いわたじゅんぺい 2024年7月28日「かんな 2024夏」

かんな 2024夏

ストーリー いわたじゅんぺい
       出演 齋藤陽介

かんなは100円ショップが好きだ。
100円ショップだと、
3回くらいお願いすると
1回くらい買ってもらえるから。
買うのは大体メモ帳かシール。
時々マスキングテープ。
どこにでもいる8歳の女子である。

そんな物欲強めの性格なので、
タダでプレゼントがもらえるクリスマスを
何よりも楽しみにしている。
楽しみすぎて、
サンタクロースに手紙を書いていたのだが、
その書き出しがなかなかよかった。

サンタさんへ
サンタさんにあげる手紙なのに
うら紙でごめんなさい。

チラシの裏紙に
書いていることへの謝罪から
文章をはじめていた。
裏紙であることに
気分を害して、
プレゼントをくれなくなることを
恐れたのだろう。

正月にはカルタを
自分でつくっていた。
「あ」から順に文章を書き、
絵を描いて色を塗っていたのだが、
その言葉も独特でなかなかよい。


あしをつけてもらった
とべないちょう


いまにもこわれそうないす


うらやましそうなうさぎ


えらくないのに
えらそうな口をするねこ


おばけやしきで
人形をこわがる大人


くだらない
えんぴつのミニチュア

という6枚をつくったところで
急に飽きてしまって
カルタは未完成なのだが、
父はなんとか続きを書いてもらいたくて
いろいろ交換条件を提示しながら
交渉したものの、
結局この6枚で打ち切りになった。

正月といえば、
冬休みの宿題の
書き初めをやっていたとき
「じょうずに書けたんだけど
名前しっぱいしちゃった」
と言うので見てみたら、
名前を

岩田がんな

と書いていた。
自分の名前を間違える人を
野比のび犬
以外で初めて見た。

そんなかんなであるが、
本が好きで、
イケメン四兄弟の話とか
霊感のある探偵の話とか
けっこう小さな字の本を
すらすら読んでいる。

この前、
テレビで見た
麻布台ヒルズの素敵な本屋に
行きたいと言うので
行ってみた。

電車での帰り道、
何が一番記憶に残っているか、
と聞いてみたら、
ファミマで買ったメロンパンを
外で立ち食いしたことと、
お出汁屋さんの試飲で
舌を火傷したこと、
と言っていた。

国語は好きなようで、
ことわざの本もよく読んでいる。

「七ころび八おきってあるでしょ?
でもさあ、七回ころんだら七回おきるんじゃないの?」
と妻に聞いていたが、
七回転んだら八回目も転ぶだろうから
何回転んでも起きるように、ってこと、
という妻のいい加減な説明に
「う、うん・・」
と納得いかないような返事をしていた。

あと
「ことわざのもんだい出して」
と言われた時、
「じゃあ、石の上に三年」
と問題を出したら
「牛のいえにモー三年?」
と聞いていた。
ことわざは好きだが
得意ではないのかもしれない。

一方で算数は好きではなさそうなのだけど、
最近、そろばんをはじめた。
そろばんは楽しそうにやっていて、
いま5級に挑戦している。

土曜日のそろばん教室に行くときは
頼まれていないのに僕も勝手についていく。

歩きながらいろいろ話してくれる。

「好きな給食何?」
「ニラ玉」
「ニラ玉?そうなんだ」
「ぎゅうにゅうはいつものみきれないんだ」
とか

「きのうPKGたべたの。しってる?PKG
おしょうゆかけて、まぜまぜして、
すごーくおいしかった」
「PKG?TKGじゃない?卵かけご飯でしょ」
「そうだそうだTKGだ」
とか

「将来何になりたいの?」
「かんりえいようし」
「なんで?」
「バイキングのメニューをかんがえるしごとがしたいから」
とか

「いえに男の人がはいってきて、
ウィーヨーウィーヨーってならすのなんだっけ?」
「消防点検のこと?」
「そうそう」
とか。

雨が降りそうだった日、
傘を持ってお迎えに行った。
その帰り道、
スーパーでおでん用の餅巾着を買った。
かんなは餅巾着が好きなのだ。
店を出ると雨が降り出していて、
「かさもってきてよかったね」
と言いながら帰った。
雷がすごかった。

