いわたじゅんぺい 2020年8月23日「かんな 2020夏」

かんな2020夏

     ストーリー いわたじゅんぺい
       出演 齋藤陽介

かんなは5歳になった。
夏の生まれなので、
夏は好きなのだろう。
朝から機嫌よく
「どはどりんくのど〜」
と歌っている。

好きな食べ物は
桃のグミと鮭の皮。
特技は白目。
アイドルだったら
100点の答えである。

そんな娘に、この前、
「好きなものってなに?」
と聞いたら、

「ねこちゃんと
 わんちゃんと
 あと、」

と数秒考える間が空いて、

「がりがりくん」

と教えてくれた。
こういうのは心理テストだと
3つ目が本音と言うけど、
わかりやすくその通りだと思われる。
ガリガリ君さすがです。
ねこちゃんとわんちゃんは
かわいい私を演出する小道具でしかない。
すまんな、ねこちゃんとわんちゃん。

セルフプロデュースといえば、
この前の七夕のとき、
家の短冊には

かわいいきらきらのくつがほしい

とか

かわいいわんぴーすがほしい

とか

かわいいうさぎさんのぬいぐるみがほしい

などと物欲の権化のような願い事を
短冊がある限り量産していたのだが、
保育園の短冊には、

うさぎさんをやさしくよしよしできますように

と書いていた。

そんなスイートな願望、
家では聞いたことない。
セルフプロデュースがうまい。
というか、外面がいい。
女子とはおそろしい生き物である。

物欲もすごいが、
お金への執着もすごい。

正月にお年玉をあげたら、
次の日も朝から
「またおかねもらいたい」
と、もはやお年玉ではなくて、
ただ金が欲しいと言ってくる。
欲望がピュアすぎる。

最近では必要のない床掃除など、
押し売りのようなお手伝いをして
「おかねとかないの?」
とポケットに手を突っ込んでくる始末。
手口がタチの悪いヤクザ、
あるいは一人で完結する美人局である。

良く言えば純粋な、
普通に言えば
ドライな性格である。

この前
保育園に迎えに行った時も、
遠くから
「かんなちゃんばいばーい」
という声が聞こえたので
「お友達が手を振ってるよ。あれは誰?」
と聞くと
「あれはこうとくんのようだよ」
と冷めた感じで教えてくれた。
「〜のようだよ」なんて
大人びた言い方どこで覚えるのだろう。

そんなこまっしゃくれた娘だが、
学習に関しては
まったくもってやる気がない。

この前は看板を見ながら
「これは えいごだから よめないなあ」
と言っていたが、
平仮名も読めない。

とはいえ
読めないなりに
少しずつ覚えてはいて、

「『か』のつくものは何があるかな?」

と聞いたら、
一生懸命考えながら、
答えてくれたのだが、

「からす」
「かめ」
「か、か、か・・」

「からみ!」

と3つ目が「からみ」だった。
もうちょっとポピュラーな
「か」があるんじゃないだろうかと思ったが、
本人は満足そうだったので
ほめておいた。

買い物ごっこをした時は、
店員役の娘が

「おかいけいは れしーとでよろしいですか?」

と聞いてきた。
惜しい。
お会計はレシートではなく、カードだ。
でも惜しいので訂正はしない。

ちなみに買い物ごっこの時に娘が

「おみせのなまえは かいものまーけっとにしよう!」

と言っていた。
買い物マーケット。
なかなかセンスのいいネーミングだ。
父は感心した。
大人になるとなかなか思いつかない視点である。

ままごと的なことも好きな娘だが、
最近は工作がお気に入りだ。

保育園で
トイレットペーパーの芯を
タテに半分に切ってつなげて、
ボールを転がす装置をつくったのが
楽しかったらしく、
それの大きなものを
つくりたいと言い出した。
と言っても、
トイレットペーパーの芯のストックが
家にあるわけもない。

ないものはないと言っても
聞く耳を持たない娘は、
ひとしきりごねた挙句、
「ぱぱ といれで うんちしてきなさい!」
と言い出して
父をトイレに連れていき、
監禁した。

