中村直史

中村直史 18年1月20日放送

180120-01

寒さの季節に 中村草田男

きんと澄み切った空気。
見上げれば輝く星。

昭和の俳人中村草田男(なかむらくさたお)は
そんな冬の夜の星を
寒い星と書いて寒星(かんせい)と詠んだ。

 寒星(かんせい)や神の算盤(そろばん)ただひそか

冷え切った夜。
きらめく星。
不変のリズムで動き続ける天体。
空を見上げ、立ちすくむ私。
人知を超えた
はるかな時間が、
寒々と広がっている。

 寒星(かんせい)や神の算盤(そろばん)ただひそか

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三島邦彦 18年1月20日放送

180120-02

寒さの季節に 西郷隆盛と黒田博樹

西郷隆盛は晩年、
親戚の青年に
こんな言葉を贈った。

 雪に耐えて梅花(ばいか)麗し

梅の花の美しさは、
雪降る寒さを耐えた先にある。
この言葉、
100年の時を経て、
一人のプロ野球選手の座右の銘となった。

元広島カープ、黒田博樹投手。
高校時代は控え投手だったが
大学で力をつけ広島に入団。
低迷期にあったチームを支え、
メジャーリーグに挑戦。
そして再び古巣に戻り、
日米通算200勝という大きな花を咲かせた

 雪に耐えて梅花(ばいか)麗し

今日は大寒。
梅の季節はゆっくり近づきつつあります。

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三島邦彦 18年1月20日放送

180120-03

寒さの季節に ロバート・リンド

人は眠りから起きるときに
体温が上昇する。
冬の朝の目覚めにくさは、
体がなかなか温まらないことも
関係しているという。

20世紀前半の
イギリスで活躍したエッセイスト、
ロバート・リンドは
「冬に書かれた朝寝論」という
エッセイでこう書いている。

 私の経験からすると、
 仕事を怠けたいという気持ちは、
 気温が下がるのに比例して強くなると思う。

今日は大寒。
無理せず
のんびりお過ごしください。

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三國菜恵 18年1月20日放送

180120-04

寒さの季節に 後藤正文

あの日も寒かった。
東京にいる自分は何もできなかった。

今でも震災後の無力感を思いだす。
ミュージシャン、後藤正文はそう呟く。

たとえ何もできなくても、
何かしたいという小さな想いを持ち寄れば、
「何か」に辿りつけるんじゃないか。

そう考えて、未来を語る言葉を集めることにした。

中世ヨーロッパの吟遊詩人達は、
さまざまな国を渡り歩いて情報を伝達する
新聞のような役割を担っていた。
音楽家である自分がその役割を再現できるんじゃないかと考えた。

未来を考える誠実な声が、ひとつふたつと集まってくる。
紙に刷って、無料で配り歩いた。
新聞の名前は『The Future Times』。
未来とは、わたしたちの声である。

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三國菜恵 18年1月20日放送

180120-05
NanakoT
寒さの季節に 月山志津温泉

出羽三山へつづく道へ車を走らせる。
6mの雪壁をくぐり抜けると、
雪でできた旅籠がぼんやりと光っている。

幻想的な風景が人気の、
山形県にある月山志津温泉。

江戸時代に宿場町だったこの街の風景を
雪で再現できないかと
若者たちが試したのがはじまりだった。

雪旅籠をつくるルールはひとつだけ。
雪を無理やり積み上げるのではなく、
初雪の頃から自然に積もった雪を掘り込んで形づくること。

雪旅籠の街並みは、2月が終わりに近づく頃に10日間だけ現れて消える。

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三島邦彦 17年10月28日放送

171028-01
Arturo Espinosa
よりよき世界の破片たち ミヒャエル・エンデ

この作品で伝えたいメッセージは何ですか?