その晩、おでんの餅巾着を食べながら
「イソギンチャクおいしいね」
とかんなは言った。

この前、テレビで
はじめてのおつかいを見ていたら、
「あれから15年」みたいな
昔の映像を振り返るコーナーで、
当時、長男と録画してよく見ていた
スキー場におつかいに行く姉弟が出てきた。
「これお兄ちゃんとよく見たやつだよ」
と言っていたら、
そのお姉ちゃんの名前がかんなだった。
うちのかんなはこの頃
影も形もないわけだが、
なんだか縁を感じた。

動物番組を見ながら
「インパラってだいたいたべられるよね」
と言っていたり、

大相撲を見ながら、
「おすもう、いま東と西どっちがかってるの?」
と言っていたり。
相撲は東西対抗戦だと思っているようだ。

ニュースを見て
「せんそうでは人ころしてもつかまらないの?」
とも言っていた。

いま一番好きな食べ物は
ネギトロ丼のネギ抜き。
夢は旅行代理店のパンフレットで見た
モルディブの水上コテージに行くこと。

モルディブには行けないけれど、
夏休みは海に行く約束をしている。
6メートル泳げるようになったことを
誇りに思っているようだ。



出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属





かんな 2023冬:https://www.01-radio.com/tcs/archives/32901
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8月には齋藤陽介くんの芝居(2024年8月号の収録記)

8月月15日、齋藤陽介くんの芝居がはじまります。
劇団ホチキス「スクールバス」
詳細はこちらから。
https://hotchkiss.jp/bus/

ところで、写真の斎藤くんが持っているのは蕗の佃煮です。
この日は築地の佃煮を用意しておりまして、
暑中見舞いとしてナレーターに差し上げました。
佃煮は2種類、蕗と昆布があるのですが、その表示がなく
くじ運が悪い人は昆布が欲しいのに蕗を引いてしまったりします。
それも面白いと思ったのですが、
斎藤くんは「蕗、蕗」と言いながら選んだら、ちゃんと蕗を引きました。
斎藤くんはナレーションがとてもうまい人ですが、
もしかしたら強運な人でもあるのか…(なかやま)

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いわたじゅんぺい 2023年12月10日「かんな 2023年冬」

かんな2023 冬

ストーリー いわたじゅんぺい
       出演 齋藤陽介

「なぞなぞで、
 上と下にしか行けないのりものなーんだ?
 ってもんだいがあって
 こたえはエレベーターだったの。
 わたしはシーソーだと思ったのに」
と納得のいかない顔でかんなは言った。
シーソーの方がいい答えだと
父は思う。

かんなは8歳だ。
なぞなぞが好きだ。
気になった謎も放置しない。

王様のブランチの
ほおずき市のロケを見ていた時
「ほおずきってたべられるの?」
と聞かれた。
「食べられないんじゃない?」
と答えると
「ただそだてるだけ?」
「・・ただ育てるだけ」
父はどう答えていいかわからず
とりあえず同意しておいた。

最近のトピックとしては
英語の教室に通い出した。

自転車で迎えに行った帰り道、
「今日は何を習ったの?」
と聞くと、

サンデー
マンデー
チュースデー
ウェンズデー
ファーズデー
フライデー
サタデー

と1週間をわりときれいな
発音で読み上げた。
が、
なんか一か所気になったので
もう一度聞いてみた。

サンデー
マンデー
チュースデー
ウェンズデー
ファーズデー
フライデー
サタデー

木曜日が
ファーズデー
になっている。

きっと
生まれて初めて聞いた
thの発音に
「???」
となり、
Thursdayを
聞こえたままに読んだら
フアーズデー
になったのだろう。

学校の英語の先生に習うと
サーズデイ
になってしまいそうだが
ファーズデー
の方がよっぽど
ネイティブイングリッシュな気がした。

先生にも
「GOOD!」
と言われたらしい。

あと、
生まれて初めて
インフルエンザになった。

コロナにもかからずにきたので、
伝染病が初めてだ。

我が家では
人にうつる病気にかかると
閉じ込められる隔離部屋がある。
半分物置なので、
布団を敷くのが精一杯な広さである。

ちょっと前までは
一人で寝るなんて
まったくできなかったのだが、
大人しく隔離部屋で
4日ほど寝起きしていた。

2日目からは熱も下がって
ほぼほぼ元気だったのだが、
絵を描いたり、
迷路を書いたり、
一人暮らしを満喫していたようだ。

でも居間の方で笑い声が起きると
気になるようで、
歯磨きなんかを持って行った時に
「さっきなんでわらってたの?」
と、すねたように聞いていた。

お絵描きも好きだが
工作も好きで、
家に帰ると
つくったものが
何かしら増えている。

ストローと爪楊枝と厚紙でつくった
クルマみたいなものだったり、
紙を切ってつくった
何に使うかわからない
細かなパーツだったり。
父からしたら
ゴミにしか見えないので
夜、かんなが寝た後に
勝手に捨てると
後々怒られたりする。