ドアの外で、
「たくさん といれっとぺーぱー つかってね!」
と言っていたが、
父が娘の期待に応えることはなかった。
こうやって父の信頼は失われていく。

その後
トイレットペーパーの芯は
集められ続け、
現在25本たまっているが、
もう当初のような熱はなく、
洗面所の片隅に放置されている。

一時は
折り紙の3つの角を1点で止めてつくる
サンダルづくりに夢中になっていた。

大きめの折り紙でつくれば
娘の足なら履けるので、
それを履いて見せにきた。

かんたんなのに、
なかなかよくできていて、
どこかの高級ブランドが
牛革でつくれば
それなりの値で売れそうである。

かわいいね、とほめたら
気を良くしたのか、
家にある折り紙を全部
サンダルにしていた。
娘はほめると図に乗る。

あと、これは
工作ではないのだが、
鼻水が出るからと
鼻に詰めていたティッシュを取り出したものを、
「たけのこのさとだよ」
と見せてくれた。

あとは
プリンセスが好きで、
絵を見せながら
解説してくれる。
僕は全く詳しくないので、
ほーほー、と
感心しながら聞いているのだが、
その中におやゆび姫がいて、
娘もおやゆび姫は
知らなかったらしく、

「おやゆびひめは
 おやゆびをたべるの?」

と聞かれた。
娘は気づいていないかもしれないが、
昔話の主人公が
食べるものでネーミングされる
システムはない。
白雪姫は白雪を食べないし、
人魚姫は人魚を食べないし、
オーロラ姫はオーロラを食べない。
どうしてそういう発想に至ったのか。
謎である。

外での遊びだと、
最近は自転車の練習をしているのだが、
スタートの時の掛け声が

「いくわよー
 うーばー
 いーつ!」

自転車といえばウーバーイーツ。
そんな時代を彼女は生きている。

家に帰れば手を洗う。
保育園で手を洗う時に歌う
手洗いの歌を習って来たのだが、
歌うことに一生懸命で、
手洗いがおろそかになっていた。
大抵のことは
大人の思惑通りに運ばない。
大人の想像力の限界である。

手洗いついでに
トイレの話もしておくと、
娘はうんちの時、
便座の上で
手も足も開いて
壁に突っ張る。

わかりやすく言うと、
武士の「士」の字の体勢である。

そうしていないと便座に落ちて
しまうからだと言う。
多分落ちることはないと思うが
おもしろいのでそのままにしている。

と、まあ、いろいろあるが、
娘はすくすくと成長している。

いままで
「たまげに」としか言えなかった
「たまねぎ」を
「たまねぎ」と言いなおすように
なるくらいに成長してしまった。

成長するというのは、
さびしいものである。
永遠なんてないことを
父は娘の成長で知る。

でもまだホッチキスは
「ぽちきす」
と言う。
紙芝居は
「かみしがい」
紫は英語で
「ぺいぽー」

ぽちきす。
かみしがい。
ぺいぽー。

それはもう
永遠に誰にも直されずに
そのまま
大人になってほしいなあと
父は願っている。



出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属





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いわたじゅんぺい 2019年12月8日「かんな 2019冬」

かんな2019冬

     ストーリー いわたじゅんぺい
       出演 齋藤陽介

娘のかんなは4歳になった。

生まれた時は、
ほこりかな?
というくらいしか
生えてなかった髪も
肩甲骨が隠れるくらいまで伸びて、
もう完全な女子だ。

食事の時に
エプロンをつけてあげると、
両手で後ろの髪を
ふぁさっと外に出す。
ネックレスを止めた後に
髪を外に出すように。
教えてもないのに、
こんな仕草どこで覚えるのだろうか。

将来OLになったら、
無駄に長い会議の時なんかに、
無意識に髪を結んだりほどいたりして
男子の目線を集めたりするのだろう。

娘は自分なりに理解した言葉で
物事を伝えようとする。

たとえば、
ゆでたまごのことは
「おててでむいてたべるたまご」
と言う。
娘にとっての
ゆでたまごの独自性は、
ゆでていることでも、
そのつるんとした形状でもなくて、
カラを手で剥いて食べる、
という食べ方なのだ。
すでにつけられている
「ゆでたまご」というネーミングで
覚えてしまった大人には
なかなかない発想である。
娘は正しい。

アラジンのアニメを見ていた時、
実写版アラジンの広告を見て
「にんげんのあらじん」
と言っていた。
たしかに絵じゃなくて
人間のアラジンだ。
娘は正しい。

僕が夜遅く帰った翌朝。
「ぱぱきのうはなにしてたの」
と聞かれ、
「送別会だよ」
と答えると
「なにそれ?」
と言うので
「一緒にお仕事していた人が
いなくなっちゃうからご飯食べたりするの」
と教えてあげた。
娘はふーんという顔で
「ひとりで?」
と聞いてきた。
ひとりで。
たしかに僕は
「みんなでご飯を食べた」
とは言わなかった。
娘は正しい。

