。
僕は姉の隣に座った。
父さんと姉と僕は、この世に3人きりの家族である。

「わたし嘘ではないかと思った。」
「父さんは嘘つきだったもんな。」
「昔プロ野球の選手だったとか。」
「ハリウッドで映画俳優を目指したとか。」
「『ダイハード』にちょい役で出たとか。」
「僕も思ったよ。今度も嘘じゃないかって。」

父さんが目をあけた。
「二人とも来たのか。
すまないな、突然呼んで。
先生が家族に会うなら早いほうがいいと言うので
看護師さんに頼んで呼んでもらった。
最後にお前たちに言っておきたいことがある。
今まで嘘をついていてすまなかった。
俺は地球の人間ではない。
遠い宇宙の別の星で生まれた。
この星でたった一人、地球人のふりをして生きてきたのだ。
だがもう嘘をつくのは終わりにしたい。
すっきりした。
やっと自由になれる。」

それだけ言うと父さんは目を閉じた。
「何バカなこと言ってるの。」
「父さん、しっかりして。」
だがそれ以上語ろうとはしなかった。
そのまままた眠ってしまったようだった。
その夜、大変なことになった。
ピッピッの音が急に早くなったり遅くなったりし始めた。
看護師さんがドアを開けて飛び込んできた。
酸素マスクがかぶせられ、注射と点滴が打たれ、気がつくと何人もの人が父さんのベッドを取り囲んでいた。
僕と姉はなすすべもなく、ただ黙って不規則なピッピッの音を聞いていた。

父さんは死ななかった。
看護師さんの言い方を借りると「奇跡的に持ち直した」のだった。
三日後、僕と姉は先生に呼び出されて話を聞いた。
先生はパソコンの画像を見せた。
「これを見てください。
もう手術もできない状態でした。
ところが・・・信じられない話ですが、
きれいに修復されているんです。
あり得ないことです。
人間であれば。」

「父さんはほんとに宇宙人なのかな。」
「かもね。」
「姉さん、僕、あの夜思ったんだ。
もし父さんが死んだら僕たちはこの宇宙に二人だけになるのかなって。
この広い冷たい宇宙にぽつんっと取り残されるんだって。
そう思ったらなんだか急に恐ろしくなってきたのさ。」
「宇宙人であろうと、なかろうと、同じことよ。
生きるって孤独なことなのよ。」
僕たちは病院のロビーに並んで座っていた。
あの時もそうだった。
駅の待合室で、父さんはちょっと新聞を買ってくると言った。
ベンチには姉と僕が残された。
いつまで待っても父さんは戻ってこなかった。
「何がやっと自由になれる、よ。」
と姉が言った。



出演者情報:遠藤守哉(フリー)

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田中真輝 2023年3月19日「桜会議」

「桜会議」 

ストーリー 田中真輝
   出演 遠藤守哉

新町スカイハイツ管理組合 第43回通常総会議事録より一部抜粋。

司会:
それでは本会最後の議案に移らせて頂きます。
議案は、敷地内自転車置き場横の桜の木についてになります。
現在、この桜の木について、住人から伐採してほしいとの要望が出ており、
本会議にてその決議を取らせて頂きたいと考えております。

301号室住人発言(以下301):
該当する樹木(桜)については、マンション住民だけではなく、
多くの地域住民から古くから愛されており、
一部住民からのクレームで伐採してしまうというのは、いかがなものかと思う。

205号室住人発言(以下205):
一部住人とはおっしゃるが、そうした小さな声を圧殺するのが、
このマンションの自治のいつもの在り方であり、
わたしとしては今の発言は全く容認することができない。

301:
別に圧殺しようとしているわけではない。
わたしは一個人としての思いを述べたまでである。
というか、伐採の要望を入れたのはあなたなのではないか。

205:
わたしではない。わたしではないが、要望については賛同する。
地面から張り出した根が自転車の通行の妨げになっているし、
落ち葉がベランダに大量に落ちるのにも辟易している。
何よりも毎春、花が咲くと多くの人が木の下に集まって
朝から晩まで大騒ぎするのが迷惑極まりない。
年をとると大声や騒音が一番堪える。
それでなくても最近は体調を崩しがちで毎日高い漢方を飲んでいる。

