がんばれ線路
ここに線路があれば、と思うことがある。
線路をつくってあげたいと思うことがある。
むかし松江で出会った女子高生は
学校の近くの船着き場まで
毎朝自転車を2時間こいでくる。
そこから自転車ごと渡し船に乗って向こう岸に渡り
さらに10分自転車をこいでやっと校門をくぐるのだ。
一日4時間も自転車をこいでいたら
テストの成績が悪くても誰も怒らないでしょ。
そんな風にたずねてみた。
そんなことないです、怒られます、
女の子はムキになって返事をした。
船着き場には次々に自転車の高校生がやってくる。
小さな渡し船はひっきりなしに往復してみんなを運んでいた。
僕はちょっと心配になる。
雨の日はどうするんだろう。どうやって自転車に乗るのだろう。
その雨のせいで風邪をひいたときは?
僕はこんな子に線路をあげたい。
屋根のついた列車を走らせて
家の近くに駅をつくって学校まで送ってあげたい。
線路は約束だから
決まった場所から決まった場所へ
人と荷物を確かに運びますと線路は約束している。
宍道湖の北を走る一畑電鉄、通称「ばたでん」は
昼間乗るとガラガラに空いている。
僕のお父さんが子供だった時代からの赤字列車で
それでもなくならないのは
クルマを運転できないお年寄りや
学校へ通う子供たちのために必要だからだ。
この線路がなくなると
自転車で2時間かけて学校に通う子供が
またたくさん増えてしまう。
おばあちゃんは病院へ通えなくなってしまう。
だから地元の人たちは
「ばたでん」がなくならないように一生懸命お願いをしている。
そういえば岩手の三陸鉄道は
やっと全線復旧の見通しが立ったらしい。
流された駅やずたずたになった線路の写真を見るたびに
もうダメかと何度もあきらめかけたけど
震災のあとたった5日で
走れる区間だけでもと列車を走らせ、人や物資を運んだ気迫が
みんなの心に響いたのだ。
がんばれ線路、と僕は思う。
線路はひとつの約束だと思う。
町と町、人と人を結びますと胸を張って宣言しながら
がんばれ、線路。