夜なかなか寝ないので、
「夜遅くまで起きてると
おばけにたべられるよ」
と教えていたら、
ある日、
「よるにさんぽするひとは
ころされてもいいひと」
と言いだした。
間違った価値観を与えてしまった。
娘は悪くない。

神社で
「おとなになるように」
とお願いしていたり。

「えーかいた」
と言うので
絵を描いたのかと思ったら
アルファベットの
Aを書いていたり。

魔法のステッキ的なものを
手に入れた時は、
ママに
「おこらなくなあれ」
と言って怒られたり。

はじめての飛行機で
安定飛行に入ったとき
「おりていいの?」
と言いだしたり。

寝言が
「パパヤダ、ママがいい!」
だったり。

「おうまさんになって」
というので馬になったら
ずっとブラッシングされていて、
「なにその遊び。乗らないの?」
と思ったり。

息子と娘と三人でバスに乗った時、
息子は一人でいちばん前の席に座ったので、
僕と娘は後ろの方の
二人がけの席に座ったのだが、
娘は兄がいなくなったと思い、
「おにいちゃんは?」
と言うので、
「前の方に座ってるよ」
と教えてあげたら、
「うんてんしてるの?」
と真顔で聞いてきた。
極端だなあ。
そこまで前の席じゃない。

夏の帰省ラッシュの頃、
渋滞しているクルマを見ながら、
「このクルマどこにいくんだとおもう?」
と問題を出してきた。
「どこかなあ。
おじいちゃんおばあちゃんの家かなあ」
と答えたら、
「ちがうよ!ちゅうしゃじょうだよ!」
と教えてくれた。
それはそうだ。
娘は正しい。

そんなこんなで、
娘はすくすく育っている。

同じくらい、
父親である僕も、
日々教えられている。

ちなみに
兄である息子も
ちゃんと育っていて、
もう8歳である。

「おねだん以上ニトリ」のことを
値札に書いてある値段以上のお金を
レジで請求されると勘違いして
「ニトリには行かない方がいい」
と言っていたり。

「英語を子供の頃にやっておくとずっと忘れない」
と教えてくれた祖父に
「でも認知症になったら忘れるんでしょ?」
と答えていたり。

8歳なりに
いろいろ考えながら
生きているようである。

さて、
ことしも気がつけば
もうクリスマス。

最近かんなは、
サンタの真似をして
「ほーっほっほっほ」
と言いながら
僕の足元にゴミを置いていく。

5度目の
サンタクロースは
ちゃんとプレゼントを持って
来てくれるのだろうか。



出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属





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いわたじゅんぺい 2019年6月9日「かんな 2019夏」

かんな 2019夏

     ストーリー いわたじゅんぺい
       出演 齋藤陽介

娘のかんなは3歳だ。
7月に4歳になる。

かんなは昨日より前の日は全部
「2歳の時」と表現する。
明日のことは「今日寝たら」。
自分に理解できる、というか、
実感できる言葉に置き換える。

「かんなちゃん2さいのとき、
おれがみかいたくて
せいゆうでないちゃったんだよね」

仮にそれがおとといのことであっても、
かんなには2歳の時のことになる。
3歳を全力でいきている彼女にとって、
昨日より前のことなど
遠い過去になるのだろう。
ちなみに、おれがみとは折り紙のことである。

「明日遠足だね」
と僕が言うと
「きょうねたら?」
とかんなは聞く。
「そう、今日寝たら、遠足」
今日寝ないと明日は永遠にやってこないのである。
大人が決めた時間の概念に惑わされない。

長男が3歳の頃とはだいぶおもむきが違う。
長男はとにかく何かを記憶しては披露していた。

「きいろはぎんじゃせん、あおはとうじゃいせん、
ちゃいろはふくとしんせん」
というように地下鉄の路線を教えてくれたり、
1から100まで読み上げたり、
道行くクルマの名前を教えてくれたり。

それにくらべると、
かんなはあきらかに数字に弱い。
「いち、にい、さん、しい、ごお、ろく、
しち、はち、きゅう、じゅう、じゅういち、
じゅうに、じゅうろく、じゅうよん、
じゅうろく、じゅうに!」
と、後半はほぼ12と16のループなのだが、
本人的には「言えた!」
という満足そうな表情なので、
あまりとやかく言わないようにしている。
それでも、ようやく
12まではちゃんと数えられるようになって、
親としてはほっとしている。