301:
花見はみんな楽しみにしている。やはり要望を入れたのはあなたではないのか。
そして漢方の話はいま関係ない。

204号室住人発言(以下204):
一言申し上げておきたいのだが、
205は前々から些細なことを取り上げて大きな問題にするので困る。
桜の件についてもそうだ。
以前は電気料金のメーターが自分のところだけ速く回っているという議案を提出され、
たいへん長引いて大変だった。
みんな忙しいところわざわざ集まっているのに、
どうでもいい議案で時間を取られるのはどうかと思う。

708号室住人発言(以下708):
ちょっとよろしいでしょうか。

205:
メーターの件は、目下弁護士に相談中である。そのうち目にものみせてくれる。

204:
あと、毎朝謎のお経を唱えるのもやめてほしい。あれこそ公共の迷惑である。

205:
この(不適切な表現なので割愛)

204:
なんだと(不適切な表現なので割愛)

301:
話を戻すが、桜の木はこのマンションの住人にとって心のよりどころになっている。
なにかと疎遠になりがちな昨今において、
みんなで集まって花見ができる機会があるのはとてもいいことだと思う。

参加者一同:拍手

708:
そのことで少し申し上げたいのだが。

205:
そんな優等生のような発言をしているが、わたしはこの人(301号室住人のこと)の
ほんとうの姿を知っている。

司会:
議案に関係のない発言は控えてください。

301:
そうだそうだ。

204:
それはわたしも聞きたい。

205:
この人(301号室住人のこと)が前にこのマンションの管理組合理事長を務めていたときの、大規模修繕工事のことだ。

301:
いま関係ない。

205:
あのとき工事を依頼した業者が実は、

301:
わーわーわー(など意味不明な発言)

司会:
最後の議案、桜の木について話を戻したい。

708:
その件についてなのだが。

204:
誰か何か言っている気がする。

301:
たぶんこの人が何か言おうとしている。

司会:
708、意見があるなら大きな声でお願いします。

708:
わたしは43年前にこのマンションが建設されたときからここに住んでいるが、
あの桜が植わっている場所は、このマンションの敷地内ではなく、
市の管理地になっている。よって、市の所有物だということができる。

参加者一同:静まり返る

司会:
続けてください。

708:
今までも何度かいまと同じような議論になったことがあるが、
結局は市の所有物だから伐採できないという結論に至っている。
今回も結論としてはそうなるのではないかと考える。

参加者一同:そういうことは早く言え。

司会:
以上をもって本日の管理組合定例会を終了とする。
7時間にわたる議論、誠にありがとうございました。やれやれ。



出演者情報:遠藤守哉

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佐藤義浩 2023年3月12日「桜の記憶」

桜の記憶

   ストーリー 佐藤義浩
      出演 遠藤守哉

桜には「死」のイメージがある。
散り際の潔さから来てるのだと思うが、
パッと咲いてパッと散る、あの短さが
人生を連想させるのかもしれない。

そのせいか、
時代劇だと切腹する武士の後ろに花びらが舞っていたり、
特攻する若い兵士が「同期のサクラ」なんて歌ってたりする。

美しさと儚さが好きな日本人は多いようで、
雪月花の「花」は桜のことだと思う。
雪も月も花も一瞬で風景を変える力があって、
一瞬でそれが消えてしまうものでもある。
そういう、現実であって現実じゃないようなものが
心に響くんだろうなと思ったりする。

3年前の春、昔の同級生が死んだ。
そんなに頻繁に会うような間柄ではなかったが、
年に数回、集まって飲むような仲間が何人かいて、
その中の一人だった。

彼は一人暮らしで、もうすぐ定年を迎えるタイミングで、
会社を辞め、海のそばに引っ越していた。
明るくていいやつだが、一人で突っ走ってしまうところもある
典型的なB型のひとりっ子で、
こっから先は好きなカメラで写真撮って生きてく、
なんて言っていた。

結婚していたがとうの昔に別れていて、
気楽なもんだという顔をしていたが、
その実、すごく寂しがり屋なのもみんな知っていた。

そんな彼が死んだのを、見つけたのは例の飲み仲間だった。
何度連絡を取ろうとしても返事がないので、
これはおかしいと思った一人がマンションまで行ったのだ。
その時の様子はリアルタイムで連絡が入っていて、
返事がない、これはおかしい、管理人を呼ぶ。
郵便物が溜まっている。やっぱりおかしい。警察を呼ぶ。
そして部屋には彼が死んでいた。
その経過を仲間たちは実況中継のように聞いていた。