レゴも好きで
建物みたいなものを作っていたので
何を作っているのかと聞いたら
「サスケだよ」
と教えてくれた。
なかなかいい着眼点だと思った。

「インタビューごっこしよう」
と言われて、
最初は
「すきなたべものはなんですか?」
とか
「すきないろはなんですか?」
とか
オーソドックスな質問を受けていたのだが、
だんだん聞くことがなくなってきたのか、
「すきなかたちはなんですか?」
「すきなゆうぐ(遊具)はなんですか?」
「すきなてんきはなんですか?」
と後半はなかなかシュールな
インタビューになっていた。

質問をするのも好きだが、
答えるのも好きで、
「なんでもこたえるからきいてみて」
と聞かれたものを
瞬時に答える遊びを兄としていた。

中一になる兄は
とにかく負けず嫌いなので
なんとか答えられない
質問を出そうとするのだが、
それでもかんなは
瞬時に何かしらを答える。

「ルイビトンは何?」
「おべんとう!」
「エルメスは?」
「ヘルメット!」
「ロレックスは?」
「プロレス!」
「ウランバートルは?」
「しきしゃ(指揮者)でしょ」
という感じで
次々と突拍子もない答えを繰り出し、
兄は笑いすぎて
質問できなくなっていた。

この前、無印良品で
ソファーに座ったときは
「わあふかふか。
ゆめのなかにおっこちちゃう」
と言っていた。

「びょういんにいったらおいしゃさんが
おなかもしもしするでしょ」
と聴診器のことをお腹もしもしと言っていたり、

「どーメダルの『ど』って土?」
と聞いてきたり、

言葉を生業としている父としては
勉強になることばかりである。

僕は父の責務として
娘の独特な発想や発言を
メモしているのだが、
昔に比べると
その数はだいぶ減った。
それが成長なんだな
と実感する。

トランプが
逮捕されたニュースを見た時は、

「トランプは捕まったのに
なんでプーチンは捕まらないの?
ウクライナかわいそうじゃないかー」

と言っていた。
ゼレンスキーさんに
教えてあげたい。

明日は家族で
ディズニーランドに行く。
4年前に行った時は
プーさんのハニーハントでさえ
怖くて泣いていた。

そんな話をすると
「もうホーンテッドマンションでも
なかないよ」
と言って、余裕な顔で
♪パーフェクトスティ〜ック
とディズニーとは全く関係のない
CMソングを歌い出した。

子供の成長は
やっぱり
どこか切ない。
.


出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属





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田中真輝 2023年9月24日「モヤモヤキッチン」

「モヤモヤキッチン」 

ストーリー 田中真輝
   出演 平間美貴

心にモヤモヤがたまってくると、
わたしはモヤモヤキッチンにいく。

その店は、わたしのモヤモヤを素敵な料理にしてくれるのだ。
さて今日のメニューは何だろう。

前菜は、ピリッと皮肉を効かせた、
部長のひとことテリーヌ。

そう、部長はいつも一言多い。
今日の提案よかったよー。
いつも、この調子で頼むよ。

そうだ、その一言が、わたしをモヤモヤさせて
いたのだ。こっちは、いつも全力だっての。
むしゃむしゃむしゃ。

続いては、元カレのインスタスープ。
匂わせアングルが香り立つポタージュ仕立て。

別に未練なんてないけれど、
別れてまだ間もないのに、
もうそんな笑顔できるんだ。ふーん。
ごくごくごく。

メインディッシュは、
友達が結婚したって噂、又聞きソテー。
バラ色のソースとともに。

親友だと思ってたのに、なんで直接連絡
くれなかったんだろう。素直におめでとうって
言いたかったのに、なんだか気がそがれてしまう。
そんな風に思ってしまう自分ってどうなの。
むしゃむしゃむしゃ。
モヤモヤを料理にして、どんどん平らげる。
辛いも、苦いも、酸っぱいも、ぜんぶ人生の味付けにして。
ひとつひとつ丁寧に味わえば、
ひとつひとつモヤモヤが溶けていく。

デザートは、甘い甘い片思いに、
自分を憐れむしょっぱい涙をひとしずく。

そうだ、何も始めなければ、何も壊れない、
そんな甘さに浸ってちゃだめなんだ。
ぱくぱくぱく。

言葉にならないモヤモヤを料理にして
味わい尽くせば、モヤモヤのモヤがすっきり
晴れていく。

ぜんぶおいしくいただきました。
ごちそうさまでした。
店を出たわたしは、ちょっと大きな歩幅で歩いていく。
.