数字には弱いが、本は好きで、
よく自分が先生役になり、
壁に向かって読み聞かせをしている。

もちろん字は読めないので、
絵を見ながら話を創作して進めていく。
時々
「さやちゃん、おしゃべりしないよ。しっ!」
と見えないお友達を注意したりする。

「どんな話を読んでるの?」と僕が聞くと
「うさぎさんのごほんだよ。
おんなのこはかわいいおはなしがすきだからだよ」
「そっか。じゃあ男の子はどんな話が好きなの?」
「おとこのこは・・ひとをころすおはなしとか?」

人を殺すお話!
予想外の角度から来た強目のパンチラインに
笑ってしまったが、
たしかに、ヒーローものも鬼退治も
人を殺すお話だ。
女の子から見えている男の子って、
そんな感じなんだろうか。

そんな長男もいまはもう8歳で、
野球を始めたせいで足が臭くて大変なのだが、
背が低いこともあり、
同級生の女の子と並ぶとお姉ちゃんと弟にしか見えない。
そんな長男に、先日突然、
「ねえ、パパ、ひにんするってなに?」と
聞かれ、たじろいだ。
まだ幼いと油断してたけど
もうそんな教育がはじまる年頃なの?
と、メンタルの弱い父はあわあわしたが、
そっちの避妊じゃなくて、
容疑を否認するの「ひにん」だったのでことなきを得た。

かんなは今年の春から
自転車で5分くらいの保育園に通っている。
夕方のお迎えは基本妻がやってくれるのだが、
この前初めて僕が迎えに行った。
するとかんなは
「なんでぱぱがくるの!ままがいい!ぱぱこないで!」
と言って大泣きになった。
「ぱぱがくるからままがこなくなるんじゃん!」
ともう取りつく島もないくらいに嗚咽して泣きじゃくり、
保育園の外に連れ出すこともできない。
それをなんとか
「ビスコがあるから自転車に乗って食べよう」
とビスコを食べさせながら自転車に乗せて
ようやく泣き止んだ。

まだ明るい4月の午後6時。
「せっかくだからサイクリングして帰ろっか」
と、ちょっと遠回りして、
運河沿いの緑道を自転車で走って帰った。
途中、ずいぶん静かになったな、
と思って後ろを見るとかんなはすっかり寝ていた。
ぐずるときは眠いときだというのを思い出した。

翌日、会社の後輩に
「リュックに鳥のフンついてますよ」
と言われてリュックを見たら
確かに白い汚れがついていた。

なんだこれと思ったが、
昨日自転車の後ろで寝てしまった
かんなにつけられた
ビスコまみれのよだれの跡であると気づき、
「そんなに汚くないから引かないで」
と言ったが後輩はあまり納得していなかった。

かんなはもうすぐ4歳。
5度目の夏が来る。



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齋藤陽介から「ひと言」

かんなちゃんシリーズをずっと読ませていただいているので、
いつもこっそりと、僕もかんなちゃんの父親になった気分になっています。
かんなちゃんのお話が届くと、成長がうれしい気持ちと同時に、
どこかさみしい気持ちもこみ上げてきます。
今回は、最後の二行で泣きそうになってしまいました。
女の子とお父さんってだんだん距離ができていくものだと思うけど、
そんな時間を経つつも、この父娘には仲良くいてほしいなと思います。
僕も読み続けたいです。

齋藤陽介

ここで齋藤くんの所属する劇団ホチキスvol.40公演
『ゴールデンレコード』のお知らせです。
6月20日(木)〜6月30日(日) あうるすぽっと

まだチラシができていないそうですが(大丈夫か?)
公演の詳細はこちらでわかります。
https://www.owlspot.jp/events/performance/post_110.html

一般チケットも発売開始しています。
齋藤陽介くん専用ご予約フォームはこちらです。
よろしくお願いいたします (なかやま)
https://ticket.corich.jp/apply/98582/syk/

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いわたじゅんぺい 2018年10月7日「かんな 2018秋」

