中村直史

三島邦彦 13年12月22日放送


HAMACHI!
クリスマスに人々は 林真里子

クリスマスイブの夜、
作家の林真里子の家に、多くの女性たちが集うという。

一人一皿料理を持ち寄り、
酔いが回ればみんなで「きよしこの夜」を歌う。
異性と過ごすばかりがクリスマスではない。
若い時には考えもつかなかった、
大人の女性のクリスマス。
恋愛という束縛からの解放を、林真里子はこう語る。

自分で稼いで、一本のワインを気がねなく買うことが出来る。
そして気に入った仕事と気に入った女友だちを何人か持っていれば、
年をとっていくことも捨てたもんではない。
我ながら意外なほど、充実した日が待っている。

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中村直史 13年12月22日放送


E01
クリスマスに人々は サンタ・クロース

クリスマスが、
ロマンチックでステキなものだとすれば、

それは、だれかが
クリスマスの裏方としてがんばっているからだ。

道端に立ってケーキを売る人。
街にイルミネーションの飾り付けをする人。
レストランでおいしいディナーをつくる人。

きわめつけは、あの人だ。
雪が舞い、北風吹きつける冬の夜空を
何十時間も飛びつづけ、
一軒一軒煙突から降りるという、
過酷極まりない仕事をするあの人。
しかも、毎年遅刻することなく、きっちり仕事をやりとげる。

サンタ・クロースさん。
あなたにこそ
メリークリスマス。

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中村直史 13年12月22日放送


iyoupapa
クリスマスに人々は レイモンド・ブリッグス

サンタさんは
ニコニコしながら
プレゼントを配っている。
というのは偏見かもしれない。

絵本作家 レイモンド・ブリッグスが描いたのは
寒がりで
めんどくさがりで
かんしゃく持ちのサンタ・クロース。
12月24日の日、ベッドから憂鬱そうに起き上がった彼はつぶやく。

 やれやれ、またクリスマスか!

悪態をつきながらも
仕事だからしょうがないと
世界中をかけめぐり、煙突の中でまっくろになり、プレゼントを配り
ヘトヘトになって自宅にたどりつく。
そして、ひとり傾けるワインにようやく少しだけ笑顔になる。

なんだか、私たちみたいじゃないか。

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三國菜恵 13年12月22日放送


Ömer Ünlü
アーヴィング・ヴァーリン

I’m dreaming of a White Christmas.

クリスマスソングの定番『ホワイト・クリスマス』。

白く、ほわほわとした雪が、ゆっくりと降りてくる光景が
自然と浮かんでくるあのメロディは、
実は、太陽がさんさんと輝く、ロサンゼルスで生まれた。

作者は、アメリカのシューベルトとも言われたアーヴィング・ヴァーリン。
1942年に上映されたミュージカル映画
『スイング・ホテル』の中の一曲として書き下ろされた。

始まりは、こんな歌詞。

 ここは太陽の輝くビバリー・ヒルズ、
 オレンジとパーム・ツリーが風に揺れ、草は緑に揺れる。
 でも、今日はクリスマス・イブ。
 北へ行きたい。雪降り積もる銀世界のクリスマスに出逢いたい。
 私は雪のクリスマスを夢見る。

真っ白な雪景色を前に、この歌は書かれていない。
雪の見えない場所で書いたから、
どの場所で暮らす人にも、真っ白な雪景色を想像してもらえるのだろう。

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三國菜恵 13年12月22日放送


maaco
クリスマスに人々は 谷川兵三郎

ケーキの上で、テーブルの上で、
クリスマスムードを盛り上げてくれる、ローソク。

たくさんのローソクを届けている老舗メーカー
『カメヤマローソク』の創始者
谷川兵三郎(たにかわひょうさぶろう)は、
ある日、宮大工を辞めて、ローソクをつくろうと決意した。

