横澤宏一郎 2016年7月24日

1607yokosawa

「映画禁止法」

      ストーリー 横澤宏一郎
        出演 地曵豪

突如、映画禁止法なるものが出た。
正確には、「映画等私的映像作品の上映及び鑑賞を禁ずる法律」
と言うらしいが長ったらしいので、
みんな映画禁止法と呼んでいる。

じつは、いまの総理大臣が大の映画嫌いらしい。
「キューブリックはね」とか
「テレンス・マリックってさ」とかの知識の話から、
「あのシーンどう解釈する?」みたいな、
映画に詳しくない人の人権を1ミリも考慮しない排他的な会話に
ほとほと嫌気がさしたらしい。
某外国の大統領に大の映画好きがいて、
黒澤映画すら見たことのなかったいまの総理はたいそう恥をかいたそうだ。
それが最後の引き金になった。
自分の国の有名監督くらい押さえておけよ!と言いたくもなるのだけど。

まあいい。
とにかく映画館で観ることも、上映することも、
家でDVDや配信で観ることも禁止になった。
ドラマばっかりで全然映画なんて観なかったくせに、
いざ禁止ってなると観たくてしょうがない。
友人にそう話したらまったく同じことを言ってて、
それなら観に行こう!ってことになった。
こっそり上映している映画館があるらしい。
闇上映ってヤツだ。人間は禁止されるほど抜け道をつくる。
禁酒法なんかもそうだったよな。

その闇上映は横浜のある倉庫の中で行われた。
体育館までは大きくないものの、まあまあ大きい倉庫で、
パイプ椅子がところ狭しと並べられていた。
どこから聞いたのか結構観客もいて、
僕と友人は並んで座ることができなかった。
ポップコーンやコーラまで売っていて、
とても禁止令下の上映とは思えない雰囲気だった。

上映作品は「華氏451」という1966年のイギリス映画だった。
それは本の所持や読書を禁じる架空の社会を描いたもので、
まさにいまの映画禁止令の世の中と同じだった。
ああ、そうそう俺たちも禁じられたものを見てるんだな、
なんて思っていたら、エンドロールのときに後方がざわざわしてきた。
警察が踏み込んできたのだ。この闇上映の情報が漏れていたわけだ。

だけど、なぜか僕らは全員逮捕されずに帰してもらえた。なぜか?
その闇上映に総理大臣がこっそり来ていたらしい。
それも例の映画好きの大統領に連れられて。
それを見つけた警察がみんなを捕まえないことで
総理と大統領を守ったというわけ。
命拾いして助かったんだけど、
同時に法律ってなんなんだろうなって思ってしまった。

という映画のシナリオを僕はいま執筆中だけど、この番組をお聞きの皆さん、
観たいと思いますかね。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html

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横澤宏一郎 2014年7月20日

オレンジ        

     ストーリー 横澤宏一郎
        出演 齋藤陽介

「夕方をなくします」
誰が言い出したかも忘れたけど、
知らないうちに世論もその意見に概ね賛成ってことになっていた。
反対する人の声は消されていった。
そして夕方はなくなった。

昼と夜の間に余計な時間はいらない、
そんな中途半端な時間があるせいで
子どもたちはダラダラ遊んでしまうし、
家にもなかなか帰ってこない。ごはんの時間も安定しない。
そしたら宿題する時間もなくなってしまうではないか。
だから夕方なんていらない。
そんな、どこぞの主婦団体の無茶苦茶な主張が発端だった。
思い出した。
それに教育団体も乗っかって、
そしたらお役所も支援とかしだして、
もう本当にそういうもんなの?なんて言えない空気すら
出来あがってしまっていた。
プロパガンダってこういうもんなんだなって、
思ったことは覚えている。
そうだそうだ、すっかり思い出した。
思い出したくないことも。

そのときボクは結婚の約束までしていた彼女と別れたばっかりで、
人生で初めて仕事もずっと休んでしまっていた。
友達に会うこともなく、ひとり家にこもって
飲んだこともなかったウイスキーを
無理矢理飲んでは吐くという毎日だった。
なにが言いたいかというと、
そのときのボクの記憶は曖昧だってことだ。
まあそもそも忘れやすいのだけど。
でもいま思い出した。なんでだろう。

話を戻す。
その年の7月1日に夕方がなくなった。
午後6時が昼と夜の境として決められた。
7月なんて夏の6時は、いままではまだまだ明るかったけど、
その日は急に暗くなった。これには正直ビックリした。
回覧板でも七月一日から夕方がなくなりますって
ちゃんと告知されてたけど
半信半疑でいたから、誰もいない部屋で、
国もやるなあって口にしながら、
夜になったしとウイスキーの瓶に手を伸ばした。
あの日はなぜか全然酔えなかった。
あれ、完全に思い出したな。

でも、すぐに夕方は帰ってきた。
それもビックリするくらいあっさりと。
昼と夜だけでは何かが足りないとみんな気づいたからだ。
ボクは最初から反対だった。
だって、あのオレンジ色に染まる空がなくなってしまうんだから。

やっぱり人間っていいな。
ベランダで、夕方を楽しみながらグラスを傾けた。

出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属


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