作家や映画監督をはじめ、
あらゆるアーティストを悩ませるこの質問。

『モモ』や『はてしない物語』で知られる
小説家ミヒャエル・エンデは、
作品の意味を問う大人の読者からの手紙にこう答えた。

 よい詩とは、世界をよりよくするためにあるのではありません。
 その詩そのものが、よりよき世界の破片(かけら)なのです。

 
そこにあるものを、丸ごと味わうこと。
エンデの本の最も熱心な読者である子どもたちには
自然とできていることかもしれません。

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三島邦彦 17年10月28日放送

171028-02

よりよき世界の破片たち オスカー・ニーマイヤー

ブラジルの高級住宅街。
広い庭で空想のスケッチを
楽しんでいた少年はやがて、
104歳まで現役を貫いた伝説の建築家となった。

オスカー・ニーマイヤー。
若き日に現代建築の巨匠ル・コルビジェとともに設計した
国連本部ビルをはじめ、
首都ブラジリアの都市計画など、
その100年を超える人生、
80年を超える建築人生は、
最後まで情熱が絶えることはなかった。

『ニーマイヤー 104歳の最終講義』
という本で、彼は人生についてこう語る。

 人生は一瞬だ。
 それゆえに私たちは学ばなければならず、また、
 礼儀正しくそこを通過しなければならない。

誰よりも学び、誰よりも礼儀正しかった建築家。
そして、その生涯を終えるまで
空想のスケッチを楽しむ心を
忘れなかった人だった。

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中村直史 17年10月28日放送

171028-03
whologwhy
よりよき世界の破片たち 橘曙覧

江戸時代に生きた歌人、
橘曙覧(たちばなのあけみ)。

短歌の伝統といえば、
花鳥風月を歌に詠むこと。
けれど橘曙覧は、
日々の何気ない「たのしみ」を歌にした。

 たのしみは妻子(めこ)むつまじくうちつどひ頭(かしら)ならべて物をくふ時
(たのしみは、妻と子が仲良く集まり、頭をならべてごはんを食べる時)

 たのしみは朝おきいでて昨日まで無かりし花の咲ける見る時
(たのしみは、朝起きて、昨日まで咲いてなかった花が咲いているのを見た時)

 たのしみは心をおかぬ友どちと笑ひかたりて腹をよるとき
(たのしみは、気がねない友だちと語り、笑いあって、お腹をよじるとき)

何百年もたって、インターネットにAIと
社会はずいぶん変化したけれど、
人が「いいなあ」と思う対象って、
そんなに変わらないのかもしれません。

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三國菜恵 17年10月28日放送

171028-04

よりよき世界の破片たち 伊藤菜衣子

注文の多い夫と暮らして
日々のありかたを模索するうちに、
これは冒険なんじゃないかしらと気づいた。

暮らしかた冒険家・伊藤菜衣子(いとうさいこ)。
これまでの暮らしの常識を見直し、
これからの暮らしかたとは何かを探っている。

夫婦で住む場所を探す旅にでて、
たどりついたのは北海道の地だった。
DIY を繰り返していくうちに、断熱性と気密性の高い、
リノベーションハウスができあがった。

2040年には、日本の40%が空き家になる。
「ないものねだりより、あるものみっけの暮らしかた」
そういう感覚がこれからきっと大事になると伊藤は語る。

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三國菜恵 17年10月28日放送

171028-05
zacktionman
よりよき世界の破片たち 森栄喜

LGBTという言葉がうまれるずっと前から、
男と男の愛情も、女と女の愛情も、普遍的にそこにあった。

でも、いまの自分はまだセクシャルマイノリティ。
そう公言する写真家・森栄喜(もりえいき)は、
写真を通じて、家族とは何か、恋人とは何か、
社会に問いを立ててきた。

森は、時に、街の人にもシャッターを押してもらう。
ウエディングドレスを思わせる
白い衣装に身を包んだ男性二人を、
商店街の通りすがりの、老夫婦が撮る、小学生が撮る。

そこには森と、パートナーの、くったくのない表情がきざまれる。
世界が変わることは、私達が変わることだと、その作品は教えてくれる。

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