人の人生が長いのか短いのかわからないけど、
散り際は誰にとってもきっと一瞬で、
その前にあった楽しさも寂しさも、
消えてしまえばあっという間に過去になる。
結局彼のことは彼にしかわからないし、
彼の人生がいいものであったと信じたいと思う。

その後、気の利く仲間の一人が彼の元妻を探し出して
連絡を取ることができた。
そしてまだ籍が入ったままだったということを聞いた。

桜が咲く季節になると、この顛末を思い出す。
景色が桜色に染まると、現実なような現実じゃないような
そんな世界に引き込まれそうになる。
そして桜が散った後はまた急に風景が変わり、
また一年、記憶には蓋がされることになる。



出演者情報:遠藤守哉(フリー)

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福里真一 2023年1月8日「テーマがない」

テーマがない 

ストーリー 福里真一
   出演 遠藤守哉

この東京コピーライターズストリートは、
毎月、決められたテーマのもとで、書かれている。

たとえば、昨年1月のテーマは、
「はじまり」。

何人かのコピーライターが、
それぞれに「はじまり」というテーマを解釈して、
それぞれの文章を書いた。

私もまた、そのテーマのもとに、
たしか、人類のはじまりが、
地球にとっての災厄のはじまりだった、
というような内容の文章を書いた気がする。

ところが、
今年の1月に関しては、テーマなし、
という連絡がきた。

テーマがない。

よーし、自由だ!思うぞんぶん、書きたいこと書いてやるぞ!
という感じには、
私の場合はならなかった。

テーマがないと、
何について書けばいいのかわからない。

そこで当然頭に浮かぶのは、
自分でテーマを設定する、という考えだ。

たとえば、とりあえず1月だから、
お正月
というテーマで書いてみよう。

実際、お正月には、
いくつかの、よかったり悪かったりする思い出がないわけでもないので、
少し書きはじめてもみたのだ。

あるお正月に、
数年前に亡くなった祖父から突然年賀状が届いた話とか、
けっこうそれなりにおもしろく書けそうでもあったのだ。

しかし、どうなんだろう。

せっかくいつもの月とは違う、
テーマなし、
というときに、
自分でテーマを決めて書く、というのは、
なんというか、
テーマなし、
ということから逃げていることにはならないのだろうか。

テーマなし、というテーマに、
ちゃんとこたえていることにならないのではないだろうか。

そこで、
テーマもなく、ただやみくもに書いてみる、
ということも、
少しだけやりかけた。

サッカーの試合は長すぎる。
45分ハーフではなく、30分ハーフぐらいにした方が、
プレイする側も見る側も、
緊張感をもって試合に臨める気がする。

それと、オフサイドとかいうルールは、
判定も難しそうなので、
やめてしまった方がいいと思う。

そう、それを書いているときが、
ちょうどサッカーワールドカップが盛り上がっているときだったので、
心に浮かんだことをそのまま書いたら、
ただのサッカーの感想になってしまった。

テーマもない、感想の羅列を、
このコピーライターズストリートに書くのも、
どこか違う気がする。

…そんなプロセスを経て、
いま、こうして、
テーマがない、ということについて書くという、
ひねっているようでいて、
一番ベタともいえる地点に立って、
書いているわけだ。

私は、広告をつくることを仕事にしている。
広告には必ずテーマがある。
商品のおいしさを伝えたい、とか、
企業の先進性を伝えたい、とか、
はっきりしたテーマがあり、
それに沿って企画をすればいい。

あまりにもその仕事に慣れてしまったが故に、
どうやらいつしか、
テーマがないと、
たじろいでしまうような体質に、
なってしまっていたらしい…。

まあ、とにかく、2023年がはじまった。

テーマがない、ということに苦手意識があるわりには、
「人生のテーマ」とか、
「今年のテーマ」とかを設定したことは、
いままでほとんど、なかった気がする。

生きることにおいては、
テーマもなく、ただズルズルと生きてこれたのは、
なぜなのだろうか。

むしろ、人生にテーマを持つことへの、
嫌悪感すらある気がする。

しかし、
このコピーライターズストリートで、
新年早々、
テーマについて考えたのも、
何かの縁だ。

今年ははじめて、
「今年のテーマ」というものを
自分でしっかり定めて、生きてみようか。

いや、やっぱりやめておこう。(おわり)