出演者情報:平間美貴 03-5456-3388 ヘリンボーン所属

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櫻井暸 2023年9月10日「焼きうどん」

「やきうどん」

ストーリー 櫻井瞭
出演 齋藤陽介

キッチン込みで、六畳一間。
東京の外れ、せまいせまい、縦長の部屋。

ソファベッドで横になるボク。
その頭のすぐそばで、ピチパチと鳴り始める音、
ただよう醤油の香り。

やきうどん。
付き合いたての頃、彼女がよく作ってくれた。

なぜ、やきうどん、なのか?
やきそば、でも、やきめし、でもなく、
どうして、やきうどん、なのか?

一番かんたんで
一番おなかいっぱいになるから
と、彼女は言っていた。

当時、2人とも大学生だったので、
その言葉には妙な納得感があった。

ただ本当は、
それしか作れる料理がなかったらしい。

でも、そのやきうどんが、
妙にモチモチで、妙に味付けバツグンで、
妙においしかった。

当時のボクと彼女は、
遠距離恋愛だった。

彼女は秋田の大学に通っていて、
秋田でひとり暮らしをしていた。

だから会えるのは、3ヶ月に1回ほど。
遠路はるばる、東京まで来てくれていた。

なのに、当時のボクは、アホだった。

相手の気持ちなんか考えず、彼女が来てくれている日も、
夜の11時から、居酒屋の夜勤のバイトを入れていた。

大学生は忙しいから。
なんて、それっぽい本質めいたことを言い訳にして。

そんな日に、彼女はよく、やきうどんを作ってくれた。
これからバイトだからお夜食に、と。

それが本当においしくて、
本当におなかいっぱいになった。

あれから9年。
彼女は、妻になった。

部屋も少しだけ広くなった。
1Kから、1LDKになった。

キッチンにスペースができて、つい料理が楽しくなってしまい、
今は、2週間に1回、京都から野菜が届くサブスクに登録している。

それから妻も、ズッキーニを豚肉で巻いたりするようになったし、
ボクも、これには岩塩が合うね〜、と平気で言うようになった。

ただ、二人の関係が、
素朴で、自然で、仲良しであることは変わらない。

お風呂に入る前は、ふたりで腹踊りをするし、
お風呂から上がってからも、また腹踊りをする。

そんな感じで、
しっかり新婚をやっている。

これから僕たちは、
いっしょに生きていく。

同じお墓をめざして、
ゆっくり生きていく。

今、妻があの頃のように、
やきうどんを作ったら
どんな味になるんだろう。

当時の幼さや、切なさや、儚さに満ちた
やきうどんもおいしかったけれど、

これから夫婦として生きていく、
清々しさでいっぱいのやきうどんも、
ボクは目一杯ほおばりたい。
.


出演者情報:齋藤陽介 ヘリンボーン所属

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齋藤陽介くんが読んだ原稿は…(2023年9月の収録記)

写真は齋藤陽介くんです、
岩田純平くんの「かんな」シリーズを長いこと読んでもらっています。
今回は本当に久しぶりに「かんな」以外の原稿でした。
原稿の作者は今年TCCの新人賞を取った櫻井暸くんですが、
その原稿が何と言いますか、全編これ新婚の惚気というやつでした。
幸せそうだなあ、櫻井くん。
斎藤くんはその原稿をさらっといい感じで読んでくれました。
本当にうまい人です、この人は。

ところで、齋藤陽介くんが所属する劇団「ホッチキス」が10月に芝居をやるようです。
新国立劇場の小劇場で10月4日から9日まで。
https://hotchkiss.jp/galapagos/?_fsi=oY0lAL5J&_fsi=oY0lAL5J
斎藤くんももちろん出演します。
タイトルは「明後日のガラパゴス」
さて、どんな芝居なんだろう…..(なかやま)

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