「9枚と1枚の写真」
ストーリー 西島知宏
出演 清水理沙
12月24日クリスマスイブ、私のハタチの誕生日は残業で終わった。
なんで誕生日に残業しないといけないんですかぁ」
SE:ピロリロリン(携帯のメール着信音)
誰?」
LINEで画像が届いていた。
な、何これ・・」
10年前病気で他界した母のヒツギに入れた、
母が写った10枚の写真の1枚目だった。
写真嫌いだった母の、珍しく笑った写真。
どうして?」
使い捨てカメラで撮った写真。ネガもデータもなかったのに・・
プロフィールを確認した。私と同じ名前「優子」と書いてあった。
私?
SE 携帯操作音
「どうしてこれを持ってるんですか?」
メッセージを送ることにした。
SE:ピロリロリン(携帯のメール着信音)
届いたのは私が「内緒だよ」と言わんばかりに
カメラに向かって鼻に人差し指を添えてる写真だった。
棺に入れた10枚の大好きな写真の2枚目だった。
何これ・・。写真を持ってるか内緒、そういう意味?
SE メールの操作音
「あなたは一体誰?」
送信…
返信はなかった。時計の針は24時を回り、翌日になっていた。
× × ×
その不思議な誕生日以降何度も、
写真の差出人にメッセージを送ったが、返事は来なかった。
不可解だとは思いながらも、
私は次第に仕事の忙しさに紛らわされ、
「妹のイタズラだろう」くらいに、その日を忘れるようになっていた。
次の誕生日を迎えるまでは・・。
× × ×
翌年の誕生日、高校の同級生と居酒屋で飲んでいる時だった。
SE:ピロリロリン(携帯のメール着信音)
まただ
母のヒツギに入れた大好きな10枚の中の3枚目、
1歳の誕生日に
私がバースデーケーキのろうそくを吹き消しているものだった。」
友達と別れて妹に電話した。妹のイタズラかどうか確かめたかった。
SE:プルルルル「留守番電話サービスに接続致します」
妹じゃないのだろうか。
SE メール操作確認音とともに):
「あなたは一体誰?」
送信・・
返信はなかった。時計の針は、また24時を回っていた。
× × ×
つぎの誕生日も、そのつぎの誕生日も、
毎年1枚づつ、母の棺に入れた大好きな10枚の写真が
重ねた順番に届くようになった。
私は、1年に1枚のその写真を楽しみにするようになっていた。
イタズラかもしれない。だけど・・。
毎年誕生日にくる一枚の、メッセージのない写真。
その素っ気なさがシャイだった母の行動にも思えた。
× × ×
29回目の夏、母が他界した年に付き合い始めた彼氏が去っていった。
涙で目の前が見えなかった。
母の変わりに私のそばにいてくれた彼。
かけがえのない存在がまた、私の前から消えた。
気がついたら私は、
毎年誕生日に、順番に送られて来た9枚の大好きな写真を眺めていた。
そして・・誕生日じゃない、帰ってこないのはわかってるけれど、
辛くて、あの差出人にメッセージを送った。
「ママ、死にたいよ、ママの所に行っていい?」
SE:ピロリロリン(携帯のメール着信音)
10枚目に重ねた写真だった。
最後の写真。それは大好きな写真じゃなく、大っ嫌いな写真だった。
裏山の用水路で遊んでいた私を母が叱りつけている写真。
父が隠し撮りしたものだった。
大っ嫌いで持っていたくなかったから、最後に入れた写真だった。
SE:ピロリロリン(携帯のメール着信音)
SE:ピロリロリン(携帯のメール着信音)
SE:ピロリロリン(携帯のメール着信音)
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何枚も、何枚も、同じ写真が届いた。
何枚も、何枚も、何枚も、私が怒られていた。
わかったよ、死んじゃだめなんでしょ、わかったよママ。」
9年前届いた一枚の写真。
それは、この日が来る事を知っていた母の、
計画の始まりだったのかも知れない。
出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/