出演者情報:遠藤守哉(フリー)

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川野康之 2022年11月13日「夕焼け病院」

夕焼け病院

    ストーリー 川野康之
       出演 遠藤守哉

30年ぐらい前のことである。
僕は急性盲腸炎になった。
入院したのは工場街の中にある古い病院だった。
大人の手術台があいてなくて、子供用の手術台に乗って、麻酔を注射された。
麻酔はなかなか効かなかった。
このままメスが入ったらいやだなと思った。
もう1本注射された。
覚えていたのはそこまでだ。
気がついた時、見知らぬじいさんたちが僕をのぞき込んでいた。
目が合うと「あ、起きた」と言った。
そこは病室だった。
麻酔が効きすぎたらしい。
視界に妻と看護婦さんが現れた。
手術は無事に終わったこと、切った盲腸を見せてもらったこと、
臭かったこと、麻酔が切れたら痛むということなどを僕は聞いた。
それはつまり生きているということだ。
「よかった、よかった」
じいさんたちが笑った。
彼らは僕の相部屋の人たちだった。

言われた通り、麻酔が切れた時は痛かった。
生まれて初めて座薬を入れられた。
尿瓶がうまく使えなくて夜中に泣きながらナースコールした時は、
尿道に管を入れられた。
それでも僕は生きていた。
一日ごとに僕は回復して行った。
待望のガスも出た。
まだお腹に力を入れると痛いが、その痛みは日に日に軽くなって行く。
病の根源を切り取った以上、後は良くなる一方である。
妻に持ってきてもらった宮本武蔵を読む余裕も出てきた。
隣のベッドの重田さんが病室の外に運ばれていった。
数時間後に重田さんは戻ってきた。
ぐったりとして顔色が青ざめていた。
まるで血が通っていないみたいだった。
こんな時はそっとしておくのが無言のルールだった。
この病室はガンの患者のための部屋だった。
なぜ盲腸の僕がここにいるのか。他に部屋があいてなかったからである。
手術台と同じだ。
窓際のベッドの島袋さんは、いつも僕らに背を向けて窓の外を見ていた。
島袋さんは誰ともあまり話をしない。誰かがお見舞いに来ることもなかった。
小針さんは最年長で、頭に髪の毛が一本もない。
冗談が好きでいつも人を笑わせていた。
奥さんが来た時だけなぜか無口になった。
重田さんのあの治療は一日おきに行われた。
戻ってくるたび顔色はさらに青くなり、衰弱していくようだった。
それぞれが自分の病気と静かにたたかっていた。
自分一人だけが毎日良くなっていく。それが申しわけないような気がした。
ある日の夕方、窓から見える工場の屋根に赤い日が反射していた。
「屋上行こうぜ」
小針さんが言った。
僕は喜んでついていくことにした。
珍しく島袋さんが一緒に来た。
エレベーターに乗って屋上に上がった。
並んだ洗濯物の白いシーツが夕日を受けてピンクに染まっていた。
西の空の雲の中に日が落ちようとしていた。
「やあ、夕日だ、夕日だ」
と小針さんがうれしそうに言った。
「夕日だ、夕日だ」
と僕もうれしそうに言った。
「久米島の夕日はもっときれいなんだがな」
と島袋さんがつぶやいた。
島袋さんの故郷は久米島であることを知った。
川崎に来て工場で働き始めてからもう何年も帰ってないそうだ。
故郷を遠く離れて病気になった島袋さんの気持ちを思った。
久米島の夕日、見たいだろうなあ。
「見ればいいよ」
と小針さんが言った。
「見ればいいよ。元気になって久米島に帰ってさ」
西の空の雲が次第に赤く染まりだした。
一秒ごとに色が深くなり、空が赤く燃え始めた。
僕らは黙って見とれていた。
世界の片隅の工場街のこんな古いきたない病院の屋上で
パジャマ姿の3人が夕焼けを見ていた。
生きているんだ。
そう叫びたい気分だった。
その時、後ろでドアが開く音がした。
重田さんが出てきた。看護婦さんに支えられて。
よろよろとした足取りでゆっくりと歩く。
たちどまって、空を眺めた。
重田さんの青い顔が夕焼けで赤く染まった。
血が駆け巡っているみたいだった。



出演者情報:遠藤守哉(フリー)

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