かんな2018秋

     ストーリー いわたじゅんぺい
       出演 齋藤陽介

娘のかんなは3歳になった。

女子だからかよくしゃべる。
コミュニケーションの生き物
なのだなあと思う。

息子もよくしゃべっていたが、
喋っている内容は
男女でわかりやすく違う。

息子の頭の中は
100%男子なので、
考え方の95%が
「勝ち負け」になる。

たとえばミニカーで遊んでいても、
息子の場合は2台を持って、

さあどっちの方が速いか、
なんとバスが
レクサスを抜いた―――――

などと実況しながら、
抜きつ抜かれつ
延々とレースをしている。
ストーリーの軸は「勝ち負け」である。
クルマに「速い」以外の価値基準はない。

それにくらべると
娘の遊び方は全然違う。
バスのミニカーで遊ぶにしても、

はやくのってくださーい
もういないでしゅかー
しゅっぱつしますよー

と、延々乗客の心配をしている。

その遊び方の楽しさについては、
男の子出身の父には
わかりかねるのであるが、
本人は楽しそうなので
何よりである。

コミュニケーションの
生き物である娘は、
おねだりするのも上手い。

スーパーに買い物に行って、
たとえばキャラメルコーンが欲しくなった時、
「キャラメルコーン買って」
とは言わない。

かんなちゃん なんか
きゃらめるこーんが
たべたくなってきちゃった

と言う。
それはもう不可抗力なのだ、
と言わんばかりに。

そんな感じで、大人の
「もう、しょうがないなあ」
を引き出す能力が高い。

将来好きな人ができても、
「あなたのことが好きになってきちゃった」
とか言って、
簡単にその男を
落としてしまうことだろう。

また、嫌いなものがあっても
「嫌い」とは言わない。
たとえば娘の苦手な
トウモロコシが食卓に出ていると、

かんなちゃん、
とろもろこし
だいすきじゃないの

と言う。
「だいすきじゃないの」
なんて、
ずるいけどうまい断り方だなと
大人の男である父は思う。

将来、告白されても
そんなに好きじゃなかったら
「嫌いじゃないけど、大好きじゃないの」
と言って、
上手にお断りするのだろう。

兄がいたせいで、
男の子のおもちゃでしか
遊んでいなかった娘だが、
最近はぬいぐるみでも遊ぶ。

この前は、
くまのぬいぐるみに

ごはんでしゅよー

と調子よく
ご飯を食べさせていたのだが、
そのくまを突然ぐちゃぐちゃに丸めて、

それをはんばーぐにして
かんなちゃんがたべまーす

とむしゃむしゃ食べ出す急展開。

食とは命の循環。
というようなことでは
もちろんなく、
娘はけらけら笑いながら
むしゃむしゃと
くまさんを食べていた。

グーグルのCMを見れば、
まねして

おっけーぐーぐる
おへやおかたづけして

と言う。
もちろん、
うちにスマートスピーカーは無いし、
片付けるのは僕である。

バウムクーヘンのことは
「ふわふわくっきー」
と言う。
花は全部ひまわり。
コスモスを見ると
「ぴんくのひまわりだねえ」
と言う。

今日は僕が
仕事を終えて帰宅すると、
娘が玄関まで走ってきて、
股間に頭突きし、
「ごっちんこ」
と言った。

無邪気は無敵である。
自覚すれば
計算になってしまうので、
ずっと気づかぬまま
成長しますように、
と父は願っている。

時間が余ったので、
最後に話の流れとは
まったく関係ない
息子の話を。

小学生の息子が
漢字の勉強をしていた時、
月の読み方のところに

つき、
げつ、
がつ、
るな

と書いていた。

キラキラネームはもう
生活に根付いている。

時代は確実に
新しい世代の人間が
つくりはじめている。
と、昭和生まれの
父は思った。

それではまた、
かんな2019春
でお会いしましょう。

映画化やアニメ化のお話も、
お待ちしています。



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齋藤陽介くんの落語集

岩田純平くんのカンナちゃんシリーズを読んでいる齋藤陽介くんは
役者、ナレーターの他に独学で落語もやっています。
偶然ですが、youtubeに3本アップされているのを発見したので
こちらにアップするとともに
本人に落語のきっかけについてひとこと書いてもらいました。
齋藤くんは声もよく通るし、ナレーションはうまいし、
若手ではピカイチだなあと思っていたのですが、
落語までやるとは器用な人だなあ (なかやま)

落語をやるようになったきっかけは、
俳優が落語をやる企画があって、それで始めたんです。
最初は特に興味があったわけではないんですが、
何度かやっていくうちにその面白さにハマっていきました。
で、その経験が生きて、
劇団の公演で落語家を目指すキャラクターをやることになりました。
劇中で、ちょっとした落語をやるシーンもあったんですが、
劇場という枠を飛び越えて、
このキャラクターで落語やっちゃおう!と思い立ってやったのが、この独演会です。
師匠もいないので完全に独学ですが、
これからも細々と続けていけたらなと思っています(齋藤陽介)

寿限無

初天神

芝浜

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