熊埜御堂由香 09年9月6日放送
あの人の食 森鴎外の秘密
家庭の中だけの、ちょっとマニアックな食の嗜好、
ひとつやふたつ、ひとにはあるものだ。
硬派な文豪、森鴎外の場合は・・・
ご飯に饅頭を割って載せ、煎茶をかける、饅頭茶漬け。
饅頭茶漬けは門外不出の家庭の秘密だったけれど
鴎外が死んだ後、
娘が書いたエッセイで世に知れわたってしまった。
お汁粉のようでおいしい、と娘は書いているが
天国の鴎外先生はどんな顔をしているだろう。
あの人の食 父と娘の台所
幸田文(あや)は自分を「台所育ち」だと言った。
幼いころに母をなくし、
父、幸田露伴が家事全般を躾けた。
その台所仕事の手始めは、
文が7歳の頃から毎日の献立を記録する「だいどころ帖」
文が「とうふのおみよつけ」と、たどたどしく書けば、
露伴は、「味噌汁 つかみどうふ もみのり散らして」と
一言一句、きびしく直す。
露伴は文に言った。
この帳面から音が聞こえてくるようにならなくちゃね
女学校に入って台所をあずかるようになった文は、
献立に迷うと、かつてつけていた「だいどころ帖」を何度も思い返した。
父の死後、文は食を題材にした小説やエッセイを数多く残したが
そのひとつにこんな短編がある。「台所のおと」