「神に仕える仕事を」

ゆらゆらとゆれる灯りは、たしかに、
神様とちょっとつながれそうな気持ちにさせてくれる。

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三國菜恵 13年12月22日放送


noiseburst
クリスマスに人々は パラダイス山元

日本にたった一人、
サンタの国、グリーンランドから
サンタ日本代表として認められた人がいる。

パラダイス山元。
彼の一年は、せわしい。
なぜなら、毎年7月、「世界サンタクロース会議」に参加すべく、
夏から準備をはじめているのだ。

彼はおちゃめにこう語る。

成田や羽田空港で、
季節外れのサンタクロースを見かけたら
「HoHoHo~」と手を振ってあげて下さいね

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三國菜恵 13年11月16日放送


Phil and Pam
カメラの裏には 藤岡亜弥

写真家・藤岡亜弥。
彼女は20代のある日、旅に出た。
正確には、カメラを片手に、やっと外へ出た。

彼女は俗に言う、ひきこもりだった。
部屋にこもり、犬をかわいがるだけの生活をしていた。

けれどもある日、
彼女をずっと受け入れてくれていた犬がこの世を去る。
それを機に彼女の特異すぎる日常も終わり、
ようやく扉の外へと目を向けたのだった。

部屋を出て、国境を越えて、遠くエストニアの地に降り立つ。
片手にはカメラ。日本とちがう冬。
吐く息に彼女のめがねは曇り、こんなことを思ったという。

 世界はぼんやりとうつくしく見えた。
 はじめて、孤独の至福を味わった。

となりに誰もいなくても。
あたたかい犬がいなくても。
カメラという機械があれば、
人間は孤独を至福に変えることだってできるのだ。

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三島邦彦 13年11月16日放送


wwwuppertal
カメラの裏には 畠山直哉

ドイツのルール工業地帯の一角にアーレンという町がある。
産業の中心であった炭鉱が閉鎖して活気を失ったこの町で
炭鉱施設の一部取り壊しが決まった時、
一人の写真家が日本から呼ばれた。

写真家の名前は畠山直哉。

壊されてしまう前の姿を記録しておきたいという願いを受けた畠山。
未来の人々が懐かしむための写真を撮りながら、
彼の頭に一つの考えが浮かんだ。

 いっそ「記録」は過去ではなく、未来に属していると考えたらどうだろう。
 そう考えなければ、シャッターを切る指先に
 いつも希望が込められてしまうことの理由が分からなくなる。

そして私たちは
記録には未来の視点が必要なことに気づくのだ。

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三島邦彦 13年11月16日放送


poppet with a camera
カメラの裏には ロバート・キャパ

伝説の報道写真家、ロバート・キャパ。

23歳の秋にスペイン内戦の戦場で
民間兵が銃撃を受けて倒れる瞬間を撮影した一枚は、
「崩れ落ちる兵士」というタイトルで発表され、
戦争を象徴するイメージとして
ピカソの「ゲルニカ」と並び称された。

ある日、新聞記者がキャパに「崩れ落ちる兵士」を撮影した時のことを聞くと、
キャパはこう答えた。

 戦争なんて嫌だ。思い出すのも嫌だ。話をするのも嫌だ。

誰よりも戦争を嫌いながら、誰よりも戦場に足を向けたキャパ。
彼が残した写真は今も、彼の代わりに戦争を語り続けている。

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中村直史 13年11月16日放送


Dominic’s pics
カメラの裏には 山下祥一

セルフタイマーをセットする。
シャッターをおす。
カチ、
ピ、
ピ、
ピ、
ピ、
ピ、
パチリ。
そのピピピの時間に物語がある。
そう気づいた写真家がいる。
セルフタイマー写真家、山下祥一。
高い崖の上から川へダイブしている写真。
電車の中でコタツを囲んでいる写真。

切りとられた瞬間にいたるまでの10秒間を
私たちは想像してしまう。
ダイブの前はお祈りしたのだろう?
電車の乗客はびっくりしたのだろうか?

その写っていない映像に、見る者はまいってしまう。

セルフタイマーに魅せられた男。
つぎは、どんな物語を見せてくれるか。

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